記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292件
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Book Reviews 知を磨く読書
現代人に欠かせない教養
2016年10月29日号秋田浩之著『乱流』は、日本の内政と国際情勢に通暁している優れた新聞記者の腕を感じる作品だ。秋田氏は、〈あらかじめ用意した長期戦略どおりに進もうという発想は、国土や国力に恵まれた米国や中国など、一握りの大国に許されたぜいたくといえるだろう。/そんな現実を踏まえると、日本に求められるのは、一見すると矛盾した2つのことだ。まずは世界情勢を見定め、明確な戦略を描くこと。
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人生を豊かにする作品
2016年10月22日号髙樹のぶ子著『オライオン飛行』は、1936年に九州で墜落し、重傷を負って九州帝国大学附属病院に入院したフランス人飛行士アンドレ・ジャピーという実在の人物に、創作上の人物を何人か絡ませて編まれた感動的な作品だ。所々に髙樹氏が登場し、作品を鳥瞰したコメントを差し挟むところが面白い。
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教科書レベルの知識の必要性
2016年10月15日号速水健朗著『東京どこに住む?』では、エリート層の居住形態に関してユニークな考察が展開されている。〈バブル期までの日本では、土地保有税の税額が低く、土地保有のコストが安かったために、投資としての都心部の地価上昇が進んでいた。かつては土地を所有することが、なによりの「富裕層」であることを維持するための手段だったのだ。
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欧州の危機、米国の病理
2016年10月8日号エマニュエル・トッド著(堀茂樹訳)『問題は英国ではない、EUなのだ』は、当事者があまり意識していない家族制度に起因する伝統的システムによるものであるという作業仮説によってヨーロッパの危機を読み解く。〈イギリスは、最も早く産業化し、最も早く貧者救済施設を創設した国ですが、それが、絶対核家族がそれだけでは存続できないことを当時の人々も理解していたことの証しです。
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数学嫌いのための数学入門
2016年10月1日号芳沢光雄著『生き抜くための高校数学』は、数学にかなり強い苦手意識がある人でもやり通すことができる親切な構成になっている。例えば、最大値/最小値と極大値/極小値の違いについて芳沢氏は、〈世の中にはジャンルや地域を問わずに最も有名な人がいるものですが、特定のジャンルや地域を限定すると、その中だけで最も有名な人もいます。
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必然ではない労働力商品化
2016年9月24日号ゾーヤ・モルグン著『ウラジオストク』は、ロシア極東のウラジオストクに居留していた日本人に関する興味深い研究だ。1930年代、スターリンによる反宗教キャンペーンが吹き荒れたが、ウラジオストクの浄土真宗寺院が受けた被害は小さかった。〈ソ連では冷酷な反宗教キャンペーンが展開されていた。
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「21世紀の優生学」の危険
2016年9月17日号小林雅一著『ゲノム編集とは何か』は、最新のゲノム研究に関する状況を一般読者に分かりやすく説明している。〈19世紀に活躍した英国の人類学者フランシス・ゴールトン(進化論で有名なチャールズ・ダーウィンの従弟)らの研究に端を発する行動遺伝学は、人間の「知性」や「性格」などに代表される各種の個性が、遺伝的要因によって、どの程度まで、そしてどのように育まれるかを明らかにする学問だ。
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「強制収容所文学」の傑作
2016年9月10日号西川賢著『ビル・クリントン』では、クリントン時代に関する優れた分析が展開されている。〈外交では冷戦後の地域紛争やテロなど、新しいリアリティの潮流を見極めつつ、柔軟に対処していった。/クリントンは「封じ込め戦略」のような原理原則に基づいて定式化されたのとは異なる、臨機応変の外交を展開することで、新たな国際社会のリアリティに対応しようと試みたのである。
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「取引外交」による大混乱
2016年9月3日号山内昌之著『新版 イスラームとアメリカ』において、山内氏は、〈トランプの対外観の基礎になっているのは「取り引き(deal)」ではないかということです。理念や原則を守り通すのではなく、取り引きによってアメリカが経済的に潤い、格差が解消できればそれでいい、と。
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反知性主義がいかに危険か
2016年8月27日号エフライム・ハレヴィ著『イスラエル秘密外交』は、元モサド(イスラエル諜報特務局)長官による歴史的価値のある回想録だ。ハレヴィ氏は、歴代モサド長官の中でも「最も頭が良い男」として有名だ。シリアのバッシャール・アサド大統領の父、ハーフェズ・アサド前大統領の国家戦略について、ハレヴィ氏は〈シリアはモスクワとの関係を維持し、さらにイランとのつながりを深めた。
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孤立主義のアメリカ外交
2016年8月13日号会田弘継著『トランプ現象とアメリカ保守思想』は、これまで日本人が書いたトランプ関連本の中で最も説得力がある。会田氏は、〈トランプが「アメリカ・ファースト(アメリカが第一だ)」と訴えるとき、そこには「アメリカはもはや世界の警察官ではない」といってのけたオバマの声が反響して聞こえてきます。
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日本的ナルシシズムの成熟
2016年8月6日号トム・バージェス著『喰い尽くされるアフリカ 欧米の資源略奪システムを中国が乗っ取る日』のあとがきでバージェス氏は、〈東アフリカで新たに発見された天然ガス田には、アラブ首長国連邦の全埋蔵量どころか、アメリカの埋蔵量に匹敵する天然ガスが存在すると推定されている。鉱業企業は地下をさらに深くまで掘り進め、アフリカの内陸全域を試掘している。
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優れた文章作法の指南書
2016年7月30日号堤未果著『政府はもう嘘をつけない』の結論部で、堤氏はわれわれの将来について二つの選択肢があると強調する。〈人間を安価な労働力としてしか見ず、限界までコストを下げることで手にした巨額なカネで政治を買い、民主主義を根底から破壊してゆく手法。
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きな臭くなっている世界
2016年7月23日号宮家邦彦著『ハイブリッド外交官の仕事術』は、外務省で中東、米国、中国と外交の最前線で活躍した宮家氏の体験に裏付けられた実践的な仕事のノウハウを伝える。宮家氏は、シミュレーション・ゲームを重視する。〈あなたの競争者の立場に立つ。自分が相手だったら、あなたを、あなたの会社を、そして日本をどう見るかを考えてみてください。
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頭をもたげる沖縄差別
2016年7月16日号西川武臣著『ペリー来航』で興味深いのは、草の根レベルでの反応だ。西川氏は、〈庶民の国際化も、ペリー艦隊の来航をきっかけにして急速に進んだ。特に、一八五四年の横浜村での交渉が二ヵ月間近くも友好的に進められた結果、多くの人びとがペリー艦隊の将兵と交流を繰り広げることになった。
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沖縄を代表する詩人の作品
2016年7月9日号岩瀬昇著『原油暴落の謎を解く』は原油価格の動静を中長期視点から冷静に分析している。〈もし産油国が政治的判断に基づいた減産をしなくても、また世界中で石油供給を阻害する地政学リスクの暴発が起こらなくても、よほどの大不況がこないかぎり、時間の経過とともにリバランスは自然に進んでいく。いつか需要が供給を上回る時期が来る。
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社会を分断させない制度設計
2016年7月2日号井手英策著『18歳からの格差論』は、格差が拡大しつつある日本の現状を真摯に見据え、社会の分断を引き起こさないような制度設計が必要なことについて、分かりやすく説く。井手氏は、〈つらい思いをする人を可能なかぎり少なくする。それは人間にしかできない努力、人間が振りしぼるべき知恵ではないでしょうか。
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ベストセラー候補の研究書
2016年6月25日号池上彰著『知らないと恥をかく世界の大問題7』は、新しい帝国主義時代の到来という切り口から、国際情勢を掘り下げて分析している。池上氏は、〈アメリカは銃社会でもあります。そして市民に銃を所持することについての権利を保護することを訴える「全米ライフル協会」(NRA)は、共和党右派とのつながりを強めています。
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猫たちからもらう創作意欲
2016年6月18日号山根明弘著『ねこはすごい』は、猫研究の第一人者である山根氏にしか書けない、学術的知見に裏付けられた猫の魅力に関する作品だ。山根氏は、〈ねこと一緒に暮らすことによって、またノラねこのいる街に住むことによって、わたしたち人間は、知らず知らずのうちに、ねこから多くのものを受け取っています。
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研究不正が起きるシステム
2016年6月11日号薮中三十二著『世界に負けない日本』は、元外務事務次官による優れた指南書だ。薮中氏は、〈ロジックというのは、世界共通語のようなものである。異なる文化、異なる社会の人々が話し合う時、共通の理解に達するためには世界共通語が必要であり、ここでいうロジックは、ものの考え方としての共通語である。