記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292

  • 時間がかかるのは損

    Book Reviews 知を磨く読書
    時間がかかるのは損

    2017年8月26日号  

     尾形聡彦著『乱流のホワイトハウス』は、米国事情に通暁した著者にしか書けない優れた現状分析の書だ。〈軍事衝突の際に危険なのは、関係者たちが過激なレトリックを繰り返し、緊張が高まっていき、偶発的な計算違いが起こって、実際の戦闘に発展するケースだ。

  • 日本の思想状況の貧しさ

    Book Reviews 知を磨く読書
    日本の思想状況の貧しさ

    2017年8月12日号  

    山崎行太郎著『ネット右翼亡国論』は、保守派の哲学者・文芸批評家によるネット右翼、ポストモダン思想などの「軽さ」を厳しく批判した知的刺激に富んだ作品だ。山崎氏は存在論的思考に共感を寄せ、〈存在論を内在化していない思想家や学者、文化人に、私は、本質的な関心はない。

  • 手ごわいフェイクニュース

    Book Reviews 知を磨く読書
    手ごわいフェイクニュース

    2017年8月5日号  

    平和博著『信じてはいけない』は、現在、世界的規模で深刻な問題をもたらすフェイクニュース(偽ニュース)を総合的に分析した優れた作品だ。〈主要メディアや専門のネットメディアが、ネットに拡散するフェイクニュースについて、事実関係を確認した上で、排除していく。

  • ロシア人の意識と使命感

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    ロシア人の意識と使命感

    2017年7月29日号  

    守屋淳著『もう一つの戦略教科書「戦争論」』は、クラウゼヴィッツの名著『戦争論』をビジネスに活かそうとする意欲的な作品だ。クラウゼヴィッツの基本概念を次のように翻訳する。〈「戦略」──戦闘力の配分を決める/「戦術」──戦闘の仕方を決める/わかったような、わからないような指摘ですが、会社で考えるととてもわかりやすくなります。

  • 日本人の思考の鋳型

    Book Reviews 知を磨く読書
    日本人の思考の鋳型

    2017年7月22日号  

    芳沢光雄著『かしこい人は算数で考える』では、〈「yはxの関数」という1つの変数による関数の学びは中学そして高校でいろいろ扱うものの、「zはxとyの関数」という2つの変数による関数は扱われません。要するに1変数の関数は学ぶものの、多変数の関数の学びは大学で主に理系の数学を履修しなければ学びません。

  • 保守派論客が見た明治憲法

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    保守派論客が見た明治憲法

    2017年7月15日号  

    渡部昇一著『知的人生のための考え方』は、今年4月に亡くなった保守派の論客、渡部昇一氏のエッセー集だ。〈明治憲法はいまから見ると、さまざまな欠陥がある憲法だったのです。その代表例が、首相とか内閣総理大臣という言葉が明治憲法には一言も出てこないことです。/(中略)明治憲法の条文だけを絶対的に見るならば、首相の地位も権限もなく、それは実に頼りないものとなるのです。

  • 象徴天皇制と生前退位問題

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    象徴天皇制と生前退位問題

    2017年7月8日号  

    石川結貴著『スマホ廃人』を読むとネット社会の落とし穴がどこにあるかが分かる。〈就活生が利用する各種の就職情報サイトでは、「何気なくつぶやいた一言や、ウケをねらった写真が就活失敗の原因」、「NG投稿で人生を棒に振る」といった注意書きも散見される。

  • 情報を扱う仕事の最大の武器

    Book Reviews 知を磨く読書
    情報を扱う仕事の最大の武器

    2017年7月1日号  

    伊藤誠二著『痛覚のふしぎ』を読むと「痛み」という現象の意味がよく分かる。〈ヒトの場合はどうなのでしょう。痛みはどのような行動が自分に利益をもたらすのか、避けるべきなのかを判断する信号となります。痛みに関する学習とその罰は行動の意思決定に重要な影響を及ぼします。

  • 師弟関係こそ教育の神髄

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    師弟関係こそ教育の神髄

    2017年6月24日号  

    雨宮処凛著『女子と貧困 乗り越え、助け合うために』は、女性の貧困の実態を丹念に取材している優れたノンフィクションだ。キャバクラ嬢の置かれている状況に関する記述が衝撃的だった。〈なんでも、現在の業界では月収20万を超えていれば「稼げてる方」なのだという。

  • 高校レベルの基礎の大切さ

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    高校レベルの基礎の大切さ

    2017年6月17日号  

    井手英策著『財政から読みとく日本社会』は子ども向けに書かれた本だが、社会人、ビジネスパーソンにとっても十分に役立つ優れた内容だ。〈大人たちは、きびしい財政事情を心配するあまり、人間のくらしを犠牲にし、人びとにうたがいのまなざしを向けることになれてしまいました。

  • 嫌韓本と一線を画す韓国ルポ

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    嫌韓本と一線を画す韓国ルポ

    2017年6月10日号  

    牧野愛博著『ルポ 絶望の韓国』は、ちまたに溢れる「嫌韓本」とはまったく異質の丁寧な取材を積み重ねた優れたルポだ。韓国の外交官に女性が増えていることを、評者は本書によって初めて知った。〈同部(韓国外交部)によれば、一九九〇年代までは男性合格者が七割を超える年もあったが、二〇〇〇年代から女性合格者が毎年過半数を占めるようになった。

  • 経済実務家のロシア情勢分析

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    経済実務家のロシア情勢分析

    2017年6月3日号  

    辻田真佐憲著『文部省の研究』を読むと、この役所の歴史と現状がよく分かる。〈ナショナリズムによる自国中心主義(今日的にいえば「ジャパン・ファースト」)は、グローバリズムの経済的合理性で抑制できるかもしれない。この両者を適切に組み合わせ、新しい「理想の日本人像」を模索することが必要だ。

  • 学習効果が上がる「入門書」

    Book Reviews 知を磨く読書
    学習効果が上がる「入門書」

    2017年5月27日号  

    千葉雅也著『勉強の哲学』で展開されている勉強術は、誰にでも実行でき、しかも効果が期待できる。特に入門書の効用に関する記述が秀逸だ。〈入門書によって、勉強の範囲を「仮に有限化する」のです。/専門分野に入る前提として、どのくらいのことを知っておけば「ざっと知っている」ことになるのか、という範囲を把握する。

  • 女性と話すのが怖くなる傑作

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    女性と話すのが怖くなる傑作

    2017年5月20日号  

    柚木麻子著『BUTTER』は、木嶋佳苗事件をモデルにした傑作小説だ。〈何が嘘で何が真実か。そんなものに大した違いはない、だったら自分が美味しいと感じる方を選んで何がいけない? 苦い真実が一体全体、身体のどこを満たすんだ、と。殺伐として味気ないリアルに、溶かしたバターをたっぷりからめて、香辛料や調味料で味付けすることの何が悪なのか?

  • ヨーロッパ宗教改革の本質

    Book Reviews 知を磨く読書
    ヨーロッパ宗教改革の本質

    2017年5月13日号  

    大澤真幸著『〈世界史〉の哲学 近世篇』は、現代との連続性が高い15世紀のルネサンスから18世紀までを思想的に掘り下げた優れた作品だ。 岡田尊司著『子どものための発達トレーニング』には、大人にとっても有益な内容が多々書かれている。

  • 正しかった「型」の教育

    Book Reviews 知を磨く読書
    正しかった「型」の教育

    2017年4月29日号  

    ポール・クルーグマン、ロビン・ウェルス著『クルーグマン ミクロ経済学』は、大学生だけでなく実務家にとっても役立つ生きた経済の教科書だ。〈市場には、分散可能なリスクや不確実性にともなうリスクを、うまく処理する機能がある。何が起こるのか、誰の家が洪水にあうのか、また誰が病気になるのか。

  • 誰かを袋だたきにしたい欲望

    Book Reviews 知を磨く読書
    誰かを袋だたきにしたい欲望

    2017年4月22日号  

    ピエール・ロザンヴァロン著『カウンター・デモクラシー』では、ポピュリズムが持つ問題点が見事に解明されている。〈現代のポピュリズムはさらに、判事としての民衆という理念の破壊的な劣化にも呼応している。議論が交わされ検証の結果が示される法廷の場面は、ポピュリズムとともに、残虐さの劇場、あるいはサーカスの舞台へと堕落した。

  • アドルノ哲学の知的刺激

    Book Reviews 知を磨く読書
    アドルノ哲学の知的刺激

    2017年4月15日号  

    岩波明著『発達障害』は、発達障害とどう向き合うかについて丁寧に書かれた好著だ。岩波氏は、〈(親は)、症状が軽症の際には、なかなか発達障害という考えに至らないようだ。単に「落ち着きのない子供」あるいは「おとなしく人付き合いが苦手な子供」とみなして納得していることもよくみられる。

  • キリスト教文化圏の悪と悪魔

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    キリスト教文化圏の悪と悪魔

    2017年4月8日号  

    新谷学著『「週刊文春」編集長の仕事術』は、週刊誌業界を独走する「週刊文春」の勝利の秘訣について記された作品だ。新谷氏は、〈人間関係はギブアンドテイクの積み重ねだ。相手に「自分のためにこの人はこんなことまでしてくれた」と伝わるまで尽くすのだ。そうすると「この人に言われちゃしょうがないな」「今まで世話になったし」と思ってもらえるだろう。

  • 宇宙ロケットを生んだ珍妙思想

    Book Reviews 知を磨く読書
    宇宙ロケットを生んだ珍妙思想

    2017年4月1日号  

    清水義範著『ウケる! 大人の会話術』は、実用的な会話術の本だ。例えば、仕事で人を動かすときの話術についてこう記す。〈この依頼をあなたに受けてほしいのだ、という時は、なぜあなたに依頼するのかを語るべきである。ほかの人ではなく、なぜあなたなのか。そのことがはっきりとわかるならば、相手も動いてくれるというものである。

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記者の目

  • 副編集長 千本木啓文

    農協から届いた「抗議文」を読んで、しばし感傷に浸る

     JA全中から毎年、抗議文をもらうのですが、今年は雑誌の発売前に届きました。特集の一部を「組合長165人が“辛口”評価 JA上部団体の通信簿」としてダイヤモンド・オンラインで先に配信したからです。
     抗議文は、「19万人の農協役職員の0.2%の意見で記事が構成されており、(中略)偏った先入観を植え付ける意図があった」として、続編の配信中止を求める内容でした。
     組合長ら幹部200人超を含む役職員434人の声には傾聴する価値があるはずです。抗議文を読み、自分は若いと思い込んでいる人が鏡に映った老いた姿を見て、こんなはずはないと怒っているような印象を持ちました。自戒を込めて、鏡のせいにしてはいけないと思いました。

  • 編集長 浅島亮子

    ロングセラー第9弾でも攻め続ける農業特集

     今年も人気企画「儲かる農業」特集の第9弾が刷り上がりました。身内ながら感心するのが、毎年新しいコンテンツを加えて特集構成を刷新していることです。今回の新ネタは農協役職員アンケート。ロングセラー企画の定番を変えるには勇気が必要ですが、果敢に新機軸を打ち出しているのです。
     昨年、千本木デスク率いる農協問題取材チームは、共済の自爆営業などJAグループの不正を暴いたことが評価され、報道実務家フォーラム「調査報道大賞」優秀賞を受賞しました。訴訟に屈することなく、問題の本質を突く取材活動を貫いた結果と受け止めています。今回の特集でも粘り強い取材は健在。取材チームの熱量を存分に感じていただければ幸いです。

最新号の案内2024年5月11日号

表紙

特集儲かる農業2024

いよいよ儲かる農業が実現するフェーズに入った。「台頭する豪農」と「欧米のテクノロジー」と「陰の仕掛け人」が”令和の農業維新”というムーブメントを起こしている。他方、農業を牛耳ってきた旧来勢力である農協と農水省は、存在意義を問われる”緊急事態…

特集2家計・住宅ローン・株が激変! 金利ある世界

日本銀行が17年ぶりの利上げで金融政策の正常化に踏み出した。”金利ゼロ”に慣れ切った家計や企業経営、財政はどうなるのか。日本は「成長期待が持てない経済」から抜け出せるのか。それとも低金利は続き、物や資本が余った経済への道を歩むのか。「金利あ…