もちろん、TOEICの点数アップが英語化のゴールではない。

 「リスニングとリーディングの試験であるTOEICで800点を超えていても、ビジネスで使える英語を話せる人はまだまだ少ない」(野田公一執行役員)として、海外への留学や研修を行ったり、スピーキングテストのヴァーサント(Versant)を導入したりなど、さらなる英語力の強化に乗り出している。

 英語を社内公用語にまでした楽天の動きは、突出した事例ではあるが、今後、企業では英語力のある人材を求める動きはますます高まっていきそうだ。

英語強化に動くサントリー
実践力重視の双日と住友商事

 「グローバルな成長を実現するためには、社員全員の語学力や異文化対応力をとてつもないスピード感で向上させなければならない」

 サントリーホールディングスの佐治信忠社長は昨年4月17日、イントラネットを通じてグループ全社員にメッセージを伝えた。

 同日、グループの中核企業であるサントリー食品インターナショナル(SBF)では「英語力強化宣言」を掲げ、全社的な英語強化活動「KEY(京橋・英語・やってみなはれ)プロジェクト」をスタートした。

 KEYプロジェクトの目標は14年2月までにSBF京橋本社の全部署でTOEIC平均スコアを100点アップすること。対象者は、40歳以下の非管理職361人である。

 英語化にかじを切った背景にあるのは事業のグローバル化だ。

 SBFでは海外事業の買収などにより、この5年で海外事業のウエートが急増。売上高である約1兆円の約3割を海外事業が占めている。さらに海外事業の強化によって20年には売上高2兆円を目標に掲げている。

 そこでグローバル人事グループが中心となり、英語強化の啓蒙活動を行ったり、月2回の模擬試験やチーム対抗戦など、英語力アップのための仕組みを構築した。また、部門ごとに約20人の英語リーダーを置き、自発的な取り組みを提案・実行させている。

 社員への英語教育で最も進んでいるのが商社だ。

 「業務がグローバル化した今は高いレベルの英語力が求められており、昔のような〝海外に行けば何とかなる時代〟ではなくなった」(阿部洋司・双日人事総務部課長)

 双日では約2300人の社員のうち、約2割が海外に赴任しており、さらに国内の社員であっても海外拠点とのやりとりなどで英語が必要な機会は年々増えている。

 こうした中、04年にはTOEICを導入。研修を含む海外赴任時のみならず、入社から約5年後の昇格時期までに全員が650点を取得することを義務づけた。

 さらに11年には730点へ引き上げると同時に、スピーキングとライティングの試験であるTOEIC SWも追加。それぞれレベル6と7を要件とした。教育プログラムを拡充した結果、社員の英語力は目覚ましく向上した。

 TOEICで730点以上の社員は、10年12月で全体の約4割にすぎなかったが、13年10月には約7割に達した。また、TOEIC SWについても、スピーキングでレベル6以上の社員は3割強から6割強と倍増し、ライティングでレベル7以上の社員も約4割から7割へと増加した。

 一方、住友商事では、「TOEIC730点は基礎の基礎。そこまでは自助努力で勉強してもらう」(唐澤圭・人事部主任)として、一定の英語力を持つ社員を対象に、英語によるプレゼンテーションや交渉などの実践的なノウハウを教えるプログラムを設けている。

 同社の総合職社員は入社11年目までにTOEIC730点を取ることを求めていたが、来年度からは入社5年目までに短縮する。

 また、入社前の内定者に対して、オンラインの英語講座などを提供し、入社時までに730点を取得することを推奨している。

 その結果、新卒採用者の入社時のTOEIC平均スコアはすでに約780点に達しており、「来年に入社する社員の平均スコアは800点を超えるだろう」(唐澤氏)という。

 社員に対しては今後、TOEICのスコアだけではなく、コミュニケーション能力も基礎能力として課す。来年度からは英語のスピーキング能力を測るBULATS(ブラッツ)を導入。6段階で上から3番目のB2レベルを海外駐在の要件にする予定だ。

 サントリー、双日、住友商事の英語強化の取り組みは、一つの事例にすぎない。多くの業界で事業のグローバル化が進む中、企業による英語強化の取り組みは今後、ますます高まることになりそうだ。

世界のエリートと仕事し
議論する英語力習得の「基本」

 こうした動きを背景に、『週刊ダイヤモンド』2014年1月11日号では、「即効!英語勉強法」を特集しています。