「どうしてあんな発言をしたんだね」。総代会の重鎮にこんなお叱りを受けたのは、日本生命保険の児島一裕常務執行役員だ。
その理由は、昨年11月28日に行われた2014年度上期の決算会見での発言だ。
「日本最大にこだわっている当社にとって、看過できない」
生保のガリバーを自他共に認める日生が、売上高に相当する保険料等収入で、業界第2位である第一生命保険に逆転を許したからだ。その事態に児島常務は、思わず真情を吐露してしまったわけだ。
ちなみに、総代会とは、生保特有の会社形態である相互会社にのみ、存在する制度。株式会社の株主総会に相当するといわれるが、200人から成る総代の肩書は、企業規模の差はあるものの、社長や役員のオンパレードだ。
そういったお偉いさんが叱責しなければならないほど、日生には焦りが透けて見える。
では、ガリバー日生が、第一の後塵を拝した理由は何か。答えは単純明快。第一の子会社である第一フロンティア生命保険が、みずほ銀行を中心に、外貨建て個人年金保険を売りまくったからだ。
第一の銀行窓販での売上高は約1兆円に上るが、日生のそれは、約2200億円と第一の4分の1以下でしかない。
「銀行窓販は浮き沈みのリスクが高いので、あまり力を入れていない」(日生幹部)
そういう面は確かにある。実際、上期決算が終わった後、窓販での売れ行きは少々鈍化しており、「通期では日生に抜き返されるのではないか」(第一幹部)との見立てもなくはない。
とはいえ、7年前に第一は大手生保として初めて、本体から分離独立するかたちで銀行窓販専用子会社の第一フロンティアを一から立ち上げた。本体で銀行窓販を行うには、システムが巨大過ぎて機動性に欠けるためだ。
もっとも、立ち上げ後にリーマンショックに見舞われるなど厳しい時期が続いたが、「毎年200億〜300億円の赤字が続いても構わない」(渡邉光一郎・第一社長)と割り切ってきた。
さらに、第一は損保ジャパン(現損保ジャパン日本興亜)から損保ジャパンDIY生命保険を買収し、ネオファースト生命保険に衣替えした。システムも全て一新し、これまで手薄だった保険代理店チャネルに加え、第一フロンティアの成功を引っ提げ、銀行での平準払い(月払い)の保険販売に本腰を入れる構えだ。
相互会社から株式会社に転じた後は、しばらく低迷が続いた第一だが、これまでまいてきた〝種〟が芽を出し始めた結果が、今回の逆転劇につながったとみることができる。「金利が上がれば、一気に資金が流出する可能性が高い一時払い終身保険を販売せずにあの業績だ」(渡邉社長)と胸を張る。
一方の日生はといえば、相変わらず本体で銀行窓販を行っているのみ。その実、「第2ブランド構想」を水面下で走らせ、第一と同じく銀行窓販子会社の設立に動いており、現在、買収先を物色中だが、いまだ光は見えない。
しかも、第一には昨年、買収した米プロテクティブ生命保険の売上高約4000億円も、じきに上乗せされてくる。そうなれば、年間を通して第一が日生を上回る可能性もあるわけで、これぞまさに看過できない事態となるだろう。
生損保の“絶対王者”が陥落
保険業界で蠢く地殻変動の真実
今週の週刊ダイヤモンド2025年1月25日号[990円]
ホンダ・日産の命運
急転直下の婚約劇ーー。ホンダと日産自動車が経営統合に向けた検討に関する基本合意書を締結した。昨年、両社に三菱自動車を加えた3社は「自動車の知能化・電動化」領域において提携しており、協業を深化させることになった。3社の販売台数は837万台となり、トヨタグループ、独フォルクスワーゲンに次ぐ世界3位に躍り出る。ホンダと日産が統合を急いだ背景には、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の存在があった。日産のかつての盟友である仏ルノー、経済産業省、みずほ銀行をはじめとする銀行団、そして日産の経営不振に付け込むアクティビストーー。日産買収劇には多くの利害関係者の思惑が渦巻いており、統合交渉の行方は視界不良だ。統合か破談か。波乱含みの買収ゲームが始まった。
週刊ダイヤモンドの見どころ の最新記事
- 2025年1月25日号ホンダ・日産の統合は難航必至!「三菱グループ3社」が自動車業界再編の鍵を握る理由とは
- 2025年1月18日号半導体・鉄鋼並みの外貨獲得力も!世界で超成長する「ゲーム産業」で日本企業はどう生きるか
- 2025年1月4日号株価「4万8500円」説も飛び出す25年予測、政治・政治は「トランプ・ショック」で秩序崩壊も
- 2024年12月21日号銀行・信金&信組「最新ランキング2025」、負け組5位高知・勝ち組1位は伊予!金利上昇時代に付き合うべき銀行は?
- 2024年12月14日号日本製鉄やホンダも戦々恐々、米国の「トランプ復権」で日本企業に大試練