『週刊ダイヤモンド』10月26日号の第1特集は『物流大戦』です。トラックドライバーの残業時間が制限される「2024年問題」に対応し切れない中小事業者の倒産や事業譲渡が増え、ヤマトホールディングスやSGホールディングスなど上場大手もM&Aで生き残りを懸ける戦いが始まっています。日本経済を底支えする物流業界で今、何が起きているのか。その最前線に迫ります。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

1位C&Fロジ、3位アルプス物流
上期株価上昇率で物流株がランクイン

Photo:Diamond, TayaCho/gettyimages

 今年4月、自動車運転業務の時間外労働の上限が年間960時間に制限される働き方改革関連法が施行された。いわゆる「2024年問題」によりトラックドライバーが一日に運べる荷物の量が削減され、物流会社は旧態依然としたビジネスモデルの転換を迫られている。

 6万3000社余りの運送事業者のうち、その過半数はトラック保有10台以下の小規模零細事業者だ。人手を確保できない上に燃料費の高騰などで資金繰りが悪化し、倒産や会社の売却を選ぶ事業者が増えている。

 再編淘汰の波は、上場大手にも押し寄せる。業界を震撼させたのが3月、AZ-COM丸和ホールディングスが同業のC&Fロジホールディングスに仕掛けたTOB(株式公開買い付け)だ。

 丸和は22年10月に経営統合の提案を持ち掛けたが拒否され、C&Fの経営陣の同意のないまま買収提案に踏み切った。

 最終的に佐川急便を傘下に持つSGホールディングスがホワイトナイト(白馬の騎士)として名乗りを上げ、丸和の提示した1株3000円を倍近く上回る5740円でC&Fを買収。この争奪戦でC&Fの株価は急騰し、東京証券取引所プライム上場企業で今年上半期に最も値上がりした銘柄となった(下表参照)。

 3位のアルプス物流も、アルプスアルパイン系の物流会社だ。この入札には当初15社もの物流会社や倉庫会社が参戦し、激しい争奪戦の末に米投資ファンドKKR傘下のロジスティード(旧日立物流)が1株5774円でTOBを実施することが決まった。6月には西濃運輸を傘下に持つセイノーホールディングスが、三菱電機から三菱電機ロジスティクスを572億円で買収した。

 経営陣が参加する買収(MBO)も活発化している。岐阜県に本社を置くエスライングループ本社のMBOが6月に成立し、東証スタンダード市場から上場廃止される。配送仲介事業に強みを持つトランコムも9月、米投資ファンドのベインキャピタルと組み、MBOを実施すると発表した。

 2024年問題がトリガーとなり、突如として勃発した物流業界のM&A(合併・買収)。C&Fやアルプス物流で起きたような株価高騰が、他の銘柄に波及する再現性は高い。その理由を次ページで明らかにする。

宅配王者のヤマトも苦戦
勝ち残る覇者は一体誰か

 物流業界のM&Aが活発化する背景には、物流会社同士が規模の利益を追い、主にメーカー系物流子会社の争奪戦を始めたのとは別の要因もある。海外マネーの流入だ。

 日本の物流業界には、自前倉庫などの資産を潤沢に持つ「アセットヘビー」な会社が多い。

 独DHLグループやデンマークのDSVなど、資本効率の良いグローバル物流企業の平均PER(株価収益率)21.6倍、平均PBR(株価純資産倍率)5.5倍に対し、国内陸運業全体の平均PERは14.6倍、PBRは1.1倍だ。その差は大きい。

 アセットがヘビーで資本効率が悪い上場企業に対しては、アクティビスト(物言う株主)に限らず、国や東証も改善要求を突き付ける時代だ。資産を売却し、その売却益をM&Aや成長投資に充てれば企業価値は高まる。そうした視点で物流企業に着目するファンドは、KKRやベインにとどまらない。

 それは、業界内で“食う側”の大企業であっても、業績と株価の低迷が続けば、たちまち“食われる側”に回ることを意味する。まさに今、そんな苦境に立たされているのが宅配最大手のヤマトホールディングスだろう。

 24年4~6月期の営業収益は前年同期比3.5%減の4056億円で、最終損益は101億円の赤字だ。通期の営業収益予想は400億円下方修正され、前期比微増の1兆7800億円にとどまる。ヤマトの株価は低迷し、時価総額は6000億円を割り込んだ。ヤマトより売上高が少ないライバルのSGの時価総額が1兆円規模であるにもかかわらず、である。

 ヤマトの最大の強みは、約18万人の従業員と約3000もの営業所を全国に張り巡らせた配送ネットワークにある。裏を返せば固定費が重く、単価が安い荷物を大量に運ぶ「豊作貧乏」であるが故に利益率が改善しない。

 そうした悪循環を打破すべくヤマトは今、インターネット通販最大手のアマゾンジャパンに「適正単価」を求める交渉に乗り出している。

 異業種の参入も相次ぐ。トヨタグループの日野自動車や伊藤忠商事は、新たな物流プラットフォーマー構想の実現に動き始めた。デジタルやドローンなど新技術を駆使したベンチャーも生まれている。

 今の物流業界は、生き残りを懸けて各社が群雄割拠する大再編時代だ。勝ち残る覇者は一体誰か──。

アマゾンvsヤマトvs新盟主
大手物流同士の激しい争奪戦の内幕

 『週刊ダイヤモンド』10月26日号の第1特集は『物流大戦』です。本特集では大再編時代に突入した物流業界の最新動向を詳報します。

 Part1『物流戦国時代』とPart2『狙われる物流企業』では、大手物流同士の激しい争奪戦の内幕や、再編の「台風の目」となり得るキーマンに直撃しました。本誌初公開の業界最新マップも掲載しています。

 Part3『アマゾン戦線異状あり』は、物流の運賃値上げを巡り、インターネット通販最大手のアマゾンジャパンと宅配最大手のヤマトホールディングスが水面下で交渉する舞台裏や、それぞれの思惑に迫ります。

 ネット通販の世界では「送料無料」や「即日配送」の文句が当たり前のように並んでいますが、それが果たして持続可能かも検証しました。

 Part4『物流革命』は、トヨタグループの日野自動車が始めた「メーカー物流連合」や、伊藤忠商事が主導するフィジカルインターネット構想、あるいは気鋭のスタートアップなど、物流業界の新参者たちに迫ります。

 物流業界の「今」が分かる一冊です。ぜひご一読ください。