記事一覧:野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く376件
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野口悠紀雄「超」整理日記 経済・メディア・情報を捌く
賃上げは最重要の課題 問題はそのための政策
2013年11月23日号エコノミストはシャーロック・ホームズが好きだ。中でも、『銀星号事件』はしばしば引用される。ホームズは、「事件のあった夜に犬が啼かなかったのが不思議なことだ」と言う。侵入者があれば、犬は激しく啼くはずだ。啼かなかったのは、侵入者が犬の顔見知りであったことを意味する。「何があるか」でなく、「何がないか」が重要だ。
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従来より強まった 円安の物価上昇効果
2013年11月16日号消費者物価指数(生鮮食品を除く総合)の対前年比は、今年の5月からプラスの値が続いているが、9月も0.7%の上昇となった。これは、経済の好循環が始まったことの表れと評価されている。以下では、このような評価が正当化されるかどうかを検討する。
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円安にもかかわらず 過去最大の貿易赤字
2013年11月9日号2013年度上半期の貿易収支は4兆9892億円の赤字となり、年度半期ベースで過去最大を更新した。9月の貿易赤字は、1兆円に近づいた。このペースが続けば、年間10兆円を超す赤字となる。リーマンショック前には、日本の貿易収支は、年間10兆円ないしはそれ以上の黒字だった。それがほぼ同額の赤字に転じたわけだ。このことの意味は大きい。
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内部留保を使うには 法人税の増税が必要
2013年11月2日号安倍晋三政権は、法人税を減税することで経済の好循環を始動させようとしている。法人税を減税すると、企業が内部留保を賃金や設備投資に用いる。それが経済の好循環をつくるというのである。しかし、この方法では、賃金も設備投資も増えないことを前回述べた。以下では、このことをいま少し詳しく説明したい。
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賃金引き上げの方法は 新産業を興すことだけ
2013年10月26日号安倍晋三首相は、消費税増税の表明と同時に、「経済政策パッケージ」を発表した。ここには、注目すべき点が二つある。第1は、賃金が重要な問題だと認識されたことだ。政府はこれまで物価上昇率引き上げを政策目的としてきたが、円安で物価は上昇しているし、消費税が増税されればさらに上がる。しかしそれは、実質賃金を減らし、生活を貧しくするだけだ。賃金が上がらなければ、経済政策は成功したことにならない。この当然のことが、やっと認識された。
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一部に偏る景気回復 持続可能ではない
2013年10月19日号日本銀行が発表した9月の企業短期経済観測調査(短観)において、全規模合計の業況判断指数(DI)は、6月の▲2から、9月には2に改善した。これは、日本経済の復調を示すものと受け取られている。これを受けて、安倍晋三首相は、消費税の引き上げを最終的に決定した。以下では、短観に見られる動きを中心に、日本経済の最近の動きを分析しよう。
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住宅が支えた景気は すでに終わりつつある
2013年10月12日号不動産市場は活況を続けている。東京都や愛知県などで、住宅地と商業地の地価が5年ぶりに上昇に転じた。さらに、オリンピックで建設ブームが到来すると期待する向きもある。では、地価上昇の時代が再び日本に来るのだろうか?まず最初に企業の業績を見ると、ここ数年、全般的には停滞が続く中で、不動産業の好調が続いてきた。
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米国金融緩和終了で 投機の時代は終わるか
2013年10月5日号来年1月に任期満了を迎えるアメリカのFRB(連邦準備制度理事会)議長の後任人事が難航している。最有力候補だったローレンス・サマーズ元財務長官が指名を辞退し、本稿執筆時点では、その後の新しい人事提案はなされていない。この人事に世界中の注目が集まるのは、言うまでもなく、アメリカの金融緩和政策の行方に関係しているからだ。緩和政策に懐疑的と言われるサマーズが辞退したことを受けて、ニューヨーク市場では株価が一時は上昇した。
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投資依存経済成長は なぜ持続できないか
2013年9月28日号前回、現在の日本経済は公共事業で支えられていると述べた。このことは、GDP統計の4~6月期第2次速報において、極めて明確な形で示されている。実質GDPの対前期増加率(年率換算値)は、第1次速報値の2.6%増から3.8%増に上方修正されたが、その大きな原因は、政府固定資本形成(公共投資)と民間企業設備投資が増えたことなのである。公共投資は、第1次速報値の1.8%増から3.0%増に上方修正された。設備投資は、第1次速報値の0.1%減から1.3%増に上方修正された。
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公共事業依存の日本経済 その構造は継続できない
2013年9月21日号ここ数年の実質GDPの伸びを支えているのは、民間最終消費支出である。実質季節調整系列の年率寄与度で見ると、2013年4~6月期で1.9%だ(1次推計。なお、2次速報値がすでに公表されているが、これについては、次回に述べる)。なお、実質消費の増加は、安倍晋三内閣の経済政策でもたらされたものではなく、東日本大震災による一時的な落ち込みを除いて、リーマンショック後、継続している現象である。
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円安による消費抑制への 対処が現下の最重要課題
2013年9月14日号消費税増税の可否をめぐる議論は、次の2点を中心になされている。(1)消費支出への影響を重視して延期する。(2)延期すれば日本財政の再建可能性に対する信頼が失われて日本国債の格付けが下がり、金利が上昇して景気が悪化することを重視し、予定通り増税する。
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消費増税延期より 電気料金抑制が重要
2013年9月7日号円安によって輸出関連企業の利益が増加している。2013年4~6月期決算で、円安による利益増は、自動車産業大手7社で5000億円を超えた。上場企業全体の経常利益は、前年同期に比べて42%増加した。自動車産業の計数は四半期のものなので、年間ベースでは約2兆円ということになる。また、東京証券取引所の上場企業(市場第1部・2部・マザーズ合計、連結、全産業)の経常利益は、13年3月期決算で23.5兆円だ。したがって、その42%は、ほぼ9.9兆円になる。
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長期的GDP成長の核は 消費支出の順調な増加
2013年8月31日号内閣府が発表した4~6月期のGDP速報によると、同期の実質GDP(季節調整済み)の対前期比は、0.6%(年率換算2.6%)となった。この値は、1~3月期の0.9%(年率3.8%)より低い。4月に日本銀行が異次元金融緩和措置を導入し、これによって経済が好転しつつあるとの見方が多かった。しかし、実際にはそうなっていない。民間調査機関による事前の予測では、年率3%台後半が多かったが、それは裏切られた。
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デフレ脱却ではなく スタグフレーション
2013年8月24日号6月の全国の消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数:コア物価指数)は、前年同月比で0.4%の上昇となった。前年比プラスは、2012年4月以来である。安倍晋三内閣発足前の12年11月に99.5だった物価指数は、6月には100.0になった。物価上昇の主要な原因は、円安による輸入燃料の値上がりだ。まず、火力発電の燃料である液化天然ガス(LNG)価格が上昇したため、電気代が前年比9.8%上昇した。ガソリン代も6.4%、都市ガス代も4.7%上昇した。
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安倍内閣の選挙後の 課題は財政問題
2013年8月17日号参議院選挙後の安倍晋三内閣を待ち受けているのは、財政に関連する困難極まりない課題への対処である。第1に、消費税率引き上げの最終的決断が必要だ。安倍内閣は経済は好転しつつあると主張しており、事実いくつかの経済指標は改善している。4~6月期のGDP成長率は、1月に編成された補正予算による公共事業の増加と、消費税率引き上げ前の住宅駆け込み需要の影響で、かなり高い成長率になる可能性が高い。したがって、景気を理由として税率引き上げを延期するのは難しいだろう。
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政府支出に依存する 従来型の景気回復
2013年8月3日号日本銀行は、7月11日の金融政策決定会合で、景気の基調判断を「緩やかに回復しつつある」とした。会合後の公表文では、景気の基調判断を前月の「持ち直している」から1段階引き上げた。個別項目では、生産を「緩やかに増加している」、輸出を「持ち直している」へそれぞれ上方修正した。設備投資も「持ち直しに向かう動きもみられている」へ引き上げた。黒田東彦総裁は、会合後の記者会見でも、国内景気は「緩やかに回復しつつある」との見方を繰り返した。基調判断を引き上げた理由は、国内景気が底堅く推移し、輸出が持ち直している中で、「所得から支出への前向きな循環メカニズムが働いている」ことだとした。
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ムードだけでは不十分 今後の経済政策の課題
2013年7月27日号参議院選挙が終わり、今後の経済政策を中期的な観点から考える条件が整った。この機会に、安倍晋三内閣の経済政策であるアベノミクスについて評価しておこう。アベノミクスの中心は、金融政策である。しかし、マネーストックをM2で見てもM3で見ても、対前月比増加額はマネタリーベース増加額に及ばない。つまり、異次元金融緩和措置で日本銀行による国債購入が増加し、銀行の日銀当座預金が増えたが、それだけに終わってしまって、貸し出しが増えていないのである。
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成長戦略に欠けている 流通業の構造改革政策
2013年7月20日号政府が6月に閣議決定した成長戦略「日本再興戦略」に欠けているのは、産業構造の方向づけだ。縮小する製造業に代わって日本産業の中心となる産業をどうするのか、という視点がない。成長戦略は、依然として製造業を中心とする発想から脱却していない。製造業の縮小を必然として認め、それに代わる新しい産業を考えることが必要だ。その際中心となるのは、流通業などを含む広義のサービス産業だ。
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円安による費用増は すでに政治的問題
2013年7月13日号農林水産省は、円安による燃油費高騰の影響を受けている漁業者を支援するため、燃油価格が一定の水準を超えた場合に、国が価格上昇分の4分の3を負担する方針を固めた。また、牛や豚などに使われる配合飼料の7~9月販売分の価格に対して、直近1年の平均価格を上回った値上がり分を補填している基金に国が助成することを決めた。
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円安と株高の原因が 投機である理由
2013年7月6日号昨年の秋以降に円安と株高が生じた。しかし、前回述べたように、これは実体経済の変化によって生じたものではなく、投機によって生じたものとしか考えられない。その理由は、次の通りである。仮に日本の成長可能性に対する期待が高まったのであれば、海外から日本に資金が流入して株式に投資される。この場合には、株価は上昇するが、円高になるはずだ。他方、日本が金融緩和を行うとの予想が国際的な資金移動に影響したのであれば、資金が日本から流出する。この場合には、円安になるが、海外から日本株への投資が増えることはない。