記事一覧:Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」225

  • 最後は失意のうちに村を去る原子力村のドンと呼ばれた男

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    最後は失意のうちに村を去る 原子力村のドンと呼ばれた男

    2015年9月19日号  

    昔のことは、どんどん分からなくなっていく。70年前のことも、つい今の感覚の延長線上で想像してしまうが、『湯川博士、原爆投下を知っていたのですか』の中には、このような指摘が登場する。「平和になってから聞けば、原爆で一瞬にして10万人が亡くなったというのは確かに驚きなんだけど、日本は戦争で300万人とか死んでるわけでしょ。(中略)被害という点で、原爆だけが特別だという意識は、戦後しばらくはなかったんじゃないですかね」

  • 日本史と世界史を分断せず“近現代史”の理解を深める

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    日本史と世界史を分断せず “近現代史”の理解を深める

    2015年9月12日号  

    先の戦争というと、約4年間続いた米国との太平洋戦争を思い浮かべる人が多い。実際には、1931年の満州事変から約14年間も戦争状態は続き、戦域も西はインドまで広がっていた。今や、そうした事実を認識する人は減っている。高校の授業では、“近現代史”は時間切れになりがちで、日本史と世界史が別々に教えられているという問題もあり、統一的な視点に欠けるきらいがある。歴史教育が不十分なことも他国との関係がこじれる理由の一つなのだろう。

  • 昭和陸軍を戦略構想から読む“戦後70年”にふさわしい力作

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    昭和陸軍を戦略構想から読む “戦後70年”にふさわしい力作

    2015年9月5日号  

    日中戦争は、私の祖父も従軍した戦争である。彼は傷痍軍人となったが、幸いにして生還することができた。生前、戦争について多くを語ることはなかったが、一度だけ、中国の地図を広げて、孫たちに自分がどこで戦ったのかを語ってくれたことがある。ただ、なぜ自分たちが応召され、何を目的として戦ったのか、本人もどれほど理解していたか分からなかったし、こちらも聞く機会を逸してしまった。

  • 意思決定で読み違いを減らし妥当な判断を行うためのコツ

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    意思決定で読み違いを減らし 妥当な判断を行うためのコツ

    2015年8月29日号  

    2014年11月18日に、翌15年10月から予定されていた“消費税の再増税”が延期された。その決定の前日に公表された7~9月のGDPは、前月比▲0.4%であった。しかし、GDPは公表から21日後の12月8日に▲0.5%に、さらに91日後の15年2月16日には▲0.6%へ下方修正された。一連の意思決定に影響を与えたのは、▲0.4%とする情報である。速報値と後に加工された確定値との間に潜むギャップが、しばしば意思決定の場で読み違いを引き起こす可能性があるとすれば、実務者もその対策が必須になるだろう。

  • 停滞の原因はデフレにあらず“経済体制の転換”が鍵を握る

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    停滞の原因はデフレにあらず “経済体制の転換”が鍵を握る

    2015年8月22日号  

    戦後経済史というタイトルでありながら、戦前と戦後の断絶は大きなものではなかった、と本書はいう。総力戦に対応するための総動員体制は、戦後になっても継続していた。焼け跡からの復興にそれが見事に役立ったのが高度経済成長であり、過剰適応によって時代の転換に乗り遅れたのが「失われた20年」であった。その根本を変えないアベノミクスには、何一つ期待できない。むしろ、症状を和らげることで病因を深化させている。それが、著者の主張である。

  • 個々人が持つ才能を引き出すリーダーシップに関する好著

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    個々人が持つ才能を引き出す リーダーシップに関する好著

    2015年8月8日号  

    リーダーシップは、難しい。このテーマを扱った書籍やセミナーが氾濫していながら、一向に減る傾向が見られないということは、評者の教えているビジネススクールをはじめとして処方の効果が上がっていない──。すなわち、リーダーシップに関する書籍やセミナーや学校は、限りなく無意味だという証拠に他ならないのではないか。すでに、『ハーバード大学特別講義 リーダーシップが滅ぶ時代』(ソフトバンククリエイティブ)という書籍まで出ている。

  • 米国の保守派論客が喝破する“世界の警察官”が必要な理由

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    米国の保守派論客が喝破する “世界の警察官”が必要な理由

    2015年8月1日号  

    日本と中国が戦争になれば、米国の軍隊は日本を守るために戦ってくれるのか──。米「ウォールストリート・ジャーナル」紙の外交問題コラムニストであるブレット・スティーブンズ氏の認識に従えば、「米国は戦ってくれない」となる。なぜなら、現在の米国は、イラク戦争(2003年~11年)での苦い経験と、近年の国力の低下により、「米国を侵略する敵以外とは戦わない」という“孤立主義”に陥っているからである。

  • 問題解決のための精神である“国際協調”の本質を問い直す

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    問題解決のための精神である “国際協調”の本質を問い直す

    2015年7月25日号  

    著者は、中東欧や南欧の小国の政治史を手掛けてきた誉れ高き歴史家。民族が入り乱れるだけでなく、大国間の対立に巻き込まれ、国境を超える資本主義にも晒される歴史から見る世界は独特だ。すなわちこの大著で明かされるのは、19世紀から現代に至るまで試みられてきた国際協調の精神と実践の歴史だ。

  • 職人的ジャーナリストによる人間くさい“36年間の懺悔録”

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    職人的ジャーナリストによる 人間くさい“36年間の懺悔録”

    2015年7月18日号  

    「週刊ダイヤモンド」と「ダイヤモンド・オンライン」は、どこが違うのか。一番の違いは、字数制限だろう。インターネットは活字に比べると緩い。だから、ネットで書き慣れると、つい文章が冗漫になる。逆に活字メディアは、ページ内に収まるように字数を惜しむ。特に新聞は極力、ぜい肉をそぎ落とす。語尾を体言止めにして字数を稼ぐのは序の口で、時には読者の想像力を信頼して最も書きたい一行をあえて落とすこともある。

  • “代表民主制”を掘り下げて多様性のある政治を考える

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    “代表民主制”を掘り下げて 多様性のある政治を考える

    2015年7月11日号  

    形骸化して何も決められない政治。民意と乖離した政治。日本のみならず、近年は各国で“議会制民主主義”への不信が高まっている。IT(情報技術)を駆使し、民主主義の初期の姿である“直接民主制”に回帰せよという意見もあるが、それで問題の解決になるのか。評者は“代表民主制”は政治体の規模が巨大化したために直接民主制の代案として便宜的に導入されたと思っていたが、『代表制という思想』は代表制に大きな利点があることを教えてくれる。多くの人が代表制の危機と感じることは実は代表制に内在する問題ではなく、社会の変化に原因がある。民意が多様化し、不確実性が増大する中では限られた財源で皆が納得するような決定は容易ではない。

  • プロの仕事ぶりが堪能できるネコの目線で撮られた写真集

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    プロの仕事ぶりが堪能できる ネコの目線で撮られた写真集

    2015年7月4日号  

    評者は、平日はほとんどテレビを見ない。取り立てて、ペットとしてのイヌやネコが好きなわけでもない。しかし、それでもNHKのBSプレミアムで放映されている「世界ネコ歩き」にはくぎ付けになってしまう。朝の放送を見ていると、ついつい出勤が遅くなってしまうのだ。本書は、番組で撮影された作品209点を収録した写真集である。一体、何がこの番組および写真集を際立たせているのか。

  • リフレ派の論客が書き下ろす“新ケインズ主義”の政策論集

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    リフレ派の論客が書き下ろす “新ケインズ主義”の政策論集

    2015年6月27日号  

    リフレ政策、すなわちデフレを脱却して低インフレで経済成長の安定化を狙う政策は、以前から唱えられていたが、2008年秋のリーマンショック以降の世界金融危機に対する世界各国のマクロ経済政策では“本流”となっている。

  • 先史から現代までを通観する暴力と人間の本性に迫る大著

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    先史から現代までを通観する 暴力と人間の本性に迫る大著

    2015年6月20日号  

    過去を賛美する一方で、近代を呪詛する論調は多い。だが、それは過去の悲惨さをよく覚えていないからだ。本書は、長期的にも短期的にも、あらゆる種類の暴力が減少しているのが人類史の趨勢だ、と説く。

  • IT分野で注目の著者が描く人間と機械をめぐる将来展望

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    IT分野で注目の著者が描く 人間と機械をめぐる将来展望

    2015年6月13日号  

    昨今、いろいろな分野において“仕事のデジタル化”がすさまじい勢いで進行している。本書は、すでに多くの研究が始められている仕事のデジタル化現象に関して、熟練、記憶、倫理、文化、人生の意味など広範な側面から考えるヒントを提供してくれる。もともと、オートメーションの設計者は、人間が非効率的でミスをしがちであることから、人間によるプロセスへの関与を極力減らして、人間の負担を減らすことを目指した。人間をルーティンワークから解放することにより、人間がより高次の知的活動に従事することを可能にすると考えられた。

  • 労働経済学の第一人者が説く企業の競争力についての考察

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    労働経済学の第一人者が説く 企業の競争力についての考察

    2015年6月6日号  

    近年、日本企業では、株主利益の重視、四半期単位での業績評価、社外取締役の起用など、“米国的経営”の導入が盛んである。とりわけ上場企業では、米国的経営に即したルールづくりが進められている。もちろん、それで日本企業の競争力が向上すれば素晴らしいことである。しかし、『なぜ日本企業は強みを捨てるのか』のスタンスは正反対である。現在、大企業を中心にもてはやされる米国的経営は、競争力の根源となる「革新的な製品やシステムの開発」や「現場でのトラブル対応に優れた中堅人材の育成」をおろそかにし、結果的に競争力を失ってしまう危険性を孕んでいることを指摘する。

  • 「夜が暗闇だった時代」では人々の生活はどうだったか

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    「夜が暗闇だった時代」では 人々の生活はどうだったか

    2015年5月30日号  

    記録を見る限り、昔の西欧人は夜の睡眠を2回に分割して取っていたそうだ。その狭間に、人々は祈ったり、勉強したり、性交したり、内省にふけったりしたという。そう、夜は長かったのだ。本書は、近世から産業革命のころまでのおびただしい量の史料を引用しながら、人々と夜の関係がどうだったのかひもといていく。

  • 日本財政は消費税が救世主?短期楽観の今こそ警戒すべし

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    日本財政は消費税が救世主? 短期楽観の今こそ警戒すべし

    2015年5月23日号  

    いきなり本書の結論を紹介してしまうと、「消費税率は少なくとも15%まで引き上げなくては、2020年代半ばに財政危機が起きるケースが多く考えられる。仮に、消費税率を20%まで引き上げればほとんどのケースで維持可能」である。

  • ケインズのエッセイに倣ってトップ経済学者が論じる未来

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    ケインズのエッセイに倣って トップ経済学者が論じる未来

    2015年5月16日号  

    昨年、金融市場で話題になったのは、米ハーバード大学のサマーズ教授の「長期停滞論」だった。先進各国とも潜在成長率が大幅に低下し、マクロ経済の需給を均衡させる自然利子率がマイナスに落ち込んだ可能性が提示された。日欧では、マイナスの長期金利が観測されて、長期停滞論が現実味を帯びて語られる。フロンティアは消滅し、もはや暗い未来しか描けないのか。

  • 中国で20年以上も収監された陸軍憲兵と家族を襲った悲劇

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    中国で20年以上も収監された 陸軍憲兵と家族を襲った悲劇

    2015年5月2日号  

    2人の残留日本兵、横井庄一氏と小野田寛郎氏が1970年代にそれぞれグアム島とフィリピン・ルバング島から帰還したことは、子ども心にも非常に衝撃的だった。しかし、評者が深谷義治という人物の名前を聞いたのは、今回が初めてだ。深谷氏は戦前、日本陸軍に所属し、中国大陸で憲兵として「特殊任務」に従事する。終戦後も13年間、上官が下した「任務遂行」の命令を受け、そのまま潜伏した。しかし、戦中戦後のスパイ容疑で20年以上も上海の刑務所に収監され、日中平和友好条約締結後の78年になってようやく釈放される。

  • リフレ派の観点から総括したアベノミクスの“徹底解説書”

    Book Reviews 私の「イチオシ収穫本」
    リフレ派の観点から総括した アベノミクスの“徹底解説書”

    2015年4月25日号  

    第2次安倍内閣が誕生し、日本銀行が“インフレ目標政策”を導入するようになった2013年以降、「アベノミクス」の是非を論じる経済関連書籍が次々と出版されている。こうした流れの中で出版された『世界が日本経済をうらやむ日』は、結論として、アベノミクスはうまくいっているため、今後も続けるべきだと断言している。主に二つの内容から構成されている。

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記者の目

  • 副編集長 千本木啓文

    農協から届いた「抗議文」を読んで、しばし感傷に浸る

     JA全中から毎年、抗議文をもらうのですが、今年は雑誌の発売前に届きました。特集の一部を「組合長165人が“辛口”評価 JA上部団体の通信簿」としてダイヤモンド・オンラインで先に配信したからです。
     抗議文は、「19万人の農協役職員の0.2%の意見で記事が構成されており、(中略)偏った先入観を植え付ける意図があった」として、続編の配信中止を求める内容でした。
     組合長ら幹部200人超を含む役職員434人の声には傾聴する価値があるはずです。抗議文を読み、自分は若いと思い込んでいる人が鏡に映った老いた姿を見て、こんなはずはないと怒っているような印象を持ちました。自戒を込めて、鏡のせいにしてはいけないと思いました。

  • 編集長 浅島亮子

    ロングセラー第9弾でも攻め続ける農業特集

     今年も人気企画「儲かる農業」特集の第9弾が刷り上がりました。身内ながら感心するのが、毎年新しいコンテンツを加えて特集構成を刷新していることです。今回の新ネタは農協役職員アンケート。ロングセラー企画の定番を変えるには勇気が必要ですが、果敢に新機軸を打ち出しているのです。
     昨年、千本木デスク率いる農協問題取材チームは、共済の自爆営業などJAグループの不正を暴いたことが評価され、報道実務家フォーラム「調査報道大賞」優秀賞を受賞しました。訴訟に屈することなく、問題の本質を突く取材活動を貫いた結果と受け止めています。今回の特集でも粘り強い取材は健在。取材チームの熱量を存分に感じていただければ幸いです。

最新号の案内2024年5月11日号

表紙

特集儲かる農業2024

いよいよ儲かる農業が実現するフェーズに入った。「台頭する豪農」と「欧米のテクノロジー」と「陰の仕掛け人」が”令和の農業維新”というムーブメントを起こしている。他方、農業を牛耳ってきた旧来勢力である農協と農水省は、存在意義を問われる”緊急事態…

特集2家計・住宅ローン・株が激変! 金利ある世界

日本銀行が17年ぶりの利上げで金融政策の正常化に踏み出した。”金利ゼロ”に慣れ切った家計や企業経営、財政はどうなるのか。日本は「成長期待が持てない経済」から抜け出せるのか。それとも低金利は続き、物や資本が余った経済への道を歩むのか。「金利あ…