記事一覧:Book Reviews 書林探索140

  • 仏教の世俗的易行化が生んだ日本人の経済行動の特質

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    仏教の世俗的易行化が生んだ 日本人の経済行動の特質

    2014年10月18日号  

    本書は、今年3月に日本学士院賞を授与された寺西重郎氏による最新作である。日本型経済システムの源流を、宗教とその経済行動へのインパクトに求める斬新なアイデアが本書の根幹を成している。

  • 未経験者の農業への新規参入山あり谷ありの生の声が満載

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    未経験者の農業への新規参入 山あり谷ありの生の声が満載

    2014年10月11日号  

    農業の後継者不足と、それに伴う耕作放棄地の増加は、年々深刻の度を増している。そうした中、農業への転職を希望する人々が、今増えている。それも家がもともと農家だった人たちではなく、農業の経験はないのに、仕事を辞め、新たに農業を始めようという人々だ。

  • 多様な人々が価値を共創し問題を解決する事例を紹介

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    多様な人々が価値を共創し 問題を解決する事例を紹介

    2014年10月4日号  

    高齢化、少子化、人口減少、医療費、年金、財政赤字など多くの問題を抱える課題先進国、日本においていま、それらの課題解決において二つのアプローチがあるように思う。一つは課題をマクロ経済の高成長、企業のグローバル成長、その成功による税収増など、いわば拡大路線、強者の論理で分配を増やし、経済の底上げ、インフラの再構築で諸問題を解決していく、いわば「左脳型」のアプローチ。もう一つは課題をミクロに特定して、そこに関係する企業、社員、市民、自治体などの共感を持った人々が、顔の見える形で手を携えてビジネスモデルを創造し、一つ一つ地域の現実に根差して地道に解決していく、いわば「右脳型」のアプローチだ。

  • ケインズの実像に迫りつつ資本主義への理解を深める

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    ケインズの実像に迫りつつ 資本主義への理解を深める

    2014年9月27日号  

    ケインズについては、ある種のステレオタイプがまかり通っている。『雇用・利子および貨幣の一般理論』で正統派の古典派理論を否定しマクロ経済学を打ち立てた経済理論の革命家、不況対策として財政政策を推奨した経済政策の革命家、そして資本主義の救世主。こうした理解はポール・クルーグマンのような経済学者にも流布している。

  • ITで実証されたミクロ組織に対する新しい通念を紹介する

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    ITで実証されたミクロ組織に 対する新しい通念を紹介する

    2014年9月20日号  

    ITの発達に伴い新たに可能になったことは少なくないが、組織現象の詳細な実態調査もその一つ。従来、ミクロの組織現象は、組織成員へのアンケートか研究者による参与観察によって捉えるのが普通であったが、いずれも客観性や精度などの点で十分とはいえなかった。最近は、ソシオメトリックバッジと呼ばれる小型の機器を組織成員に首に掛けてもらうことで、各人が社内のどこにいつ滞在したか、誰とどのくらいの時間話をしたか、そのときの口調や声の高さ・強さはどうだったか、などのデータを正確に採れるようになった。

  • ビッグデータで腕の動き、幸福、消費行動を分析し法則見いだす

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    ビッグデータで腕の動き、幸福、 消費行動を分析し法則見いだす

    2014年9月13日号  

    本書は、ウエアラブルセンサを使って、社会現象や人間行動を計測して、大量のデータを分析することで、社会現象や人間行動に関するさまざまな発見を紹介したもの。目からうろこが落ちるような報告の連続である。人間の行動に科学的な法則性はあるだろうかという問いに対して、リストバンド型のウエアラブルセンサを使い、腕の動きを加速度センサで計測し、12人の被験者に対して9000時間の記録を取り、右肩下がりのU分布に従うという法則性を見いだしている。

  • 20年前に日本の停滞を予想英国流の緩やかな没落に学ぶ

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    20年前に日本の停滞を予想 英国流の緩やかな没落に学ぶ

    2014年9月6日号  

    日本は戦後の高度成長終了後も、1990年代初頭まで平均4.3%の高成長を続けた。その後、低迷が始まるが、90年代末ごろでも3%近い成長が可能というエコノミストが少なくなかった。実際には、日本の潜在成長率は、90年代が1.9%、2000年代が0.7%。10年以降は0.3%まで低下した。

  • 森林維持・破壊の地域差の理由日中西欧の比較でひもとく

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    森林維持・破壊の地域差の理由 日中西欧の比較でひもとく

    2014年8月30日号  

    中国に行くと、黄色い大地がいつまでも続いて緑がないのに驚くことがある。日本の山は急峻で、畑にしたり、木材を伐採して運び出したりすることが経済的に引き合わないことが良かったのかもしれないと思ったことがあるが、江戸時代の領主が森林の伐採を固く禁じていたと聞いたこともある。

  • 日本経済低迷の真因を分析し成長戦略の方向性を示唆する

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    日本経済低迷の真因を分析し 成長戦略の方向性を示唆する

    2014年8月23日号  

    本書は、エコノミストとして数多くの提言を発信してきた著者が、日本経済の現状を分析し、長期低迷の真因を探求した力作である。かつて日本経済は、資産の蓄積によって成長を遂げてきた。特に、高度成長期は、設備投資が景気を主導し、「投資が投資を呼ぶ」ともいわれた時代であった。しかし、経済が成熟する中、資産の蓄積を伴って成長する時代は、終わりを告げた。にもかかわらず、1980年代後半のバブル期に蓄積された過剰な資産は、その崩壊後も十分に解消されないまま今日に至っている。著者は、これこそが日本経済の長期低迷の真因とする。

  • アダム・スミスを封建社会から近代社会への脈絡で読み解く

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    アダム・スミスを封建社会から 近代社会への脈絡で読み解く

    2014年8月9日号  

    経済学の開祖アダム・スミスは、時代時代に応じて、さまざまな読まれ方をしてきた。かつては、スミスの資本蓄積論をマルクス原理論の原点と考えて、スミスをいわゆる「左側」から読むのが一般的だった。それが1980年代ごろになると、スミスの自由放任主義的姿勢こそ新自由主義の原点だと考えて、スミスを今度は「右側」から(あるいはほとんどミギハシから)読む者が非常に多くなった。

  • 真のトップリーダーに必要なコミュニケーション術を分析

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    真のトップリーダーに必要な コミュニケーション術を分析

    2014年8月2日号  

    『言葉力が人を動かす』『経営は言葉である』『TEDトーク 世界最高のプレゼン術』『スティーブ・ジョブズ 驚異のプレゼン』『人は見た目が9割』など、話術に関するアドバイスは数多く、どの書も大いに勉強になる。

  • 規制改革に必要なものは何か元役人が分かりやすくひもとく

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    規制改革に必要なものは何か 元役人が分かりやすくひもとく

    2014年7月26日号  

    海外でジャパニーズレストランに入るとがっかりすることが多い。品質向上には外国人が日本で修業するのが良いし、実際本場で修業したいという外国人は多いだろう。出入国管理法によれば外国人フレンチシェフには在留資格が認められても、外国人の板前には認められない。結果として本場で修業する外国人が少なくなり、怪しい日本食が是正されない。あまりにばかげていると思われるかもしれない。そうしたばかげた規制の数々を丁寧に解説したのが本書だ。

  • 信頼を基礎に組織は形成される職場を考える示唆に富む著作

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    信頼を基礎に組織は形成される 職場を考える示唆に富む著作

    2014年7月19日号  

    著者は、暗号とセキュリティの専門家であるが、本書ではセキュリティの問題として人間の信頼はいかにして可能となるかがテーマである。組織にしろ、社会にしろ、お互いに熟知できる人数(『友達の数は何人?』2012年1月14日号で紹介)を超える人間集団が円滑に機能するためには、未知あるいはよく知らない人々との間の信頼を担保するメカニズム(「社会性圧力」と呼ばれる)が不可欠だ。

  • 労働時間は制度や環境で変わる日本人の働き方を多角的に分析

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    労働時間は制度や環境で変わる 日本人の働き方を多角的に分析

    2014年7月12日号  

    本書は日本人の労働時間をさまざまな側面から本格的に検討した初めての研究書だ。現在、政府の産業競争力会議では労働時間にかかわらず賃金が一定になる働き方、いわゆる「残業代ゼロ」社員をどこまで認めるべきかが論点になっている。

  • 雇用改革は正しく進んでいるか気鋭の法学者が分析した書

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    雇用改革は正しく進んでいるか 気鋭の法学者が分析した書

    2014年7月5日号  

    かつての労働立法は、会社に強く守られた男性を中心とする正社員の保護に重点が置かれた。派遣労働解禁の際に慎重な対応が取られたのも、正社員が派遣労働で代替されるのを回避するためだ。

  • 途上国をいかに豊かにするか発展させたい思いが詰まった書

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    途上国をいかに豊かにするか 発展させたい思いが詰まった書

    2014年6月28日号  

    本書は、開発経済学に関して海外でも業績を上げている著者が、それを発展のために、どう役立てたらよいのかという観点からまとめたものである。貧しい国はどうしたら豊かになれるだろうか。

  • 最先端の研究成果に触れられる行動経済学を平易に解説した書

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    最先端の研究成果に触れられる 行動経済学を平易に解説した書

    2014年6月21日号  

    本書は、「行動経済学」という経済学の新潮流を平易に解説した入門書である。伝統的な経済学では、「合理性」を前提に、「利己的」な経済人がいかなる行動を取るかを分析することが大半である。しかし、1980年代後半の日本のバブル経済や2008年の米国のリーマンショックの経験からも分かるように、人間行動は必ずしも合理的とは限らない。また、経済活動であっても、人々は、自らの利益のみを追求するのではなく、一定の社会規範に基づいて行動することも多い。

  • 高齢者ケアの問題の解決に真摯に取り組む事例を紹介

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    高齢者ケアの問題の解決に 真摯に取り組む事例を紹介

    2014年6月14日号  

    超高齢社会となった日本。今後の日本において、高齢者ケアの在り方は、そのまま日本社会の住みやすさ、住みにくさを表す指標になるだろう。本書は、画期的な手法によって高齢者ケアに取り組んでいる実践例を、都市と地方に分けてそれぞれ詳しく紹介する。「高齢者ケアといっても、大都市圏には大都市圏の、地方には地方の、それぞれ独特の難しさがある」という鮮明な問題意識がそこにある。従って取り組みの内容は、地域の特性に応じた独特のものだ。しかし、そこにはこれからの高齢者ケアに等しく求められる、一つの原則のようなものも見て取れる。

  • 日本語は特殊な言語ではないその汎用性、効率性を示した書

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    日本語は特殊な言語ではない その汎用性、効率性を示した書

    2014年6月7日号  

    今やグローバル化は、日本の生き残りと成長のために不可欠な戦略だ。国も企業も個人も、グローバル化を強化している。企業でいえば、海外市場の開拓、生産拠点の海外展開。個々人でいえば、英語を学ぶ。国でいえば、TPPへの参加、外国人観光客や労働者の増加、クールジャパンの売り込みなど。しかし、それらの視点は本当に日本の「グローバル化」につながっているのだろうか?

  • 教養の基礎となる学問を広くカバーした古典の名ガイド

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    教養の基礎となる学問を 広くカバーした古典の名ガイド

    2014年5月31日号  

    最近、教養がブームになっていると感じる。教養とは何かについてはそれ自体議論の的であるが、内外の古典に教養の主軸を求めることに異論は少ない。

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記者の目

  • 編集委員 深澤 献

    老人ホームのことを「寮」と呼ぶ母のプライド

     3月に、80代の母親が介護付き有料老人ホームに入居しました。認知症や足腰の不安はないのですが、車で1時間強かかる街で1人暮らしをしていたため、安心・安全な場所で暮らしてほしいと考えたからです。
     何カ所か見学し、施設ごとに設備もサービス体制も千差万別であることを実感。最終的には「ここなら自分が入ってもよいかな」と思えるところを選びました。私の自宅からも徒歩圏内。外出も外泊も自由なので、毎週末に訪ねては外に連れ出しています。
     ただ、本人はいまだに抵抗があるようで、「施設」や「ホーム」という言葉はかたくなに使いません。先日は「寮」と言っていました。なるほど。母の納得する表現を受け入れてやろうと思います。

  • 副編集長 大矢博之

    生成AIは数学の未解決問題を「証明」した大論文を読めるのか?

     生成AIの“時短術”として、英文レポートの要約をよく使います。本号の科学連載の題材に、数学の未解決問題の「証明」論文が登場しました。編集の参考のために原著論文を読んでもさっぱり分からない……。そこでAIに読解を頼みました。
     シンプルな要約は変わらず難解なので、「中高生に説明して」と頼むと変化が。論文は数学の美しさを映し出すさまざまな宝石をつなぐ地図のようなもので、数学者にとって宝の山だ、というおしゃれな表現が飛び出してきました。
     ならば、「証明が正しいかどうか検証して」と聞くと、「専門家に相談することをお勧めします」と優等生の答え。超難問の証明の検証にAIは貢献できるのか。AIの進化の行方が気になります。

最新号の案内2024年8月3日号

表紙

特集自分と親の終の住み家

50代後半は、定年を間近に老後の暮らし方を考えると同時に、 老親の看取りまで見据えた住まいの在り方についても思い悩む年頃。 老後をどこでどう過ごすかは、これまで培った人生観によって千差万別だ。住み替え、リフォームから老人ホームの選び方まで、…

特集2デジタル貧国の巨人 NTT人事の波乱

NTTグループの経営トップ交代が進んでいる。グループ再編を主導してきた澤田純会長は代表権を返上して一線から退き、名実共にグループの頂点に立った島田明社長の下で、完全子会社化したNTTドコモでサプライズ人事が発生。「年功序列の崩壊」にとどまら…