中長期目標に「事業規模2兆円」
大林組、鹿島に肩を並べようとした
「業界ナンバーワンを狙って目標を上げ過ぎた。それから、おかしくなったんでしょうね」。今年6月に大手ゼネコンの大成建設の村田誉之社長(現副会長)が社長を辞任したことに対して、あるゼネコンの首脳はそう語った。
大成は中長期の目標として「事業規模2兆円」を掲げた。2020年3月期売上高(連結)でトップの大林組は2兆730億円、2位の鹿島は2兆108億円。大成はこれらに肩を並べようとしたのである。
村田氏は社長交代を発表した会見の場で、18〜20年度中期経営計画(下表参照)の未達が見えており、「執行部門の長としてけじめをつける」という意味での辞任だと自ら説明した。
現中計は、10年に策定した社内向けの長期ビジョンの最終フェーズと期間が重なっていた。23年の創業150周年に向けて総仕上げをする時期でもあった。
ここで中計の大幅未達を見込むことは、村田氏にとって相当なプレッシャーだった。そもそも現中計の1年目、2年目は実績を伸ばしていた。それなのになぜ、3年目の今年度は落ち込むのか。
今年度は新型コロナウイルスの感染拡大のさなかだが、建設業への影響はまだ大きなものになっていない。それでも大成はコロナの影響で工事の工程が遅れ減収、リニューアル工事などの受注も減り、売上高が伸びないと説明している。
中計の3年間は、20年夏に開催が予定されていた東京五輪・パラリンピックに合わせた工事がめじろ押しになっていた。建設業界には仕事があふれ、人手や資材の不足に苦しめられた。それは大成も例外ではなかった。
住友不動産が施主の東京・西新宿5丁目の再開発工事では、大型ビル2棟のうち、大成が大きい方のA棟を受注したものの、小さい方のB棟に手が回らず、B棟は他のゼネコンが受注した。人手や資材に逼迫したが故に取りたい工事を取り切れない事態が発生した。
そんな中でも、当初案の撤回で建設スケジュールが押せ押せになった国立競技場は、予定通り19年11月末に竣工してみせた。
しかし、手いっぱいの状況下で想定外の事故まで起きた。19年6月下旬、大成が手掛ける熊本市の再開発複合施設「SAKURA MACHI Kumamoto」の工事現場で火災事故が発生。工期が9月に迫った待ったなしの状況だったが、竣工は間に合わせた。
結局、受注を詰め込んだためにやり切れなかったり、トラブル対応もあって不採算工事が出たりして、中計未達の判断に影響したとみられる。
ゼネコンの逼迫は、下請けの専門工事業者(職人)にしわ寄せが及ぶ。受注時の採算性が悪いだけでなく、工事の遅れや工期の短さが原因で、下請けの中でも大きな規模の1次下請け業者でさえ赤字となったり、職人が時間に追われたりするケースは後を絶たない。
これはゼネコン業界全体にかねてはびこる問題だが、現場のゼネコン社員の振る舞いに左右される部分も大きい。とりわけ「大成」の名を挙げると、職人は怒りと涙があふれる〝最悪の現場〟として有名な「丸の内3-2計画」(現丸の内二重橋ビルディング)の記憶が呼び覚まされるという。
「3-2」は、猛暑でエアコンがない中、工程の遅れで職人が長時間働かされ、大成社員によるどう喝もあったとして、職人の間で悪評が広がっているのだ。この現場を経験した職人によると、最近、都心の大型現場でまた大成の名が話題に上っているという。
三菱地所が23年度の竣工を目指し、高層ビルとして日本一の高さとなる常盤橋トーチタワーの工事は、下馬評で大成が受注するといわれている。まだ入札は行われていないが、「大成になったら『3-2』と同じ支店の管轄なので、あのときの大成社員が担当するかもしれないと、下請けたちは心配している」(職人)という。
大成社員による下請けの扱いのひどさや、赤字工事に付き合わされて泣かされたという負の側面は、コロナへの対応にも表れていた。
会社発表後に
現場コロナ感染は
さらに7人増えた
大成は7月15日に、都内作業所で従業員15人(社員11人、派遣社員4人)、専門工事業者2人のコロナ集団感染が起きたことを発表した。この作業所は、9月末に竣工する予定だった東京都千代田区にある日本郵政霞が関本社ビルの耐震化工事の現場で、感染の発覚により22日間現場作業が止まった。
感染症である以上、感染が起きることは仕方がないが、その人数の多さが職人たちに恐怖を与えた。職人が自主的にPCR検査を受けたところ、さらに7人の感染者が見つかっている。
この追加の7人が見つかる前に保健所の調査に協力した大成は、作業所の従業員15人と専門工事業者2人は濃厚接触者ではないと認定され、それを国土交通省に報告し、職人たちにもそのように説明したという。同じ現場の職人の中で感染者がさらに7人も増えているのに、別経路としているのだ。
事態を知った日本共産党の参議院議員は、7月30日に開催された国土交通委員会で国交省の不動産・建設経済局長にこの件を質疑した。職人9人の感染が発覚したことを問題視したもので、現場に出入りする全ての従事者のその後の職場の追跡や、休業補償の考え方を示す内容を建設業向けのコロナ感染拡大防止のガイドラインに盛り込むべきではないかと、この議員は提起した。
ダイヤモンド編集部の取材によると、この委員会翌日の31日、大成は専門工事業者を集めて休業補償の説明をし、大成の労働者災害補償保険(労災)を使った労災申請をするように職人に呼び掛けた。
大成の労災を使うのならば、大成は従業員から専門工事業者に感染が広まったと認めているようにも思える。大成は、「罹患した専門工事業者は感染した当社従業員の濃厚接触者には該当しないということではあるが、労働者保護の観点から、監督官庁と協議の上、労災申請を実施した」と説明するが、結局、感染拡大を防ぐ手だてが後手に回った感がある。
また、22日間現場作業を止めたにもかかわらず、9月末までの工期は延長されなかったと下請け業者の間ではささやかれている。
大成は「個別工事の事象については、回答を控える」と言うが、それでも職人たちにしわ寄せがあったことがうかがえる。
職人の給与体系は日給月給制が多いため、現場が閉じて仕事がなくなれば、他の現場に移る。そのうちに感染が拡大しかねない。大成が感染の広がりを実際より小さく伝えることは、他の現場の職人を含めた安全をないがしろにしているとの誹りを免れない。
ゼネコン業界では長らく、立場の強いゼネコンが下請け業者に無理を強いてきた。大成を見るに、その旧弊は変わっていない。想定外の事態で業績が狂うばかりでなく、陰で下請けが痛めつけられている。そこから目を背け続ければ、下請けのなり手はいなくなる。
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(ダイヤモンド編集部 松野友美、臼井真粧美、大根田康介)