記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292件
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Book Reviews 知を磨く読書
思考の「小島」を作る法
2018年6月16日号千葉雅也著『メイキング・オブ・勉強の哲学』からは思考術について多くの事柄を学ぶことができる。例えば、ネットとアナログの関係について、千葉氏は、〈現代においては、現代社会と直結した接続過剰的なツールと、そこから逃れるためのツールを区別して使いこなすのがいいと考えています。/SNSは前者の最たるもので、情報収集のために欠かせませんが、しかし、おそらく何かを作り出そうと欲望するためには、そこから自分を切断する、別の場所で自分を「有限化」するための別のツールが必要だと思うんです。それはデジタルツールでもできる。Evernoteやアウトライナーで、思考の「小島」を作るのでもいい。あるいは、紙のノートのように、ネットから完全に切断されたアナログなものを使ってみるのでもいい。/接続過剰なデジタルツールを使うのをやめて孤独になれ、というのは無理です。接続過剰状態がもたらすメリットはあまりに大きい。だから、そのなかに「小島」を作るしかない〉と述べる。評者はまさにこの方法を用いており、大学ノートとEvernoteによって過剰接続から逃れる「小島」を作っている。
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日本の教育の問題を深く知る
2018年6月9日号筒井康隆著『誰にもわかるハイデガー』を読むと、筒井氏が哲学者としても優れていることが分かる。〈なぜ人間だけが、死を了解できるのか。それは、自分の経験の有限性を、「無限性の欠如」として捉えることができるからである。とすると、またしても疑問にぶつかる。
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東京の問題を解決する商品
2018年6月2日号田中利典著『よく生き、よく死ぬための仏教入門』を読むと吉野山(奈良県)で今も大きな影響力を持つ修験道の論理がよく分かる。〈日本人にとって聖なるものは、和御霊と荒御霊のふたつの形をもちます。日本の神さまはどちらかのタイプなのです。生命のバランスが整っている和御霊、勢いが前面に出ているのが荒御霊。蔵王権現さまは、そのふたつの魂を融合しています。忿怒の形相という姿かたちはいわゆる荒御霊ですが、肌の色は和御霊の慈悲を表します。「青黒は慈悲をあらわす」の慈悲です。蔵王権現さまのなかに、和御霊と荒御霊が両方とも示されている点からしても、いかにも日本らしい尊像なのです〉と田中氏が指摘する通り、蔵王権現に明治初期に行われた神仏分離令より前の日本的宗教性の特徴が表れている。
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ロシアがよく分かる小説家
2018年5月26日号竹内政明著『竹内政明の「編集手帳」傑作選』は、読売新聞の名コラムニストの文字通り傑作を集めている。〈古代日本では言葉に神秘的な霊力が宿ると信じられ、それを言霊と呼んだ。言葉を伝える文明の利器である携帯電話に、昔の人が「あくがれいづる魂」に例えた蛍の瞬く光景は、それなりにつじつまが合っているのかも知れない。/記事の切り抜きを取り出しては読み返している。JR福知山線の脱線事故で、無残につぶれた車両のドアを切断して救助隊員が車内に入った時、折り重なる遺体の傍らには携帯電話が散乱していたという。/あちこちで光がともり、呼び出し音が鳴る。切れても、すぐにまた鳴り出す。着信表示に「自宅」の文字が浮かんでいるものもあった。肉親を捜し求め、一刻も早く無事の声を聞きたい家族からの電話である〉。携帯電話に言葉という魂が宿っていることが伝わってくる。
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うつ状態を克服する道
2018年5月19日号うつ病で苦しんでいる人は年々増えている。マット・ヘイグ著『#生きていく理由』では、〈男女を問わず、もしあなたがなんらかの精神衛生上の問題をかかえているのなら、あなたは、きわめて大きな、今もふくらみつづける集団の一員だ。抜きんでて優秀でタフな人々のなかにも、うつ病に苦しむ人が少なくない。政治家、宇宙飛行士、詩人、画家、哲学者、科学者、数学者(こと数学者には恐ろしく多い)、役者、ボクサー、平和活動家、戦争指導者など、おびただしい人々がそれぞれの病と闘ってきた。/男であれ女であれ、がんや心臓病になる、あるいは交通事故に遭うのと同じように、うつ病になる可能性はある。/だとすれば、僕らは何をするべきだろうか。まずは誰かに語ることだ。そしてその話を聞くことだ〉との指摘がなされているが、その通りと思う。うつを発症したと思う人は、とにかく語ることが重要だ。
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現代神学の父の「捨てる勇気」
2018年5月12日号NHKスペシャル取材班『睡眠負債』は、睡眠不足がはらむ危険に警鐘を鳴らす好著だ。日本人の睡眠時間が短い理由について、〈基本は日本が農耕文化であることが影響していると思います。農業においてはたくさん働けば雑草が少なくなり、作物も多く採れるという考えがあります。欧米は狩猟文化ですから、頭がよく働いていないと獲物が獲れませんし、そのためには休養が必要です。農耕文化ではそれほど神経を研ぎ澄ませなくてもよいという違いがあります。/農耕文化の国では概して睡眠時間が短めです。それと儒教の影響もあると思います。「蛍の光、窓の雪」ではありませんが、長時間起きて努力を重ねて自分を磨くことが大事といったような部分が、睡眠時間を削る方向に働いているのではないでしょうか〉と解説する。説得力がある。
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投獄経験を描いた自伝の傑作
2018年4月28日号池上彰ほか著『宗教と暴力』は、2017年9月23日に行われたシンポジウムの記録に加筆修正し編集したものだ。池上氏は、〈自ら信じる宗教に命をかけることができる者は他人の命を奪うハードルが低くなるという傾向があることは前述の通り。であるならば、信じる宗教のために我が命を大切に扱い、他者の命もまた大事にする。その論理を普遍化することが、今後の課題なのではないか、という重い宿題をいただきました〉と指摘するが、その通りだ。宗教だけでなく、政治、学術でも自分が絶対に正しいことをしていると信じている人は、自らの暴力性に無自覚になる傾向があると思う。
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女性の負担が却って増す懸念
2018年4月21日号中澤渉著『日本の公教育』を読むと、保護者の収入格差が子どもの受ける教育環境に如実に影響を与えている実態が見えてくる。〈労働者階級や貧困家庭では両親が生活のために働かざるを得ず、時間的にも余裕がないため、その子を放任してしまう事情もある。
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職場ハラスメントを生む土壌
2018年4月14日号中野円佳著『上司の「いじり」が許せない』は、「いじり」という形で横行している職場や学校でのいじめに鋭くメスを入れている。〈取材した人の中には、「以前はいじりのようなハラスメントをする上司がいたが、そういう人は左遷されていったので、今はそういったカルチャーがない」という優良企業に勤めている事例もあった。
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英EU離脱と北アイルランド
2018年4月7日号藻谷浩介著『世界まちかど地政学』は、地政学書というよりも、優れたエコノミストによる国際政治の考現学だ。例えば、ブレグジット後、EUに残るアイルランドとの間の国境管理をどうするか。
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われわれの思考の鋳型
2018年3月31日号マルクス・ガブリエル著、清水一浩訳『なぜ世界は存在しないのか』は、1980年代にポストモダン思想が流行したときの現代哲学の状況を見事に描いている。〈とても奇妙なことに、わたしたちは、今日では自然科学に関するアリストテレスの認識にはほとんど妥当性を認めていないのに、よりによって「魂について」の基底となっている考え方は受け容れてしまっています。結果、わたしたちを取り巻く事物の世界への通路を、いまだにアリストテレスと同じように解釈しているわけです〉というガブリエル氏の指摘はその通りだ。われわれの思考の鋳型は意外と古いのである。
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明治新政府の権力奪取法
2018年3月24日号五味洋治著『金正恩』は、北朝鮮の内在的論理に通暁する新聞記者が丹念な取材によって著した優れた作品だ。〈私は最近、米国政府に対して、長年北朝鮮問題のアドバイザーをしていた韓国系米国人の意見を聞いた。彼は米国には北朝鮮への軍事攻撃の選択肢はないと明言する。/予測しがたい犠牲が生まれる危険性が高いからだ。(中略)北朝鮮専門サイト「38ノース」は、北朝鮮がソウルと東京を核攻撃した場合、最大で210万人が死亡、770万人が負傷するとの試算を最近発表した。コンピュータを使った分析が基になっており北朝鮮が20~25発の核弾頭と、それを弾道ミサイルに装着する能力を持っていると想定している〉との指摘が重要だ。北朝鮮との戦争を回避するために、関係国が全力を尽くす必要がある。
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よりましなポピュリスト
2018年3月17日号筒井清忠著『戦前日本のポピュリズム』を読むと、ポピュリズムが普通選挙後の日本政治における主流であったことが分かる。〈政党政治は、議院内閣制においては、政党が政策を実現するために、議会における多数の獲得を目指し、政策を選挙民に訴えつつ、反対党と政争を行う政治である。
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精神科医と諜報工作員の共通点
2018年3月10日号マキアヴェリ著『君主論』は、国家元首を想定して書かれた書であるが、ビジネスパーソンにも大いに役に立つ。特に、へつらう者、おもねる者を避けよという以下のアドバイスが有益だ。
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シンギュラリティ神話の脱構築
2018年3月3日号ボアズ・ガノール著『カウンター・テロリズム・パズル』は、日本のテロ研究の水準を底上げする。著者のガノール教授は、イスラエルのヘルツリヤ学際センター・国際カウンター・テロリズム政策研究所(ICT:International Institute Counter-Terrorism)の創設者で、テロ問題の国際的権威だ。本書は理論と実務において、テロ対策に関する世界最高レベルの教科書だ。
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憲法改正は見せ球に終わるか
2018年2月24日号朝田武藏著『白鵬伝』は、横綱・白鵬の強さを多面的に考察した好著だ。最も印象に残ったのは、〈大鵬、北の湖、千代の富士。/三人の大横綱が逝き、心の拠り所を失った寂しさが、白鵬にはある。
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日本と米国の社会病理
2018年2月17日号橋本健二著『新・日本の階級社会』によると現下日本社会には、資本家階級、新中間階級、正規労働者、アンダークラス(非正規労働者)、旧中間階級の五つの階級がある。そのうち最も悲惨なのがアンダークラスだ。〈アンダークラスは次のような現状にある。
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消費者金融のインテリジェンス
2018年2月10日号本郷和人著『日本史のツボ』には、高度な学術的内容を一般の読者にも理解できるように記述する秘訣が記されている。それは、21世紀に生きるわれわれが、リアルに感じることができるような解説を加えることだ。
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官僚を信用していない国民
2018年2月3日号ハーバーマス著『後期資本主義における正統化の問題』は、資本主義体制を維持するために国家が経済に介入するメカニズムを精緻に解明している。〈構造の面から見て脱政治化された公共圏においては、正統化の需要は収縮し、二つの欲求が残る。
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仏教の末法思想と百王説
2018年1月27日号ジョン・J・ミアシャイマー著『大国政治の悲劇 完全版』は、リアリスト(現実主義者)として著名な国際政治学者の代表作だ。〈もし中国が台頭しつづけたらどうなるのかという未来像についての私の見通しは、あまり喜ばしいものではない。実際のところ、それはむしろ完全に気の滅入るものである。