記事一覧:連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』111

  • 第二章 運命の日[第31回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第31回]

    2016年6月18日号  

    総理秘書官室では、地下の危機管理センターから戻った湯河を、首都電力原子力発電所本部管理部長の森上が待ち受けていた。 「電源車の到着で、事態は収拾しましたか」 「ちょっと別室で話せませんか」 顔つきだけで、ろくでもない話だと推測できた。

  • 第二章 運命の日[第30回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第30回]

    2016年6月11日号  

    免震重要棟内の緊急対策室は静寂に包まれていた。秀樹がブタの鼻の確認から戻ってから、約三時間が経過していた。当初は、緊迫した指示と報告が飛び交っていた室内も、手を尽くし、後は結果を待つしかない状況になっている。そして沈黙が多くなった。

  • 第二章 運命の日[第29回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第29回]

    2016年6月4日号  

    枯淡楼には、太平洋を一望できる露天風呂がある。鷲津は久しぶりに、その贅沢を一人で味わっていた。海風が強く肌寒かったが、岩風呂に体を沈めると、すぐに血行が良くなった。長旅の疲れと地震による緊張が徐々にほぐれていく。しばらく目を閉じ、頭と体が弛緩するに任せた。頬を撫でる冷たい風も心地良い。

  • 第二章 運命の日[第28回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第28回]

    2016年5月28日号  

    秀樹が報告する間、精神を集中させるためか能登は目を閉じていた。 「そうか、良かった……。本当に良かった。郷浦君、谷原、ご苦労さん」 「お役に立てて嬉しいです」 能登と目が合った瞬間、秀樹は大事な使命を全うした充実感を覚えた。ただ、一つ小さな蟠(わだかま)りがある。それを伝えるべきか迷いながら、結局は口に出せなかった。

  • 第二章 運命の日[第27回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第27回]

    2016年5月21日号  

    鷲津が熱海の旅館・枯淡楼に到着したのは、午後六時頃だった。建設されたのは戦前で、当初は旧財閥の迎賓館だった。戦後は旅館として利用され、バブル経済崩壊後に鷲津が購入した。施設の半分は従来通りの旅館業を続け、残りを自身の隠れ家的施設として利用していた。

  • 第二章 運命の日[第26回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第26回]

    2016年5月14日号  

    超満員のエレベーターから吐き出されて、貴子はようやく六本木ヒルズの一階に降り立った。建物は最新の免震構造が施されているらしいが、おかげで長時間揺れ続けたせいで、船酔いのような不快さがある。自家発電システムが作動したので停電はすぐに解消されたが、最上階にいた貴子がエレベーターに乗り込むまでには、長時間待たされた。しかも、我先に逃げようとする人のせいで、エレベーターホールは息もできないほどのすし詰め状態だった。

  • 第二章 運命の日[第25回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第25回]

    2016年4月30日号  

    携帯電話に着信があった。見ると、相手は東京本社社会部長とある。「越智(おち)だ。所長がSBOは収拾できると明言している根拠に心当たりはないのか」まず、記者の安否確認だろとは思ったが、北村は素直に応じた。

  • 第二章 運命の日[第24回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第24回]

    2016年4月23日号  

    串村所長は構外に急ぐ人の流れに逆らうように免震重要棟に向かっていた。彼に続く秀樹は、辺りが妙に静かなのに気づいた。一時(いっとき)鳴り響いていたサイレンがやんでいた。それに、すれ違う従業員の誰もが口をつぐんでいる。停電のせいだろうか。

  • 第二章 運命の日[第23回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第23回]

    2016年4月16日号  

    管理棟内は薄暗かった。地震の影響で停電したため、非常用電源の一部を利用して、最小限の明かりを灯しているからだ。ロビーに散乱している書類や横倒しになっている棚などに気をつけながら、秀樹は恐る恐る廊下を進んだ。

  • 第二章 運命の日[第22回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第22回]

    2016年4月9日号  

    Jファームからイチアイ(1I、首都電力磐前第一原子力発電所)までは、二〇キロ足らずの距離だ。国道を北上した秀樹は、周囲の様子に気を配りながら、法定速度内で車を走らせた。道路や周辺に、地震による被害は見られない。交通量も普段と変わらない。民家から屋外に出て雑談をしている住民の姿は見えるが、さして緊迫感があるようには見えない。相変わらずラジオでは津波に警戒するように連呼している。

  • 第二章 運命の日[第21回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第21回]

    2016年4月2日号  

    揺れが落ち着いたので、鷲津は社用車に乗り込んだ。特別仕様のエルグランドは、リムジン並みの乗り心地に改良されており、モニターやワイファイ機能も装備してある。首都高速道路は通行止めになっていた。車載テレビで、地震の状況を眺めていた鷲津は、熱海に向かうよう運転手に命じた。そこには所有する温泉宿がある。

  • 第二章 運命の日[第20回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第20回]

    2016年3月26日号  

    あかねの左足がインステップで蹴り上げたボールは、三人の“壁”の頭上を軽やかに越え、ゴールの右コーナーに突き刺さった。秀樹は、目の当たりにした見事なシュートに素直に感動した。ボールがゴールネットを揺らした衝撃のせいか、前で撮影していたカメラマンがよろめいた。どんだけ凄いんだ、あかねのシュートは。そう思った矢先、体のバランスが崩れた。地面が揺れている。地震?

  • 第二章 運命の日[第19回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第19回]

    2016年3月19日号  

    「相談というのはだね、貴子ちゃんにもその審議会のメンバーに入って欲しいんだ」向坂は軽口のように振ってきたが、大変な依頼だった。「ご冗談を」「この審議会には、世界の観光事情を熟知している君のような若者が不可欠なんだよ」

  • 第二章 運命の日[第18回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第18回]

    2016年3月12日号  

    通信局兼自宅を出た途端、あまりの寒さに北村は身震いした。三月中旬だというのに、春の気配は微塵もない。花岡町は前任地の気仙沼市より一五〇キロ以上は南下しているのに、寒さは変わらない。

  • 第二章 運命の日[第17回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第二章 運命の日[第17回]

    2016年3月5日号  

    鷲津はうっすらと夜が明け始めた太平洋上空にいた。眼下には海が広がっている。日本電力(Jエナジー)を買収しようとした際に米国政府の不穏な動きを知り、一年余りをかけて、もう一度身辺のガードを徹底した。その間、目立った動きも控えた。

  • 第一章 崩壊前夜[第16回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第一章 崩壊前夜[第16回]

    2016年2月27日号  

    タクシーがノイバイ国際空港に到着したと同時に、湯河の携帯電話が鳴った。またか。資源エネルギー庁次長の植田だ。無視してやろうかとも思ったが、そういう時に限って重大事であったりする。「湯河です」せめてもの抵抗で、留守電メッセージに切り換わる寸前に応対した。 「帰国は不要だ」 思わず、聞き返した。

  • 第一章 崩壊前夜[第15回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第一章 崩壊前夜[第15回]

    2016年2月20日号  

    経団連会館の廊下を歩きながら、鷲津は昨夜の電話について考えていた。どうやって調べたのか、濱尾本人が鷲津の携帯電話に直接かけてきて、「明日、お会いする時間を戴けないか」と言われた。何の用かと返すと「あなたが今、画策しておられる案件についてです」とだけ告げられた。しらばっくれても無駄だと判断して、濱尾と会うことにしたのだった。

  • 第一章 崩壊前夜[第14回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第一章 崩壊前夜[第14回]

    2016年2月13日号  

    次に見覚えのある記者を指名した。どこかで見た顔だが、誰かが思い出せない。「日本通信の八島です。日本電力(Jエナジー)を狙っているのは、あなたではないんですか、鷲津さん」今日の俺はどうかしている。よりによって、こんなくそったれを失念してたなんて。

  • 第一章 崩壊前夜[第13回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第一章 崩壊前夜[第13回]

    2016年2月6日号  

    「計器類のデジタル化は考えていないんですか」 気まずいムードを破りたくて、北村が尋ねた。「今のところはありませんね。念のために申し上げますが、デジタルが万能なわけではありません。たとえば、中央制御室の計器類は電気がなければ作動しませんが、原発内にあるバルブや圧力関係の計器の中には、最新鋭のデジタル装置を備えた六号機でさえも、停電時は手動で計測できるアナログタイプを使用しているところがあります。また、見た目は古めかしいかも知れませんが、たとえば、」

  • 第一章 崩壊前夜[第12回]

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第一章 崩壊前夜[第12回]

    2016年1月30日号  

    芝野の断言が、湯河には引っかかった。「鷲津氏の行動はすべてお見通しかのように聞こえますが」「まさか。それができれば、私は鷲津キラーとして大儲けできますよ。鷲津政彦という男と一戦を交えたことがあれば、誰でも知っていることを話したまでです」

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記者の目

  • 編集部 重石岳史

    東証改革に見る「ルーズとタイト」の文化の違い

     東京証券取引所の幹部との雑談で「ルーズカルチャー」と「タイトカルチャー」が話題になりました。いわく日本はタイトカルチャーの国で、規律を重んじる。だから強制力を伴わずとも、東証が資本コストや株価を意識した経営を「要請」すれば上場企業がおのずと動いてくれる。確かに東証の市場改革は、大枠では狙い通りに進んでいるようです。
     一方、米国などはルーズカルチャーの国で、個人の自由を重んじるため強制力がなければ物事が動かない。タイトな文化の方が、日本人に向いている気はしますが、横並び主義や同調圧力が弊害を生むケースもあります。ルーズでありながらタイトさも併せ持つ。自分自身はそうありたいと思います。

  • 編集長 浅島亮子

    『週刊ダイヤモンド2025年2月22日号』発売中止のお詫び

     前号のフジテレビ特集におきまして、アンケート結果を記載した一覧表で誤記が判明いたしました。そのため市販を中止しましたが、定期購読分については発送停止の措置が間に合わなかったため、定期購読者の皆様には修正した記事をお送りいたします。読者の皆様ならびに関係者の皆様には、多大なご迷惑をお掛けいたしましたことを深くお詫び申し上げます。
     創刊111年の歴史に泥を塗る事態を招いてしまったことを、責任者として猛省しております。今後このようなことがないよう、チェック体制の強化など再発防止を徹底する所存です。今後とも弊誌を末長くご愛顧いただけましたら幸いに存じます。
    『ダイヤモンド編集部』編集長 浅島亮子

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表紙

特集上場廃止ラッシュ

東京証券取引所の経過措置期間が2025年3月に終了し、新たな上場維持基準が適用される。さらに政策保有株式や親子上場の解消も進み、安定株主を失った企業は同意なき買収を容赦なく突き付けられる。あらゆる上場企業が安穏としていられない、淘汰の時代が…

特集2狙え! 不動産リッチ企業

不動産含み益をたっぷり抱える"不動産リッチ企業"への注目度が高まっている。アクティビストらの売却圧力も強まる一方だ。そこで、不動産の含み益が大きい企業の投資妙味を徹底分析。含み益を反映した修正PBRや時価総額に対する含み益の比率から、割安な…