『週刊ダイヤモンド』11月16日号の第1特集は「大学格差」です。女子大学は時代遅れで役割を終えたといわれて久しく、1990年代に100校近くあったものが約70校まで減少。偏差値の下落に歯止めがかかりません。生き残る女子大の条件とは何でしょうか。(ダイヤモンド編集部副編集長 臼井真粧美)

津田塾の1992年の偏差値は74
2024年は58までダウン

 ベネッセコーポレーションの協力でまとめた1982~2024年の43年間における偏差値(進研模試の合格可能性60%以上80%未満ライン)の推移を見ると、女子大学の凋落、改革の動向や成果が鮮明に分かる。

学習院女子大の国際文化交流学部が偏差値を維持している理由とは?(写真はイメージです) Photo:PIXTA

「女子大御三家」(津田塾大学、東京女子大学、日本女子大学)の筆頭であり、かつて「女の東大」といわれた津田塾大は、学芸学部の偏差値が1982年では70あった。大学志願者数がピークを迎えた92年には74まで上昇し、それが2023年に60、24年に58と大幅にダウンしている。

「関西女子大御三家」(京都女子大学、同志社女子大学、神戸女学院大学)の一角である神戸女学院大は、82年に63だった文学部の偏差値が92年に68まで上昇した。それが24年には51まで落ち込んでいる。

 この2大学は偏差値が高かった分、下落幅も大きい。

 もっとも、私立女子大学の最高峰である津田塾大の場合、その気になれば、偏差値を上げる策はある。同大では入学者の7割近くが一般選抜で占められており、共学の難関私立大学以上に一般選抜比率(一般選抜による入学者が入学者全体に占める割合)が高い。仮に推薦入試枠を増やし、その分、一般選抜枠を絞って合格のハードルを上げれば、偏差値は上向く。

 もちろん、その策に甘んじない生真面目さに魅かれる学生もいるだろうし、表層的な偏差値アップが大学経営を持続可能なものにするわけではない。

 女子大の大半は推薦を主とした「年内入試」にシフトし、一般選抜比率が下がった上で、偏差値の下落に歯止めがかからない。24年の偏差値を前年の23年と比較しても、下落している女子大は多い。

 学習院女子大学の国際文化交流学部については、前年の偏差値を24年も維持できている。

「学習院女子入学→学習院卒業」
期間限定のお得ルートが人気

 学習院女子大の国際文化交流学部が偏差値を維持しているのは、学習院大学と学習院女子大を統合する計画を学校法人学習院が23年に発表し、学習院女子大に入学した後、統合時に転学して学習院大で学位を取るルートが生まれたことが大いに影響している。

 学習院女子大の同学部の23年時点における偏差値は56。学習院大の国際系学部である国際社会科学部で69。「GMARCH」(学習院大、明治大学、青山学院大学、立教大学、中央大学、法政大学)という首都圏の難関私立大学群にくくられるブランド力で見ても、一般的な大学の格は学習院大が勝るといえよう。

 受験難度やブランド力で格上の慶應義塾大学と08年に合併した共立薬科大学のケースを振り返ると、慶應義塾大の薬学部になってから偏差値は上昇した。学習院女子大の国際文化交流学部も同じ道をたどると想定すれば、学習院女子大に入って転学するルートはお得と解釈される。故に24年度入試で志願者が激増したのだ。

 統合計画が発表された当時、学校法人学習院の耀英一院長はダイヤモンド編集部のインタビューにこのように応じていた。

「今や男性も育児休暇を取得する時代、男女の役割はほとんど同じ。社会状況が大きく変わってきました。近年、女子大は少子化の影響も受け、学部学科の改編のほか、共学化、募集停止などを決断するようになっています。では学習院女子大にとって最適な選択肢は何か。導き出した答えが『統合』でした。これが教育上と経営上のどちらにとっても齟齬のない、前向きな選択だと判断しました」

 女子大の人気が下落したのは、大学そのものの教育や研究のレベルが下がったからではなく、女子学生の共学志向が進んだから――。耀院長が言うように、社会状況の変化、ニーズの変化が助長したのはその通りだろう。

定員を充足できているうちに
統合を決断した

 志願者数激増という打ち上げ花火を最後に上げられるのは、タイミングが良かった。多くの女子大が入学定員割れする中で、ギリギリ定員を充足できているうちに統合を決断した。学習院女子大の世間的な評価が下がり切ってからでは、今回のような統合に対し内部から反発が出て成立しなかったかもしれない。

 共学と統合する選択について、相手が明確に存在するのは同グループや関係の深い共学の大学がある女子大に限られている。その一つが学習院女子大であり、他にこの選択肢を持つのは同志社女子大、甲南女子大学、西南女学院大学などだ。それ以外の女子大で相手探しが難しければ、自ら共学化するという選択肢がある。

武蔵野大と京都橘大は
共学化を機に総合大学へ

 武蔵野大学は03年に武蔵野女子大学から大学名を変更し、04年に共学化。京都橘大学は05年に京都橘女子大学を共学化し名称変更した。両大学が他の女子大よりも元気なのは、共学化を機に学部数を増やして総合大学へと姿を変えようとしたことも大きい。女子大離れの背景には、受験生の共学化志向だけでなく、総合大学志向が進んでいることがあるからだ。

 かつて女子大の大半は1学部で、今も3学部以内にとどめているところが多い。そんな中で比較的元気な下剋上組、昭和女子大学や武庫川女子大学もまた、大学改革で学部数を増やしてきた。

 女子大のままであることを選択するならば、学部の新設や再編で学生を獲得する勝負を仕掛けるか、さもなくば入学者の学力レベルを妥協し推薦入試枠で定員を埋めてほそぼそと延命を図るか。共学を含めて私立大の半数以上が定員割れを起こしており、中途半端な延命措置では長くは持たないだろう。

 18歳人口が減少しているにもかかわらず大学総数は増加し、定員割れの大学であふれ返っている現状は、大学閉校ラッシュ前夜。共学以上の苦境に立つ女子大から募集停止ラッシュが起こること必至である。

「偏差値43年間の推移」
過去最大211大学を一挙掲載

 『週刊ダイヤモンド』11月16日号の第1特集は「大学格差」です。25年度入試は「大学の二極化に最も拍車を掛けた年」と後々振り返ることになるでしょう。

 大学入学共通テスト「新課程入試」となり、試験科目や出題範囲が変わります。難化する共通テストを受験生が敬遠したくなるこのタイミングで、首都圏の私立大学では単純に基礎学力を測る「年内学力入試」がスタート。一般選抜で真剣勝負するのはエリートたちの世界となり、彼らを選抜できる大学は一握りに絞り込まれていきます。エリート以外はますます「年内入試」へ流れ、一般選抜による入学者が数人もしくはゼロになる大学が大量発生していきます。

 この二極化で格差をつけられる大学側は存亡の機に立つ一方、受験生側にはチャンス。意外な大学や学部が入りやすくなり、自らの意思とやり方次第でこの状況を味方にできます。

 存亡の機に立つ最たるものが前述の女子大。特集では43年間の偏差値の推移について、過去最大のボリュームとなる211大学1547学部の早見表を一挙掲載しました。早見表からは女子大の凋落だけでなく、共学になったのを機に総合大学化を進める武蔵野大と京都橘大、下剋上組である昭和女子大と武庫川女子大における学部構成の激変ぶりなども見て取れます。

 このほか特集では、▼二つの大学に受かったダブル合格者の進学先▼世界大学ランキング▼有名企業への就職でお得な大学ランキング▼入試結果に基づく偏差値帯別「本当の合格率」など、データやランキングを満載しました。

 親子世代はもちろん、兄姉と弟妹の間でさえも合格難度や受験システムにギャップが生まれています。こうした変化と最新の情報の中から、意外なチャンスが発見できます。