いずれも、売上高がほとんどないに等しい小さな企業。その買収金額の大きさは不可解に映ったに違いない。こうしたアプリになぜ高い価値がつくのだろうか。

 情報通信総合研究所の岸田重行上席主任研究員は「LINEのようなメッセージアプリは、1日に何度も使うため、他のアプリよりも利用者の依存度が高い」と指摘する。実は、メッセージアプリの本質は、これまでの携帯メール機能とほぼ同じだ。「携帯電話の利用者の多くは、キャリアメールのアドレスをそのまま使いたいため、そのキャリアにとどまった。メッセージアプリにも利用者をつなぎ留める力がある」(岸田氏)。

米ワッツアップの値段は
ユーザー1人42・2ドル

 さらに、ネット業界の多くは広告収入が主であり、ビジネスモデルとも密接に関わっている。

 ネット業界に詳しいUBS証券の武田純人アナリストは「ネット広告は、アドテクノロジーやビッグデータの活用が進み、従来型の『枠』への配信から『人』への配信へと変化し始めている。利用者を押さえたいというのは当然だ」と話す。

 ワッツアップは月1回以上利用する人が、世界に4・5億人もいる。新興国にも強く、広告収入で稼ぐフェイスブックには魅力的に映ったようだ。

 実際、買収金額をその利用者数で割ると42・2㌦。フェイスブックやツイッターの時価総額には、利用者1人に100㌦を超える値が認められており、買収金額が決して法外ではないことがわかる。

 Viberも、世界のアクティブ利用者が1億人いるのに、1人9㌦とあって割安にすら見える。楽天の三木谷浩史会長兼社長も、本誌の取材に「楽天の最も安いサービスでも顧客獲得費用は1人当たり2000円ぐらいかかる」と述べている。

 LINEも毎月の利用者が、推定2億人はいる。収益化に成功していることも考えると、1人50㌦の値がついてもおかしくはない。となれば、1兆円以上の企業価値が見込まれるのだ。

 さて、今年中に上場することが「市場の合意」となっているLINEだが、今回のワッツアップ買収により「単独上場は難しい」という見方が広まっている。

 というのも、上場後の成長戦略として描きやすかった北米進出においては、競合となるワッツアップに大きな後ろ盾ができたことで、陰りが出ているからだ。

 ここで、最善のパートナーとして浮かび上がるのが、ソフトバンク・アリババ連合である。LINEのようなアプリが喉から手が出るほど欲しいソフトバンク側に対し、LINEも、ソフトバンクと組めば米・中の巨大市場に入り込むチャンスができる。

 単独上場か資本提携か、これがLINEの今後の勝負の分かれ道となるだろう──。