記事一覧:野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く376件
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野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
ビットコインを認めた ゴールドマン・サックス
2015年7月11日号アメリカの大手金融機関は、これまでビットコインに懐疑的だった。例えば、投資銀行のゴールドマン・サックスは、2014年3月の報告書で、「ビットコインは通貨ではない。その信奉者は頭を冷やして出直すべきだ」と、否定的な見解を表明した。ところが、15年3月の報告書では、評価を一転し、ビットコインの非中央集権的な仕組みは革命的であると認めたのである。
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日本が中国並みになる 回避には何が必要か?
2015年7月4日号経済学に「要素価格均等化定理」という仮説がある。これは、「異なる国の生産技術が同じであれば、その技術を用いて生産された製品が自由貿易されることによって、貿易できない土地や労働などの生産要素の価格も国際的に均等化する」という定理である。移民などによって労働力の国際間移動が生じる場合に賃金平準化が起こるだろうことは、容易に想像できる。しかし、生産要素が実際に国境を越えて移動しなくとも、生産物が移動することによって、それと同じ結果がもたらされるのだ。
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土地利用を成長型から シニア型に転換せよ
2015年6月27日号現在の日本には、空き家が総住宅数の1割を超える規模で存在する。高齢化の進展などにより、空き家率は将来さらに高まる可能性がある。空き家を放置すれば危険なので、撤去の必要性が指摘されてきた。2014年11月に成立・公布され、15年5月26日に全面施行された「空家等対策の推進に関する特別措置法」は、一定条件を満たす空き家を自治体が「特定空家」に指定し、所有者に解体や修繕などを勧告・命令できる権限を与えた。命令に応じない場合は、自治体が取り壊し、費用を所有者に請求する。
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設備投資国内回帰に 含まれる二つの問題
2015年6月20日号財務省が発表した2015年1~3月期の法人企業統計の特徴は、売り上げや経常利益が目立って増加しない半面で、設備投資がかなり増加したことだ。金融業と保険業を除く全産業の設備投資額の前年同期比は、7.3%増となった。増加は8四半期連続だ。製造業は6.4%増で3四半期連続のプラス。非製造業は7.8%増となった。大企業だけでなく、中小零細企業の設備投資も伸びているのが特徴だ。
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物価上昇で消費減少 原油価格下落で増加
2015年6月13日号2014年度の実質GDP成長率はマイナス1.0%となった。マイナス成長は、リーマンショック直後の09年度以来のことである。しかも、政府が目標としていたマイナス0.5%よりも落ち込みが激しかった。マイナスの経済成長をもたらした原因として、通常次のことが指摘される。第1は、住宅投資が対前年度比マイナス11.6%となったことだ(寄与度はマイナス0.4%ポイント)。これは、消費税増税前の駆け込み需要が消滅したためだ。
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新ビジネスの実現には 参入規制の緩和が必要
2015年6月6日号Uber(ウーバー)というタクシー配車サービスが注目を集めている。スマートフォンに入れたアプリに行き先を入力すれば、タクシーを呼べる。到着時間や料金の目安もあらかじめ分かる。支払いはクレジットカードで行われる。私が注目したいのは、運転手の評価ができることだ。タクシー運転手のあまりに非礼な態度に、「何とかならないものか」と考えていた人は、私以外にも大勢いるだろう。
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日本で全く不十分な リスク挑戦の金融支援
2015年5月30日号前回述べたように、アメリカのIT革命においてベンチャーキャピタルが重要な役割を果たした。アメリカの新しい産業は、ベンチャーキャピタルによって切り開かれたといえる。IT革命の初期の段階で重要な役割を果たしたベンチャーキャピタルとして、次のものが有名だ。
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新産業誕生に必要な 金融・労働市場とは
2015年5月23日号アメリカの経済成長率は、先進国の中ではずばぬけて高い。この結果、前回見たように、1人当たりGDPで見て、アメリカは日本より5割程度豊かな社会になっている。アメリカ経済の成長をけん引しているのは、新しい産業であり、新しい企業である。古くからの伝統的企業が成長しているわけではない。2005~13年の間に、製造業の就業者は15.8%減少した。自動車産業では25.2%もの減少だ。
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日本経済の動向を ドル表示で見れば
2015年5月16日号日本の経済変数をドルで表示すると、普段見ているのとは違う姿が見える。例えば、GDPの変化だ。日本の名目GDPは、リーマンショックで落ち込んだ後、2012年からは増加した。14年の値は、11年より3.5%増えている。ところが、ドル表示では、まったく違う姿になる。すなわち、12年がピークであり、それ以後はかなり顕著に減少しているのだ。14年の値は、11年より21.8%も減少している。国際通貨基金(IMF)による15年の推計値は、28.7%の減少だ。
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売上高が減少するため 設備投資が減少する
2015年5月2日号異次元金融緩和が始まってから2年たつ。その評価は、物価や株価がどうなったかではなく、設備投資がどうなったかでなされるべきだ。設備投資についての実際のデータを見ると、次の通りだ。
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マイナス成長傾向から 抜け出せない日本経済
2015年4月25日号このところ、さまざまな経済指標が悪化している。まず、輸出が落ち込んだ。2015年2月の輸出は5.9兆円となり、1月に比べて3.3%の減少だ。14年10月に比べると、11.2%も減少している。輸出数量で見ると、2月の指数は85.7であり、1月の86.3に比べると、0.7%の減少だ。これは、対中輸出が春節(旧正月)の影響で1月の1.0兆円から2月の0.9兆円へと14.7%も落ち込んだことの影響が大きい。その意味では特殊要因によるものだ。
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期待で資産価格のみ 変化させた異次元緩和
2015年4月18日号2年前の2013年4月に日本銀行が導入した異次元金融緩和措置は、人々の期待を変化させることによって実体経済を好転させることを狙いとした。そして、それを2年程度の期間において実現させるとした。では、2年たって、その目的は達成されただろうか?結論を言えば、為替レートと株価に関する期待を変化させて、円安と株高を実現した。しかし、消費者物価に関する期待を変化させることはできなかった。実体経済においては、(原油価格の値下がりが生じるまでの期間では)消費者物価の上昇によって実質所得が減少し、実質消費が減少することになったのである。
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春闘によって賃金は どれだけ上がるか?
2015年4月11日号今年の春闘における賃上げ率は、2.5%程度と、昨年を上回る率になるとみられている。これが経済の好循環をもたらすことが期待されている。結論はその通りだ。ただし、幾つかの注意が必要だ。まず、春闘賃上げ率は、経済全体の賃金上昇率とはかなり違う。以下では、毎月勤労統計調査における賃金指数(5人以上の事業所の現金給与総額)を経済全体の賃金の指標と考えよう。2014年におけるこの値を円高期であった10年の値と比較すると、意外な姿が見える。
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プラザ合意から30年 その間に生じた日米差
2015年4月4日号30年前の1985年9月、「プラザ合意」という国際的な取り決めが行われた。これは、ドル高によってアメリカ自動車産業が苦境に陥ったのを助けるため、国際的な協調介入によって為替レートをドル安に導こうとするものであった。このとき重要な役割を期待されたのは、日本と西ドイツだった。円高とマルク高を実現し、かつ両国が需要喚起策を取って世界経済の「機関車」の役割を果たすことが求められたのである。
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実質賃金引き上げのため インフレ目標の撤廃を
2015年3月28日号物価上昇率が低下している。消費者物価(生鮮食品を除く総合)の対前年増加率は、消費税の影響を除くと、2014年10月以降1%を割り込んでおり、12月には0.5%、15年1月には0.2%となった。これは、円安の進行が止まったために、輸入物価指数の伸び率が低下したからだ。円建ての輸入物価指数の対前年増加率は、13年5月から14年1月までは2桁だったが、14年2月からは1桁になった。その後、原油価格の低下のため輸入物価指数の対前年増加率はさらに低下し、14年12月には0.3%になり、15年1月にはマイナス6.7%になった。
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円安による株高から 取り残される小企業
2015年3月21日号2014年夏まではほぼ一定であった株価が、秋ごろから上昇に転じ、日経平均株価は07年のピーク値を超えた。その背後には、好調な企業業績があるといわれる。しかし、企業業績の動向を見る際には、幾つかの注意が必要だ。第1に、製造業と非製造業では利益の動向がかなり異なるので、これらを区別する必要がある。第2に、比較する期間に注意する必要がある。現在の企業利益の水準を比較する際、リーマンショック前のピークと比較するか、あるいは10~13年ごろの円高期と比較するかで、かなり様子が異なるからだ。
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原油低価格時代の 経済政策に転換せよ
2015年3月14日号1980年代に「逆石油ショック」があった。80年代初頭に1バレル=40ドル近くまで高騰し、86年初頭にも30ドル近い水準だった石油価格が、半年間で10ドル程度にまで暴落したのである。その後、石油価格は高騰することなく、99年まで15~20ドル程度で推移した。低い原油価格が続いたことは、石油輸入国に大きな経済的利益を与えた。インフレが抑制されて経済成長が促進され、国際収支も改善したのである。特に日本では、効果が大きかった。それは、原油価格低下に加え、次の二つの条件があったからだ。
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消費者物価が下落して 経済成長率がプラスに
2015年3月7日号消費者物価指数は、2014年11月から下落に転じた。生鮮食料品を除く総合で見ると、11月、12月共に、対前月比がマイナス0.2%となっている。消費税の影響を除く対前年比は、11月が0.7%、12月が0.5%だ。このため、家計調査における勤労者世帯の実質実収入の対前年比のマイナス幅が縮小し、実質消費支出が増加に転じた。季節調整済み実質指数は、8月の92.1をボトムとして増加し、12月には96.4となった。
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ピケティが描く経済は 法人統計でも見られず
2015年2月28日号トマ・ピケティが『21世紀の資本』で描き出した姿は、日本にも当てはまるだろうか? 前回は、GDP統計のデータを中心として、それを検証した。結論は、「資本所得の比率αの上昇」と「資本収益率rがあまり変わらない」というピケティの中核的な主張は、日本では確かめられないということである。今回は、法人企業統計のデータを用いて、同じ点に関する検証を行ってみよう。
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日本では成立しない ピケティの格差理論
2015年2月21日号トマ・ピケティは、『21世紀の資本』で、幾つかの簡単なマクロ変数の関係で所得の格差現象が説明できるとした。この議論は大きな反響を呼んでいる。しかし、日本では彼が指摘する関係は成り立っていない。第1に、「資本収益率rがあまり変わらず、経済成長率gが低下する」という関係が成立しない。