記事一覧:連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』111

  • 第六章 伸るか反るか  [第91回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第91回] 

    2017年9月9日号  

    チェックアウトを済ませた時、秀樹の携帯電話が鳴った。首都電力広報室第三課の稲葉課長からだ。「YouTubeに、あなたと萩本さんが、磐前市民と小競り合いをしている映像がアップされているんだけど、どういうこと?」「見ていないので、分かりません」「それに、午前中に予定していたサッカー教室に、萩本さんが来なかったと抗議も来ている」 なんてこった。秀樹は仕方なく丁寧に説明した。

  • 第六章 伸るか反るか  [第90回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第90回] 

    2017年9月2日号  

    「少し休憩しませんか」この中で誰よりも休息を嫌いそうな延岡が言った。会議が始まって約一時間半、関係省庁の主張が出揃い、停滞気味だったので湯河も応じた。坂木と絹田、生駒はさっさと部屋を出てしまった。「湯河さん、ちょっといいですか」湯河の返事を待たずに延岡は出入口に向かった。廊下に出ると、会話が聞こえない程度の距離を置いて三人が電話している。湯河は、廊下を歩く延岡に続いた。財務省の参事官は、自販機で缶コーヒーを二本買うと、廊下の突き当たりの扉を開いて非常階段に出た。

  • 第六章 伸るか反るか  [第89回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第89回] 

    2017年8月26日号  

    首都電力の国有化を審議する「首都圏電気事業会社経営危機対策審議室(首電対)」は、メディアの目を避けるために、内閣府内に設けられた。湯河は、宮永大臣の強い希望もあって、イチアイ対室長との兼務で室長に着任した。指揮を執るのは、資源エネルギー庁長官の生駒で、この日も関係省庁から集められたメンバーとの顔合わせに同席した。

  • 第六章 伸るか反るか  [第88回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第88回] 

    2017年8月12日号  

    秀樹はドアミラーで、後を追いかけてくる車輌がないのを確認してからドライバーに誰何した。差し出された名刺には「NPO法人 サムライ・ジャパン・エイド(SJA) 代表理事 アンソニー・ケネディ」とあった。「磐前県に特化して、被災者にきめ細かい支援活動を続けて下さっている団体ですか」組織の存在だけでなく、活動内容やケネディへのインタビューも、新聞記事で読んだのを思い出した。

  • 第六章 伸るか反るか  [第87回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第六章 伸るか反るか [第87回] 

    2017年8月5日号  

    窓から差し込む朝日があまりに眩しくて、秀樹はベッドから飛び起きた。寝坊してしまった! あかねとの朝のランニング時刻まで、あと一八分しかない。昨晩、同期と盛り上がって久しぶりに深酒をしたせいだ。案の定二日酔いで、立ち上がると激しい頭痛が襲ってくる。即行でシャワーを浴びてロビーに向かった。ロビーフロアに下りると入念にストレッチをするあかねの影が見えた。

  • 第五章 激震  [第86回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第86回] 

    2017年7月29日号  

    サムと堀の三人で打ち合わせした鷲津は、別室で待機していたアンソニーを呼んだ。アンソニーが現れると、相模湾を一望できる離れに向かった。岬の突端にある離れは、海側が全面ガラス張りで、まるで海上に浮かんでいるような感覚になる。満月の光を受けて輝く海を眺めながら、鷲津はラガブーリンの封を切った。

  • 第五章 激震  [第85回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第85回] 

    2017年7月22日号  

    河口湖近くの東海林邸を出た車は、熱海を目指した。鷲津が所有する温泉旅館でサムと堀が待っている。リンは、まもなく成田から飛び立つ便でワシントンDCに向かう。原子力発電所の事故に対しての米国関係者の考えを探り、今後の資金調達について算段してくる。東海林邸を辞するのは、骨が折れた。ぜひ泊まってくれと、しつこく引き止められ、「どうしても今日中にやらなければならない重要案件がある」と言っているのに、東海林はなかなか納得しなかった。

  • 第五章 激震  [第84回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第84回] 

    2017年7月15日号  

    気まずいはずの晩餐は、思いがけず和やかなムードで始まった。晩餐用の長テーブルの大半が空席という寂しい状況だったが、東海林の上機嫌が、それを吹き飛ばした。テーブルに着いているのは、六人だ。主賓席に鷲津が、正面にホスト役の東海林が陣取った。東海林の両側には、着物姿の粋な女将風の女性とブロンド美人が座っている。ブロンドの隣には前島がいる。そして、鷲津から一席空けた右側に、濱尾が愛想笑いを浮かべて座っていた。

  • 第五章 激震  [第83回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第83回] 

    2017年7月8日号  

    東海林と向き合う時は、挑発しないこと──。リンとサムから注意されていたのに、俺は爺さんの機嫌を損ねたかも知れない。先程までの親しげな表情は消え、東海林は鷲津を睨み付けてきた。東海林の顔は、シミと皺の芸術のようだった。それが人生で刻んできた東海林の軌跡なのだろう。

  • 第五章 激震  [第82回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第82回] 

    2017年7月1日号  

    鷲津を乗せた年代物のトヨタ・センチュリーは、首都高を抜けて中央道に入った。東海林完爾(しょうじ・かんじ)代議士が河口湖の近くに所有する別宅に向かっているようだ。東海林との面談は、鷲津が赤坂に所有する料亭「ぽん太」で行われる予定だった。ところが、東海林の秘書から「本日、東海林は東京へ行けない。迎えを出すのでそれにご乗車戴きたい」という半ば強制的な変更が告げられた。

  • 第五章 激震  [第81回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第81回] 

    2017年6月24日号  

    「湯河君、ちょっといいかね」廊下を歩く湯河を、背後から生駒が呼び止めた。湯河が振り向くと、生駒は「ついて来い」と言って非常階段の方に向かった。そこから一フロア下りると、生駒は会議室の札を「使用中」に変えて、中に入った。窓が一つしかない部屋は薄暗い。それでも生駒は明かりを点けなかった。震災以降、庁舎内はギリギリのレベルまで節電しているためだ。

  • 第五章 激震  [第80回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第80回] 

    2017年6月17日号  

    内閣府に出勤する途中で、湯河は資源エネルギー庁長官秘書から“本省の大臣室にお越し戴きたい”というメールを受けた。おそらくは、鷲津が首都電力株大量保有を発表した件に関してだろうと察した。

  • 第五章 激震  [第79回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第79回] 

    2017年6月10日号  

    早朝の柔らかい日差しの中、秀樹は首都電力が保有する合宿所の駐車場で、入念なストレッチをしていた。昨夜は早めに寝たのだが、些細な音にでも過敏に反応してベッドから飛び降りてしまう。そのため、徹夜した朝のように体がだるい。体がほぐれるにつれ、頭が徐々に働き出した。そろそろかなと思った時、通用口が静かに開き、黒ずくめのウインドアップを着た姿の人影が現れた。この人物を待っていた。そして、人影はそのまま走り出した。秀樹も続いた。

  • 第五章 激震  [第78回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第78回] 

    2017年6月3日号  

    朝刊最終版の締め切り時間が迫っている。北村としては、一刻も早く原稿を片付けてビールを飲みたい気分なのだが、編集局次長の志摩が陣頭指揮を執る首都電買収取材班のミーティングが終わらない。「俺が求めているのは、噂話や見込みじゃない。ファクトに裏付けられた目が覚めるような原稿だ」志摩はそう怒鳴るが、記者たちの反応は鈍かった。誰も彼もが疲れているのだ。

  • 第五章 激震  [第77回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第77回] 

    2017年5月27日号  

    女将や従業員が全員引き上げた後、ミーティングが始まった。鷲津、リン、サム、前島、母袋の五人が好みの酒を手に、離れの一室に集まった。芝野と食事した部屋とは別の洋室だ。「思ったよりも、宮永大臣の動きが早かったですね」前島が口火を切った。

  • 第五章 激震  [第76回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第76回] 

    2017年5月20日号  

    久々に赤坂の料亭「ぽん太」の離れで、鷲津は三味線を弾いていた。腐れ縁の元バンカー、飯島が囲っていた芸者の名を冠する店は、鷲津が潰れかけていた料亭を購入し、飯島にプレゼントしたものだ。現在もオーナーは飯島だが、鷲津は経営責任者として存続に力を注いでいる。

  • 第五章 激震  [第75回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第75回] 

    2017年5月13日号  

    首都電力幹部を交えて中禅寺湖ミカドホテルで始まったミーティングは、収束する気配すらなかった。中禅寺湖ミカドホテルは、濱尾会長から直々に懇請されて心身を病んだ首都電社員を受け入れている。それに伴う課題が山積していたのだ。受け入れた社員の精神状態が改善せず、逆に悪化しているケースも多く、既にホテルで静養というだけでは限界が来ていた。

  • 第五章 激震  [第74回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第74回] 

    2017年4月29日号  

    大臣室で鷲津の記者会見を、芝野は興味深く見ていた。買収すると決めているにもかかわらず、鷲津はいかにも善人面して「首都電を応援するために株を買い支えている」と断言した。記者も次々と鋭い質問をぶつけるが、鷲津は全く意に介さない。とはいえ、この段階で首都電力株を大量保有していると公表するのはさすがに不本意だったのではないだろうか。

  • 第五章 激震  [第73回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第73回] 

    2017年4月22日号  

    秀樹は、鷲津の記者会見を濱尾邸内で見ていた。買収対策本部の五〇人近いメンバーがひしめく中、前方のスクリーンに小柄な鷲津が映った。世界最強などと呼ばれる企業買収者らしからぬ容姿だな。こんな人物が、世界中の超一流企業をきりきり舞いさせたというのか。

  • 第五章 激震  [第72回] 

    連載小説 ハゲタカ5 『シンドローム』
    第五章 激震 [第72回] 

    2017年4月15日号  

    「只今からサムライ・キャピタル代表取締役社長、鷲津政彦による記者会見を開催致します」司会役を務める赤星の紹介で、鷲津は雛壇に上がった。一斉にストロボが焚かれた。会場を見渡すと、記者で埋め尽くされている。深々と一礼して着席したら、再びストロボの洗礼を受けた。

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記者の目

  • 副編集長 千本木啓文

    農協から届いた「抗議文」を読んで、しばし感傷に浸る

     JA全中から毎年、抗議文をもらうのですが、今年は雑誌の発売前に届きました。特集の一部を「組合長165人が“辛口”評価 JA上部団体の通信簿」としてダイヤモンド・オンラインで先に配信したからです。
     抗議文は、「19万人の農協役職員の0.2%の意見で記事が構成されており、(中略)偏った先入観を植え付ける意図があった」として、続編の配信中止を求める内容でした。
     組合長ら幹部200人超を含む役職員434人の声には傾聴する価値があるはずです。抗議文を読み、自分は若いと思い込んでいる人が鏡に映った老いた姿を見て、こんなはずはないと怒っているような印象を持ちました。自戒を込めて、鏡のせいにしてはいけないと思いました。

  • 編集長 浅島亮子

    ロングセラー第9弾でも攻め続ける農業特集

     今年も人気企画「儲かる農業」特集の第9弾が刷り上がりました。身内ながら感心するのが、毎年新しいコンテンツを加えて特集構成を刷新していることです。今回の新ネタは農協役職員アンケート。ロングセラー企画の定番を変えるには勇気が必要ですが、果敢に新機軸を打ち出しているのです。
     昨年、千本木デスク率いる農協問題取材チームは、共済の自爆営業などJAグループの不正を暴いたことが評価され、報道実務家フォーラム「調査報道大賞」優秀賞を受賞しました。訴訟に屈することなく、問題の本質を突く取材活動を貫いた結果と受け止めています。今回の特集でも粘り強い取材は健在。取材チームの熱量を存分に感じていただければ幸いです。

最新号の案内2024年5月11日号

表紙

特集儲かる農業2024

いよいよ儲かる農業が実現するフェーズに入った。「台頭する豪農」と「欧米のテクノロジー」と「陰の仕掛け人」が”令和の農業維新”というムーブメントを起こしている。他方、農業を牛耳ってきた旧来勢力である農協と農水省は、存在意義を問われる”緊急事態…

特集2家計・住宅ローン・株が激変! 金利ある世界

日本銀行が17年ぶりの利上げで金融政策の正常化に踏み出した。”金利ゼロ”に慣れ切った家計や企業経営、財政はどうなるのか。日本は「成長期待が持てない経済」から抜け出せるのか。それとも低金利は続き、物や資本が余った経済への道を歩むのか。「金利あ…