記事一覧:Book Reviews 知を磨く読書292

  • これからの日韓関係を考える

    Book Reviews 知を磨く読書
    これからの日韓関係を考える

    2015年8月8日号  

    金惠京氏(日本大学准教授)の『風に舞う一葉』は、今後の日韓関係を考える際の必読書だ。金氏は、〈日韓両国にはぜひ、「共通の歴史教科書作り」に取り組んでもらいたいのです。ドイツとフランスでは、二一世紀に入ってナチスのホロコーストや対独従属政府であったヴィシー政権の在り方を反省する共通の教科書作りに取り組みました。現在、独仏両国で刊行されている教科書は両国の政治指導者、青少年、歴史家がそれぞれの専門性を生かして関わり、ドイツの全州で認可を受けています。(中略)〉と述べる。

  • 戦後70年に考える領土問題

    Book Reviews 知を磨く読書
    戦後70年に考える領土問題

    2015年8月1日号  

    戦後70年を記念して多くの書籍が発行されているが、そのほとんどが過去の総括である。これに対して、東郷和彦著『危機の外交』は、過去の総括と同程度に未来への展望にページを割いている。特に北方領土問題に関する提言が興味深い。

  • メディアの編集権と書き手

    Book Reviews 知を磨く読書
    メディアの編集権と書き手

    2015年7月25日号  

    ジャーナリストの池上彰氏が日本の新聞の現状について、批判的分析を行ったのが『池上彰に聞く どうなってるの? ニッポンの新聞』だ。去年8月に巻き込まれた「朝日新聞」によるコラム不掲載事件の基本認識について池上氏はこう記す。〈掲載前日の木曜日(8月28日)の夜に、『新聞ななめ読み』の編集担当者から、「すみません、このままの内容では載せられません」と言われたのです。/それに対する私の答えは、「ああ、そうですか」。/(中略)なぜなら、新聞社には「編集権」というものがあるからです。編集権とは字の如く、出版物の編集方針を決定して一切の管理を行う権限のこと。『新聞ななめ読み』の編集権は、発行元の朝日新聞社側にあります。だから最終的に掲載する・しないは新聞社が決めることで、私はとやかく言える立場にありません。それはマスコミ業界の大原則です〉。

  • 近未来ヨーロッパの不安の種

    Book Reviews 知を磨く読書
    近未来ヨーロッパの不安の種

    2015年7月18日号  

    日本では、ドイツに対して何となく好感情を持つ人が多い。しかし、現実に存在するドイツがエマニュエル・トッド著『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』を読むとよく分かる。フランスの人口学者トッド氏は、メルケル首相によって指導されるドイツが、第1次世界大戦前のヴィルヘルム二世のドイツ帝国に近いと考える。

  • 元少年Aの手記は無視すべきか

    Book Reviews 知を磨く読書
    元少年Aの手記は無視すべきか

    2015年7月11日号  

    1997年に神戸連続児童殺傷事件を起こした元少年Aの手記『絶歌』(太田出版)が深刻な議論を引き起こしている。被害者の遺族は激しく反発し、版元に回収を要請したが、版元はそれを拒否した。著者が元凶悪犯であっても、編集者が「このテキストを世の中に伝える必要がある」と考え、収益が見込まれるならば、本は出るというのが資本主義社会における出版の現状だ。この状況を覆すことは不可能だ。この本が出たことによって被害を受けたと考える人が著者と出版社に本の回収を要請するのは当然のことだ。そこで話がつかなければ、出版差し止め訴訟と仮処分申請を行う道がある。

  • 能動的な知性、真の知識人

    Book Reviews 知を磨く読書
    能動的な知性、真の知識人

    2015年7月4日号  

    船橋洋一編著『検証 日本の「失われた20年」』では、日本が長期的停滞から抜け出すことのできない構造的要因を追究する。船橋氏は〈日本の「失われた時代」は、日本だけの挑戦ではなくなりつつある。/確かに日本がこの間に「失った」資産や機会やパーセプションは、日本の組織文化に深く起因する構造的要因を宿している。/しかし、それは日本に固有の文化現象ではない〉と述べ、世界の先進諸国が共通して「日本病」にかかっていることを強調する。本書において、資本主義の全般的危機に関する優れた分析が展開されている。

  • ドルとサイバー空間のルール

    Book Reviews 知を磨く読書
    ドルとサイバー空間のルール

    2015年6月27日号  

    イスラエルの対外インテリジェンスを担当するモサド、スパイ摘発やテロ対策を担当するシンベト、軍事インテリジェンスを担当するアマンなどの活動は、秘密の扉に閉ざされている。ギルボア、ラピッド編『イスラエル情報戦史』は、イスラエル当局が公認した初の論文集で、執筆者も各インテリジェンス機関の長を務めたことがある者を含む超一級の人物ばかりである。

  • イスラム国、沖縄戦の真実

    Book Reviews 知を磨く読書
    イスラム国、沖縄戦の真実

    2015年6月20日号  

    イスラム教スンニ派の過激派組織「イスラム国」(IS)は、現時点ではイスラム教シーア派との「内ゲバ」にエネルギーのほとんどを傾注し、欧米を標的としたテロ活動は若干、沈静化している。しかし、ISの危険を過小評価してはならない。

  • 米国と日本の「価値観と国益」

    Book Reviews 知を磨く読書
    米国と日本の「価値観と国益」

    2015年6月13日号  

    ブレット・スティーブンズ氏は、「ウォール・ストリート・ジャーナル」紙のコラムニストで、保守的な論客として知られている。『撤退するアメリカと「無秩序」の世紀』において、オバマ政権の弱腰外交を批判し、〈保守派の外交政策とは、人心を勝ち取ることではなく、諸外国にある種の習慣を持たせることだ。すなわちレッドラインを慎重に設定し、それを行使するときは徹底的にやる。正義ではなく抑止のために断固たる行動または予防的措置を取り、あからさまな秩序逸脱を罰するか予防する〉と強調する。

  • 読み継がれ、生き続ける書

    Book Reviews 知を磨く読書
    読み継がれ、生き続ける書

    2015年6月6日号  

    鵜飼秀徳著『寺院消滅』は、日本の仏教界の現実を等身大で伝える優れたノンフィクションだ。このままだと観光名所となっている寺院か、墓地や不動産経営で成功している寺院以外は近未来に消滅してしまうのではないかという不安を抱く。さらに本書では、細部の記述が興味深い。例えば、お布施の相場だ。〈葬儀の場合、東京ではスタンダードな額といわれる五〇万円を布施の一つの基準としよう。京阪神や名古屋などではその半分の水準(二〇万~三〇万円)とされ、地方都市だと一〇万円を切るところも多い。宝光寺のある石見地方では、先述のように三万~五万円という。東京の一〇分の一以下の水準だ〉。お布施にも新自由主義的な大きな格差が存在するのである。

  • 共産主義を信じたスパイと歌人

    Book Reviews 知を磨く読書
    共産主義を信じたスパイと歌人

    2015年5月30日号  

    黒田龍之助氏は、スラブ諸語に通暁した優れた言語学者だ。『チェコ語の隙間(すきま)』において、黒田氏は〈ヨーロッパという遠い地域について、同じ日本人でもそれぞれの持つイメージは大きく異なる。多くの人にとって、頭に浮かぶのは西ヨーロッパだけなのかもしれない。だがわたしにすれば、ヨーロッパといえば東欧であり、その中心はプラハなのである。それはベルリンの壁が崩壊し、ビロード革命が達成される前も後も変わらない〉と強調する。ロシアとドイツという巨大帝国に挟まれた中東欧諸国は、今後も国際政治の鍵を握ることになる。本書を通じてこの地域の文化に関する知識を得ることが、国際関係を深く理解する上で有益だ。

  • 21世紀経済学の病理

    Book Reviews 知を磨く読書
    21世紀経済学の病理

    2015年5月23日号  

    学問の世界で、一つの学派がヘゲモニー(覇権)を握ると、多様な観点からの真理の追究ができなくなってしまう。その傾向が著しいのが、21世紀に入ってからの経済学だ。京都大学大学院教授の藤井聡氏の力作『〈凡庸〉という悪魔』を読むと、シカゴ学派がヘゲモニーを握っている経済学界の病理がよく分かる。

  • 強大化する習政権の屋台骨

    Book Reviews 知を磨く読書
    強大化する習政権の屋台骨

    2015年5月16日号  

    21世紀において、中国が米国と並ぶ二大帝国になることは間違いない。朝日新聞の中国専門家として著名な峯村健司氏は、『十三億分の一の男』において、習近平の江沢民、胡錦濤との違いについて興味深い記述をしている。

  • 人間の限界をも教える数学

    Book Reviews 知を磨く読書
    人間の限界をも教える数学

    2015年5月2日号  

    大栗博司著『数学の言葉で世界を見たら』は、数学者の父から中学生の娘に宛てて書いた数学の参考書という体裁になっているが、内容は大学の教養課程レベルだ。〈不完全性定理は自然数の体系についての主張であって、完全で矛盾のない公理系もある。たとえば、実数の足し算や掛け算は矛盾を含んでいない。ただし、実数の中で、その部分集合として自然数を定義しようとすると、そのような理論の中では自分自身に矛盾がないことが証明できなくなる。このように、不完全性定理は自然数を含む理論についての限定的な主張だ。

  • 新たな知の可能性を拓く力

    Book Reviews 知を磨く読書
    新たな知の可能性を拓く力

    2015年4月25日号  

    ドイツのライプチヒ大学東アジア研究所の小林敏明教授の『柄谷行人論』は、文芸批評家で傑出した思想家でもある柄谷行人氏の思考を「他者」というキーワードを軸にして読み解いた意欲的な作品だ。

  • 社会人に求められる勉強の技法

    Book Reviews 知を磨く読書
    社会人に求められる勉強の技法

    2015年4月18日号  

    時代の変化に対応するためには常に勉強を継続することが重要だ。勉強法についてはさまざまな本があるが、大学受験の技法から学ぶべきことが多い。林尚弘著『参考書が最強!』には、自習によって短期間に成績を上げるノウハウが記されている。〈1 授業はなく、参考書で自学自習する/2 参考書には解答解説が揃っているから、ノートは取らない/3 ノートを取る時間を「やってみる」時間、覚える時間に充てる/4 一度覚えたらテストをして、間違えた問題を重点的に復習する/5 完璧になってから次に進む/1週間でいえば、火曜日から金曜日まで1日に2章ずつ完璧にしていきます。参考書でいえば、1週間で1冊のペース。1週間に授業1コマ、1章ずつ進む従来の予備校と比べたら、なんと8倍ペースです〉。正しい順番で本を読み、必要事項を着実に記憶していくという勉強法は、受験以外でも効果を挙げる。

  • 変化する「世界のルール」の地図

    Book Reviews 知を磨く読書
    変化する「世界のルール」の地図

    2015年4月11日号  

    国内外の情勢は、刻一刻と変化する。社会の「ゲームのルール」がどう変化しているかについての地図を得るためには『池上彰のこれが「世界のルール」だ!』が最良のテキストだ。池上氏は政治家の本音をつかむのがうまい。〈安倍首相は記者会見で、「海外派兵は一般に許されないという原則も全く変わらない。自衛隊が、かつての湾岸戦争やイラク戦争での戦闘に参加するようなことは決してない」と述べています。その通り戦闘には参加しないでしょうが、相手の国に「戦闘行為」とみなされる可能性はあるのです。/しかも安倍首相の「海外派兵は一般に許されない」という表現が微妙ですね。「一般」ではない、特殊な事情の場合は、あるのでしょうか〉。

  • 児童支援には抽象論より具体性

    Book Reviews 知を磨く読書
    児童支援には抽象論より具体性

    2015年4月4日号  

    貧困、虐待、ドメスティックバイオレンス(DV)などの理由で社会的保護を必要としている児童の数が増加している。2011年の厚生労働省の発表では、4万6000人だが、専門家は7万人とみている。

  • 正しい事柄は複数ある

    Book Reviews 知を磨く読書
    正しい事柄は複数ある

    2015年3月28日号  

    金沢大学の仲正昌樹教授は、近現代の難解な哲学や思想について、その水準を落とさずに、哲学的知識をそれほど備えていない読者に分かりやすく説明する天賦の才がある。プラグマティズムは、現実に影響を与える重要な哲学であるにもかかわらず、それについての概説書が少ない。仲正氏の『プラグマティズム入門講義』はこの分野での空白を埋める貴重な作品だ。

  • 外国人僧侶が捉えた禅の本質

    Book Reviews 知を磨く読書
    外国人僧侶が捉えた禅の本質

    2015年3月21日号  

    外国人の方が、日本人よりも日本の文化や宗教の特徴を正確に捉えられる場合がある。禅宗に改宗し、僧侶になったドイツ人、ネルケ無方氏の『迷いは悟りの第一歩』を読むと仏教の本質が人間の救済であることが分かる。例えば、「させていただく」という表現だ。

定期購読キャンペーン

記者の目

  • 副編集長 千本木啓文

    農協から届いた「抗議文」を読んで、しばし感傷に浸る

     JA全中から毎年、抗議文をもらうのですが、今年は雑誌の発売前に届きました。特集の一部を「組合長165人が“辛口”評価 JA上部団体の通信簿」としてダイヤモンド・オンラインで先に配信したからです。
     抗議文は、「19万人の農協役職員の0.2%の意見で記事が構成されており、(中略)偏った先入観を植え付ける意図があった」として、続編の配信中止を求める内容でした。
     組合長ら幹部200人超を含む役職員434人の声には傾聴する価値があるはずです。抗議文を読み、自分は若いと思い込んでいる人が鏡に映った老いた姿を見て、こんなはずはないと怒っているような印象を持ちました。自戒を込めて、鏡のせいにしてはいけないと思いました。

  • 編集長 浅島亮子

    ロングセラー第9弾でも攻め続ける農業特集

     今年も人気企画「儲かる農業」特集の第9弾が刷り上がりました。身内ながら感心するのが、毎年新しいコンテンツを加えて特集構成を刷新していることです。今回の新ネタは農協役職員アンケート。ロングセラー企画の定番を変えるには勇気が必要ですが、果敢に新機軸を打ち出しているのです。
     昨年、千本木デスク率いる農協問題取材チームは、共済の自爆営業などJAグループの不正を暴いたことが評価され、報道実務家フォーラム「調査報道大賞」優秀賞を受賞しました。訴訟に屈することなく、問題の本質を突く取材活動を貫いた結果と受け止めています。今回の特集でも粘り強い取材は健在。取材チームの熱量を存分に感じていただければ幸いです。

最新号の案内2024年5月11日号

表紙

特集儲かる農業2024

いよいよ儲かる農業が実現するフェーズに入った。「台頭する豪農」と「欧米のテクノロジー」と「陰の仕掛け人」が”令和の農業維新”というムーブメントを起こしている。他方、農業を牛耳ってきた旧来勢力である農協と農水省は、存在意義を問われる”緊急事態…

特集2家計・住宅ローン・株が激変! 金利ある世界

日本銀行が17年ぶりの利上げで金融政策の正常化に踏み出した。”金利ゼロ”に慣れ切った家計や企業経営、財政はどうなるのか。日本は「成長期待が持てない経済」から抜け出せるのか。それとも低金利は続き、物や資本が余った経済への道を歩むのか。「金利あ…