『週刊ダイヤモンド』6月5日号の第一特集は「パナソニック 名門電機の解体」です。パナソニックの縮小均衡に歯止めがかからない。2021年3月期決算では四半世紀ぶりに売上高7兆円を割り込み、日立製作所やソニーといった競合電機メーカーの背中は遠くなるばかりだ。6月末に9代目社長に就く楠見雄規氏は、パナソニックを再び成長軌道へ乗せることができるのか。

津賀社長と事業部に「最大限の配慮」
楠見次期社長を苦しめる内向き組織

「津賀(一宏・パナソニック)社長が前におられますので、どう答えたらいいか──」。

 5月27日、6月末にパナソニック社長として登板する楠見雄規・最高経営責任者(CEO)がオンライン会見を行った。4月にCEO就任して以降、対外的に経営方針を説明するのは初のことで、“デビュー戦”である。

 45分程度の会見中、楠見氏は「津賀社長がおられますので」というフレーズを繰り返した。カメラの向こう側にいる津賀社長に目配せするような仕草が見受けられ、デビュー戦に参戦する息子に保護者が付き添っているかのような印象を受けた。

 組織の変革が必要な有事には、前任の経営者を否定するのは常道だ。だが、楠見氏は「(会社の風土が足りなかったと)答えるとそういう風に記事されるんで、非常に答えにくい質問」などと発言。前任者否定や前政権の反省点をメディアに報じられることを、極力避けたかったようだ。

 津賀社長が掲げた“くらしアップデート”というスローガンも「延長線上にあり進化させる」(楠見氏)とし、津賀社長時代の経営企画メンバーの造語である「専鋭化(絞り込んだ領域で競争力を磨き上げるという意味)」というキーワードも温存された。

 そして、楠見氏が配慮した相手は津賀社長だけではない。現場の「事業部」にも配慮した発言が目立った。

「今後2年間は全ての事業において攻めるべき領域を定め、そこでの競争力を徹底的に高めてまいります。市場が極端に縮小するなど、将来の事業毀損が明白な事業を除いては、まず競争力を高めていくということに注力したいと考えております」(楠見氏)。この発言からは、向こう2年間は撤退など大掛かりな外科手術をしないとも読み取れ、事業部の社員を刺激しないような気遣いをしているのだ。

 対外的なデビュー会見で、新社長が前任の経営者や事業部へ「最大限の配慮」をしなければならない──。そうした内向き志向の強い「伏魔殿組織」こそが、パナソニックを蝕む病巣なのだろう。

 本来、パナソニックを覆っている閉塞感を考えれば、社内に気を使っている余裕などないはずだ。次期社長会見は、社員26万人の巨大組織を変革することの難しさを象徴しているとも言える。

ソニー・日立は過去最高益
創業103年で訪れた危機

 創業103年の名門電機、パナソニックの縮小均衡に歯止めがかからない。2021年3月期決算では、四半世紀ぶりに売上高は7兆円を割り込み、当期純利益は1651億円にとどまった。

「勝ち組」の競合メーカーには、大きく水をあけられている。21年3月期の当期純利益では、ソニーが1兆1718億円、日立製作所が5016億円となり、共に過去最高益を叩き出したのだ。

 9年ぶりの社長交代は、組織の閉塞感を打ち破るカンフル剤となるのか。6月末、パナソニックの9代目社長として楠見雄規氏が登板する。

 デビュー会見では「社内への配慮」ばかりが目立ったが、楠見氏に近いパナソニック幹部は「真の改革者となるかもしれない」との声も漏れる。社内では、頭脳明晰な合理主義者として知られ、テレビ・自動車事業の構造改革で実績を上げた人物だ。

 冒頭の会見でも、プレゼンテーションの中身を注意深く聞くと、「いかに戦略が優れていても、それを実施する力(オペレーション力)がなければ戦略が絵に描いた餅でしかない」(楠見氏)などとも語っており、楠見氏には「改革の腹案」があるのだろう。

 楠見氏は、早くも大ばくちに打って出ている。4月下旬、世界最大のサプライチェーンソフトウエア企業である米ブルーヨンダーの買収を、CEOとして決断したのだ。買収金額は実に約7700億円。10月に控えた組織改編に加えて、大型買収という“ショック療法”で巨大組織の変革に挑む。

 だが、変革の実現には高い壁が立ちはだかっている。

 というのも、事業こそグローバルに展開しているパナソニックだが、その企業風土は極めてドメスティックだからだ。

 日本的経営(長期安定雇用や年功序列に代表される日本独自の経営システム)を煮詰めて凝縮させたような会社だと言ってもいい。

 内向き志向の組織、事業部の縦割り、人事の硬直性――。津賀一宏社長をはじめとするパナソニックの歴代経営者も、こうした組織の変化対応力をそぐ「三つの呪縛」に苦悶し続けてきた。

 今年7月、この「最凶」の呪縛を撲滅する第一弾として、パナソニックは大規模リストラに踏み切るのだ(パナソニック「割増退職金4000万円」の壮絶リストラ、年齢別加算金リスト判明【スクープ完全版】参照)。

 バブル末期入社組を標的にした早期退職制度を発動するのだ。事業は人なり。創業者の松下幸之助が雇用の安定を説いたことからもわかるように、パナソニックでは、人員整理をタブー視してきた経緯がある。それでも敢えて、人材の“強制的な”新陳代謝に踏み切るところに、経営陣の危機感がにじみ出ている。

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競合62社「経営力格差ランキング」

『週刊ダイヤモンド』6月5日号の第一特集は「パナソニック 名門電機の解体」です。

 昨年1月に好評を博した「パナソニック 名門電機の凋落」の続編を作りました。当時も、五つあるカンパニー全ての業績が振るわず異常事態に陥っており、その背景にある“組織の老衰”を取り上げた特集でした。

 それから1年半。組織の老化はますます進んだと言えるかもしれません。今回の特集では、津賀社長の総括と次期楠見体制の展望を、独自取材とデータでまとめました。

 その中でも、「楠見社長が描く組織再編の『最終形』」や『割増退職金4000万円の壮絶リストラ』の記事は自信作です。

 また、電機・電子部品など競合62社を対象にした『経営力格差ランキング』や『ソニー、日立と「事業再編度」に格差』では、データを駆使し、電機業界の明暗を分けた原因に迫っています。

 楠見氏は「最凶」の呪縛を解き、パナソニックを再び成長軌道へ乗せることができるのでしょうか。