記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292

  • 金正恩の行動を読み解く鍵

    Book Reviews 知を磨く読書
    金正恩の行動を読み解く鍵

    2017年3月25日号  

    山内昌之編著『中東とISの地政学』は、一級の中東専門家たちによる優れた論集だ。山内氏は、〈現在のような政府軍とテロリストの非対称の対決、アメリカとロシアなど大国間の代理戦争など多様な構図の戦闘や対決が同時進行している状況は、「複合危機」と呼ぶにふさわしいものである。

  • 名を残す村上春樹新作

    Book Reviews 知を磨く読書
    名を残す村上春樹新作

    2017年3月18日号  

    村上春樹著『騎士団長殺し』は歴史に残る傑作だ。目には見えないが確実に存在するイデアが、主人公(私)の前に騎士団長の形を取って現れる。〈騎士団長は「歴史の中には、そのまま暗闇の中に置いておった方がよろしいこともうんとある。正しい知識が人を豊かにするとは限らんぜ。客観が主観を凌駕するとは限らんぜ。事実が妄想を吹き消すとは限らんぜ」〉と言う。

  • 高等教育と短期の利潤追求

    Book Reviews 知を磨く読書
    高等教育と短期の利潤追求

    2017年3月11日号  

    高校の理科で地学を選択する人は少ないので、大多数の読者にとって地学は疎遠な学問と思う。鎌田浩毅著『地学ノススメ』は地学の魅力を伝える優れた作品だ。〈地球の歴史の上では、さまざまな事件が次々と起こります。

  • 自由に耐え得るたくましさ

    Book Reviews 知を磨く読書
    自由に耐え得るたくましさ

    2017年3月4日号  

    池澤夏樹著『知の仕事術』は、読書法、表現法、整理術など知を扱う基本的技法についての優れた参考書だ。池澤氏は、〈読書とは、その本の内容を、自分の頭に移していく営みだ。きちんと読んだ本はその先、自分が物を考えるときに必ず役に立つ。

  • 「生きた言葉」という虚妄

    Book Reviews 知を磨く読書
    「生きた言葉」という虚妄

    2017年2月25日号  

    NHK取材班著『トランプ政権と日本』では、各分野の専門家によるトランプ米大統領についての現時点での評価を知ることができる。例えば、日米関係と安全保障問題に詳しい森本敏氏(元防衛相)はこんな見方を示している。〈森本氏の個人事務所を訪れたのは、トランプ氏当選の二日後。

  • 物まね芸人とスパイの共通点

    Book Reviews 知を磨く読書
    物まね芸人とスパイの共通点

    2017年2月18日号  

    ジョン・クリーズ著『モンティ・パイソンができるまで』は、英国のコメディアングループ「モンティ・パイソン」をつくった著者の自伝で、洞察力に富んでいる。クリーズ氏は、〈これは広く認められた真理だが、最もすぐれた物まね芸人には、みょうに個性の薄い人が多いものだ。

  • 弱まる日本社会の知力

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    弱まる日本社会の知力

    2017年2月11日号  

    雨宮処凛著『一億総貧困時代』を読むと、貧困が急速に日本社会全体に広がっていることが分かる。大学・大学院の奨学金は以下のような状況だ。〈問題なのは、学ぶために学生が多額の借金を背負わざるを得ないという状況そのものなのであり、それを後押しするかのようなシステムなのである。

  • 言語の果たす役割の大きさ

    Book Reviews 知を磨く読書
    言語の果たす役割の大きさ

    2017年2月4日号  

    柄谷行人著『柄谷行人講演集成1995-2015 思想的地震』に収録された「他者としての物」と題された講演録が面白い。〈私の定義では、他者とは、ヴィトゲンシュタインの言い方でいえば、言語ゲームを共有しない者のことです。彼はその例として、しばしば外国人をあげていますが、精神異常者をあげてもよい。確かに、彼らとの間に合意が成立することは困難です。

  • 現代も強い力を持つ観念論

    Book Reviews 知を磨く読書
    現代も強い力を持つ観念論

    2017年1月28日号  

    的場昭弘著『「革命」再考』は、ソ連崩壊が資本主義に与えた影響についてこう述べる。〈一時的にソ連・東欧の崩壊、中国の資本主義化で、一気に自由主義が拡大します。これによって低賃金でつくられた製品が世界に蔓延します。そして工場移転によって半周辺国、周辺国は突如として経済成長します。

  • 米国のキリスト教的価値観

    Book Reviews 知を磨く読書
    米国のキリスト教的価値観

    2017年1月21日号  

    木谷佳楠著『アメリカ映画とキリスト教』は、米国におけるキリスト教の性格について掘り下げた傑作だ。人工的な米国社会では、米国人という概念は自明でない。米国人である(being)ということではなく、米国人になる(becoming)という生成過程が終わることなく続いている。

  • トランプ氏の顧問が見る中国

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    トランプ氏の顧問が見る中国

    2017年1月14日号  

    フィオナ・ヒル、クリフォード・G・ガディ著『プーチンの世界』は、現代ロシアについての教科書的地位を占める本だ。〈プーチンの戦略上の目標は今後も変わることなく、西側諸国の防御の弱点を見つけ、西側のリーダーや市民たちを脅し、その脅しが虚勢でないことを全員に知らしめることである。だとすれば、こんどは西側諸国のほうが行動する番だ。

  • 新訳で甦る1000年前の魂

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    新訳で甦る1000年前の魂

    2016年12月31日号  

    中野信子著『サイコパス』は、標準的な人と比較して他人の気持ちを忖度したり、痛みを想像したりすることが苦手なサイコパスと呼ばれる人々について、多面的に扱った興味深い本だ。〈サイコパスは状況がどれだけ混乱していても、周囲が新しいビジネスモデルに対応できずに拒否反応を起こしていても、冷静でいることが可能です。

  • 誠実なるヒューマニスト

    Book Reviews 知を磨く読書
    誠実なるヒューマニスト

    2016年12月24日号  

    宮家邦彦著『トランプ大統領とダークサイドの逆襲』は、英語、中国語、アラビア語に通暁し、土地勘もある著者の本領を発揮した優れた講義録だ。山は人々を遠ざけ、海や川は人々を近づけるというのが地政学の基本原則であるが、宮家氏はイラク情勢を読み解く場合にも山のファクターを考慮し、〈イラクは基本的に真っ平らでしょう。東西南北の「隣人」は誰か。

  • 科学と職人芸が融合した食品

    Book Reviews 知を磨く読書
    科学と職人芸が融合した食品

    2016年12月17日号  

    森山優著『日米開戦と情報戦』を読むと外交においてはタイミングが決定的に重要だということが分かる。〈最大の悲劇は、日米の強硬(と相手がみなす)態度が、最悪のタイミングで噛み合ってしまったことであろう。くりかえしになるが、国境紛争調停の段階で日本が南部仏印に進駐しておけば、アメリカが全面禁輸で対抗することは、おそらくなかったであろう。

  • プーチン政権の本質

    Book Reviews 知を磨く読書
    プーチン政権の本質

    2016年12月10日号  

    手嶋龍一著『汝の名はスパイ、裏切り者、あるいは詐欺師』は、国際政治の舞台裏を解剖した傑作だ。「パナマ文書」が暴露され、ロシアのプーチン大統領の友人であるロルドゥギンがタックスヘイブンに多額の資産を持っていた事案について手嶋氏はこう解析する。

  • 国際人になるための教科書

    Book Reviews 知を磨く読書
    国際人になるための教科書

    2016年12月3日号  

    寺西千代子著『世界に通用する公式マナー』は、プロトコール(国際儀礼)の分野において日本のトップである著者による優れた実用書だ。一段階上の国際人になるための必読書である。それだけでなく、上級レベルの外国語学習についてもヒントがたくさん記されている。

  • トランプ当選予言者の根拠

    Book Reviews 知を磨く読書
    トランプ当選予言者の根拠

    2016年11月26日号  

    評者が知る限り、米大統領選挙で共和党のトランプ候補が当選すると断言した人は副島隆彦氏しかいない。副島隆彦著『トランプ大統領とアメリカの真実』において、〈果して私の予測(予言)どおりにトランプが勝って、トランプ米新大統領が来年誕生するか。/これは私にとっても賭けである。

  • プロのスパイがよく使う手口

    Book Reviews 知を磨く読書
    プロのスパイがよく使う手口

    2016年11月19日号  

    池上彰著『アメリカを見れば世界がわかる』において、米共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏は、モンロー主義との文脈で捉えられている。〈アメリカは南北アメリカ以外、つまり、ヨーロッパには干渉しないという一国孤立主義をとりました。第一次大戦後、国際連盟の創設が提唱された際も、アメリカ議会はモンロー主義を掲げて反対しました。

  • 北方領土問題の妥結シナリオ

    Book Reviews 知を磨く読書
    北方領土問題の妥結シナリオ

    2016年11月12日号  

    ワシントン・ポスト取材班、マイケル・クラニッシュ、マーク・フィッシャー著『トランプ』は、米国の共和党大統領候補ドナルド・トランプ氏の履歴、政治信条を包括的に扱った好著だ。〈共和党全国委員会によれば、クリーブランドの党大会会場に集まった二四七二人の代議員のうち、黒人はたったの一八人ほど。

  • グローバリゼーションへの反発

    Book Reviews 知を磨く読書
    グローバリゼーションへの反発

    2016年11月5日号  

    富永京子著『社会運動のサブカルチャー化』は、1986年生まれの若手学者(立命館大学准教授)による意欲的で優れた研究書だ。世界的規模でサブカルチャー化しているデモや抗議活動について、日本の事例を実証的に調査、分析している。

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記者の目

  • 副編集長 千本木啓文

    農協から届いた「抗議文」を読んで、しばし感傷に浸る

     JA全中から毎年、抗議文をもらうのですが、今年は雑誌の発売前に届きました。特集の一部を「組合長165人が“辛口”評価 JA上部団体の通信簿」としてダイヤモンド・オンラインで先に配信したからです。
     抗議文は、「19万人の農協役職員の0.2%の意見で記事が構成されており、(中略)偏った先入観を植え付ける意図があった」として、続編の配信中止を求める内容でした。
     組合長ら幹部200人超を含む役職員434人の声には傾聴する価値があるはずです。抗議文を読み、自分は若いと思い込んでいる人が鏡に映った老いた姿を見て、こんなはずはないと怒っているような印象を持ちました。自戒を込めて、鏡のせいにしてはいけないと思いました。

  • 編集長 浅島亮子

    ロングセラー第9弾でも攻め続ける農業特集

     今年も人気企画「儲かる農業」特集の第9弾が刷り上がりました。身内ながら感心するのが、毎年新しいコンテンツを加えて特集構成を刷新していることです。今回の新ネタは農協役職員アンケート。ロングセラー企画の定番を変えるには勇気が必要ですが、果敢に新機軸を打ち出しているのです。
     昨年、千本木デスク率いる農協問題取材チームは、共済の自爆営業などJAグループの不正を暴いたことが評価され、報道実務家フォーラム「調査報道大賞」優秀賞を受賞しました。訴訟に屈することなく、問題の本質を突く取材活動を貫いた結果と受け止めています。今回の特集でも粘り強い取材は健在。取材チームの熱量を存分に感じていただければ幸いです。

最新号の案内2024年5月11日号

表紙

特集儲かる農業2024

いよいよ儲かる農業が実現するフェーズに入った。「台頭する豪農」と「欧米のテクノロジー」と「陰の仕掛け人」が”令和の農業維新”というムーブメントを起こしている。他方、農業を牛耳ってきた旧来勢力である農協と農水省は、存在意義を問われる”緊急事態…

特集2家計・住宅ローン・株が激変! 金利ある世界

日本銀行が17年ぶりの利上げで金融政策の正常化に踏み出した。”金利ゼロ”に慣れ切った家計や企業経営、財政はどうなるのか。日本は「成長期待が持てない経済」から抜け出せるのか。それとも低金利は続き、物や資本が余った経済への道を歩むのか。「金利あ…