ビール券は9万円分、ゴルフ接待も…
昭和的な企業間の「上下関係」が残る
自動車部品メーカーにとって、完成車メーカーからの仕事を失うことは「死」を意味することさえある。ダイヤモンド編集部は自動車メーカー取引先アンケートで、サプライヤーが自動車メーカー幹部らに、どんな接待や贈り物をしているかを徹底調査した(アンケートの詳細は特集『自動車・サプライヤー SOS』の#1『【自動車サプライヤー幹部250人調査】トヨタ・ホンダ・日産の「通信簿」、役員のビジョン・値下げ圧力などを辛口評価』参照)。
平日は食事の接待で2次会までお付き合いし、週末はゴルフコンペでまたご機嫌取り――。お中元・お歳暮の贈答品はアサヒビールの「アサヒスーパードライ」を選ぶ。なぜなら「男性が好みそうだから」。
自動車業界の接待文化は、まさに昭和の男性中心文化の象徴のようだ。
下表は、自動車部品メーカーなどが仕事を受注するためにトヨタ自動車やホンダ、日産自動車の幹部らに提供している接待や贈答品の一例だ。
食事の接待は、夕食であれば1人1万円からが相場のようだが、役員クラスの接待では、「2次会も含めると同5万円ぐらい」だという。
ゴルフ接待も必須のようで、トヨタについては「同社社員とのゴルフコンペは事実上、強制参加である」との回答もあった。
コンプラ的にグレーな
昇進の祝い金や金券の贈答も
驚くべきことに、取引先からおカネを受け取る自動車メーカー幹部もいるようだ。
昇進や異動の祝い金やビール券といった金券の贈り物は、会食やゴルフよりも贈収賄的な意味合いが強く、コンプライアンス的にもグレーだ。
上表のB社は、昇進祝いの商品券として、トヨタと日産の役員に1人10万円分、両社の部長ら幹部に同5万円分、両社の社員に同3万円分の商品券を贈呈したという。
また、上表のD社はビール券を、トヨタに同1万~3万円分、ホンダに同4万~6万円分、日産に7万~9万円分贈ったという。
ビール券の受取額が多かった日産は、ダイヤモンド編集部の自動車メーカー取引先アンケートにおいて、サプライヤーからの評価による「交渉の態度、コンプラ意識」の得点が5点満点中2.5点と、トヨタの3.3点、ホンダの3.0点を大きく下回った(詳細は同特集の#1『【自動車サプライヤー幹部250人調査】トヨタ・ホンダ・日産の「通信簿」、役員のビジョン・値下げ圧力などを辛口評価』参照)。
こうした現金や金券の提供が常態化しているとすれば、自動車業界のなれ合い体質、排他性を象徴するものであり、大問題だ。EV(電気自動車)化や自動運転の普及に置いていかれつつある日本の自動車業界のスピード感のなさの要因の一つとすらいえるかもしれない。
男性中心の「昭和」な組織文化で
多様なニーズに応えるクルマを造れるのか?
かねて自動車業界は、新車の開発責任者がほとんど男性であるなど、男性中心の体質の弊害が指摘されてきた。
アンケートの結果で分かった接待などの実態からすると、開発のみならず、調達部門も男性中心で、多様性に欠ける昭和的な価値観が残っているのではないかと考えざるを得ない(自動車業界の男女格差についての詳細は、同特集の#16『自動車業界「賃上げ・人材採用力」ランキング【全216社】4位ルネサス、6位横河電機、8位日産、トヨタは何位?』参照)。
自動車業界は、多様な人材に活躍してもらうためにも、接待や昇進の祝い金などのような悪弊を改めるべきだろう。
「下請けいじめ」の生々しい実態
男性中心の風土をデータで解明
『週刊ダイヤモンド』11月23日号の第1特集は「自動車・サプライヤー『緊急事態』」です。本特集では、自動車メーカー取引先アンケートの251人の回答を基に、サプライヤーに課したリベートが下請法違反に当たるとして公正取引委員会から勧告を受けた日産や、トヨタ、ホンダの「下請けいじめ」の実態に迫ります。
かつて揺るぎない結束を見せていたトヨタのケイレツの綻びも明らかにします。トヨタ系アイシンと三菱電機との合弁会社設立協議が「破談」になった背景には、 “親戚”に当たるトヨタグループによる“冷たい視線”がありました。
自動車メーカーにとって、有力なサプライヤーと協力関係を築くことの重要性は高まっています。話題のホンダ、日産、三菱電機のEV開発における提携の鍵を握るのも、3社と関係が深い大手部品メーカーです(詳細は、同特集の#15『ホンダ、日産、三菱の提携のカギを握る「日立アステモ」の実力と課題を解明!ソフト開発ではソニーやSCSKとの提携が必須か』参照)。
大転換期を迎えた日本の自動車業界の課題を、部品メーカーの視点から徹底解明した一冊です。ぜひご一読ください。