記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292件
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Book Reviews 知を磨く読書
普天間基地移設問題の本質
2016年1月9日号翁長雄志著『戦う民意』は、沖縄以外の日本で詳しく紹介される機会の少ない翁長沖縄県知事の考えを詳しく述べている。翁長知事は、〈「(普天間基地の)もとは田んぼで何もなかった」「基地の地主はみんな年収何千万円」と発言した有名な作家のように、自分たちで日本の安全保障を守ろうという気概もない人たちまでもが、実態とかけ離れた暴言を吐いています。そこには沖縄に対する無知と無理解、差別意識があります。
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世界史の基礎を身につける法
2015年12月26日号世界史の基本知識を体得するためには、高校の世界史教科書か学習参考書を読むのがいいが、いずれも大人には退屈で読了するにはかなりの忍耐が必要とされる。その点、予備校の講義録型の本は読みやすい
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知を身に付けるということ
2015年12月19日号テレビ記者の松原耕二氏は、中学生を対象に書いた『聞く力、話す力』で、インタビューの技法についてさまざまなノウハウを披露する。例えば、質問から外れたことを延々と話す人への対処方針としてこう記す。
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小泉劇場と日本の政治文化
2015年12月12日号日本再建イニシアティブ著『「戦後保守」は終わったのか』は、過去70年の日本政治について分析した好著だ。上智大学総合グローバル学部の宮城大蔵教授は、〈経世会との権力闘争を背景にした「改革」の遂行を至上命題とした小泉政権にとって、世論の支持は不可欠であった。
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70年前の戦争と日本人
2015年12月5日号1945年8月に南樺太はソ連軍によって占領された。エレーナ・サヴェーリエヴァ著『日本領樺太・千島からソ連領サハリン州へ 一九四五年‐一九四七年』は、権力移行期における樺太在住日本人の状況を伝える貴重な歴史書だ。
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第2次大戦 日ソ戦の悲惨
2015年11月28日号アントニー・ビーヴァー著『第二次世界大戦1939-45』(上中下巻)は、あの戦争の全体像を描いた優れた通史である。
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冷徹な分析と憂国の情
2015年11月21日号『黒潮文明論』は、旧郵政省の元幹部で、奄美諸島・徳之島出身の稲村公望氏によるユニークな作品だ。有能な実務家としての冷徹な分析と憂国の情がこの作品の中で見事に総合されている。中央政府のエリート官僚でありながら、国家権力に対して批判的視座を稲村氏が持ち続けたのは、同氏のルーツが奄美にあることと関係している。
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外務官僚の反知性主義
2015年11月14日号保護者のいない児童、虐待されている児童などは、18歳を過ぎると原則的に独り立ちをしなくてはならない。この問題の第一人者であるマイク・スタイン氏による『社会的養護から旅立つ若者への自立支援』を児童福祉分野の第一人者である池上和子氏が訳している。訳文も読みやすい。
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進むEUの政治的統合
2015年11月7日号ユーロ危機、ギリシャ危機、シリアからの大量難民流入などの要因が、EU(欧州連合)にどのような影響を与えるかを読み解くことが国際情勢分析の鍵になる。児玉昌己著『欧州統合の政治史』は、EUの歴史と構造的に抱える問題を解き明かした優れた本だ。文も読みやすい。
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プーチンのメッセージ
2015年10月31日号評者はロシア専門家である。外交官時代は、クレムリン(ロシア大統領府)に対するロビー活動と北方領土交渉を主な仕事にしていた。現在、第一線で活躍している日本人のロシア専門記者の中で、評者は朝日新聞モスクワ支局長の駒木明義氏を最も信頼している。政治部出身で、過去20年の北方領土交渉の経緯について駒木氏は熟知している。
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日本からの分離運動の恐れ
2015年10月24日号翁長雄志ほか著『沖縄と本土』は、7月29日、朝日新聞東京本社で行われたシンポジウム「いま、沖縄と本土を考える」の記録に一部の参加者の追加インタビュー、関連資料を収録した、辺野古新基地建設問題に関する基本書だ。
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現実の問題を解決する能力
2015年10月17日号NHKスペシャル取材班著『老後破産 長寿という悪夢』は、現在55歳の筆者にとって、ひとごとでない近未来の地獄絵を描いている。
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沖縄人のアイデンティティ
2015年10月10日号米海兵隊普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設をめぐって、中央政府と沖縄の緊張が高まっている。龍谷大学の松島泰勝教授の『琉球独立宣言』は、沖縄人のアイデンティティの変化を分かりやすく記している。松島氏は、〈琉球人がみずからを独自な歴史的主体として自覚する手段が、琉球人アイデンティティです。
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コネ社会ロシアの備忘録
2015年10月3日号山内昌之、佐藤優著『第3次世界大戦の罠』は、地政学の視座から現下の国際情勢を読み解いたユニークな書だ。山内氏は、〈そして大事なことは、いまのイラン・イスラーム革命の指導者たち、ルーホッラー・ホメイニーからアリー・ハーメネイーに至るシーア派指導者たちも、イランの「中華思想」を決して捨てていません〉と指摘する。国際社会の混乱要因となっているイランをシーア派原理主義という観点のみからではなく、ペルシア(イラン)帝国主義の復活という要因も加え、それが中東の地政学に構造的変化を与えていると説く。
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ウクライナ現政権への立場
2015年9月26日号『ウクライナ日記』は、ウクライナの著名な作家アンドレイ・クルコフ氏の2013年11月からの日記の抜粋だ。優れた小説家であっても、自民族中心主義から抜け出せないことが如実に示されている。読んでいて憂鬱になる。もっともそのようなクルコフ氏ですら、14年4月1日の日記に〈昨日、右派セクターの兵士の一人が、国民自衛団の戦士と喧嘩をした挙句、なんと独立広場で、酔ったあげくカラシニコフ銃連続発射をやってのけた。自動小銃の連続発砲音を聞いた街は凍りついた。キエフの臨時副市長を含む三名が負傷した〉と記す。右派セクターはウクライナの現政権の中核となる勢力だ。本書からもウクライナがまともな法治国家でないことが伝わってくる。日本政府はウクライナ現政権に対する政治的、経済的な支援をやめ、ロシアとウクライナの対立について厳正中立の立場で臨むべきと思う。
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保守思想の悪貨と良貨
2015年9月19日号富裕層の子弟ほど良好な教育を受ける可能性が高いという実態が中室牧子著『「学力」の経済学』を読むとよく分かる。中室氏は統計データを解析し、〈もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)です〉と結論づける。確かに中室氏の説明には説得力がある。就学前の幼児に知識の習得だけでなく、しつけや礼儀を含む人格形成、体力の強化などを戦略的に行えば、小学校に入学する時点で、競争に強い子どもになっている。
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テロ対策、特攻の現実
2015年9月12日号国際テロリズム対策の第一人者である警察庁外事情報部長の松本光弘氏による最新刊『イスラム聖戦テロの脅威』は、この分野の書籍で最も水準が高い。国際基準によるテロ対策について、松本氏は、〈ロンドン警視庁は、自爆テロ容疑者を警告なしで射殺する政策を採っている。起爆を防ぐため、最初から脳幹部を狙う。二〇〇五年七月、相次ぐテロへの対応に追われるロンドン警視庁は、無実の青年を誤認射殺してしまった。それでも依然、本政策を維持している。/暗殺を法的に正当化する試みの一つが「戦闘員」の法理である。戦争の一環だと捉えれば、正当な殺害対象になりうるとする。/犯行阻止に加え、将来的な抑止目的でも暗殺を行ってきたイスラエルは、暗殺を「焦点先制」と呼んで法的に正当化する。武器供給商人や科学者までも暗殺している〉と記す。
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集団的自衛権への欲念
2015年9月5日号新進気鋭の憲法学者として、首都大学東京法学系准教授の木村草太氏は、『集団的自衛権はなぜ違憲なのか』において、感情に流されず、この問題の経緯を理論的に丁寧に追究している。昨年7月1日の集団的自衛権を部分的に容認した閣議決定の性格についてこう分析する。
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日本政治を正しく理解する
2015年8月29日号『安倍政権を笑い倒す』で、佐高信氏は、安倍晋三首相の特徴について、〈自分の弱い部分をさらけ出せない人、隠して、虚飾のベールで覆って、自分を実像より大きく見せたがる人は、自分でも気づかないうちに、自意識をどんどん肥大化させていく。人からバカにされたくないから、虚勢を張り、威圧的な態度を取る〉と評する。安倍氏だけでなく、現政権を支える自民党の政治家や高級官僚にも共通する特徴だ。弱いが故に虚勢を張っているのだ。
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ドイツとロシアの接近
2015年8月22日号「影のCIA」と呼ばれるジョージ・フリードマン氏の近未来分析は定評がある。『新・100年予測』では、ドイツ分析が重視されている。〈ドイツはEUの維持、発展に力を尽くしている。(中略)ドイツは深刻な問題を抱えている。EUが何らかの理由で失敗し、ヨーロッパ内に貿易の障壁が復活するようなことがあれば、輸出依存度の極めて高いドイツの経済は深刻な危機に直面する。ドイツにとってEUは決して失敗してはならないものということになるが、ドイツがどこまでEUを思いどおりに制御できるかはわからない。EUがもし失敗すれば、あるいは失敗しないまでも長期にわたる大きな問題を抱えることになれば、ドイツはEU諸国に代わる新たな相手と経済関係を築いていかねばならない〉。