平べったい頭に二つの目。二足歩行はできないが、2本の腕は肩、肘、手首と三つの関節を持ち、自由自在に動かすことができる──。
川田工業が開発したロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」は、これまで日本で普及してきた産業用ロボットの武骨な外見とは、まったく異なる。親しみやすい人型をしているのだ。
違うのは外見だけではない。従来の産業用ロボットが、ハイパワーとスピードを誇り、周囲に人が近づかないことを前提としているのに対し、ネクステージは人との共存を目指している。〝設備〟ではなく、〝パートナー〟なのだ。
川田工業がネクステージを開発したのは、単に外見を優しくして、生産現場の雰囲気を良くしようとしたためではない。そこには、れっきとした商機がある。
日本のものづくりはハイパワーな産業用ロボットが並ぶ工場だけで成り立っているわけではない。多品種少量生産の現場や、商品サイクルが短く付加価値の高い製品を作る現場では、柔軟に作業内容を変更できる人の手に頼ってきた。
そこに目を付けた川田工業は、人が並ぶ生産ラインに入り込めるロボットを開発したのだ。
通貨処理機などを製造するグローリーでは、埼玉工場にネクステージ18台を導入している。あるラインでは4台のネクステージが並び、最後の工程を人間が担当する。つまり、〝5人〟のうち、4人分をロボットが担当している。
まさしく、これがネクステージのメリットである。人型のデザインを採用し、サイズも人と同等で、周囲に人が近づくことができる。また、作業内容に関しても、導入する企業側がアプリケーションで自由に設定可能だ。つまり、人間が担当する工程を代替できるのだ。
気を使ったのがデザインだ。人間の中に入り込むには、周囲の人間に緊張感を与えてはいけない。結果、楕円形の頭部のように親しみやすい雰囲気を持っている。人が指を挟まれたりしないようにアーム形状はあえて湾曲させ、安全性にも気を使っている。
ネクステージの導入企業では面白いことが起こっている。親しみやすい雰囲気から、ほぼ例外なく、従業員から名前を付けられるのだという。いかにもロボット風という名前ではなく「外国風や日本風、男性、女性など、企業によって名前のルールが異なる」(白間直人・カワダロボティクス取締役)というから、愛着を持って迎え入れられていることが分かる。
現在、150台以上が売れているネクステージの価格は、740万円。今後、価格が下がれば町工場での導入もあり得る。
日本では1960年代から産業用ロボットの製造が始まり、生産量においても普及状況においても、世界でも群を抜いている。逆に言えば、そのせいか、産業用ロボットの国内需要は頭打ちが指摘されている。ただし、それは人間と共生するような新しいロボットの話ではない。
作業の一部を代替可能だとはいえ、「自ら考えて“カイゼン”をすることのできないネクステージが人間の仕事を奪うことはない」(白間取締役)。
共生を目指すネクステージの挑戦が成功すれば、生産現場におけるロボットの普及は新しい次元に入るかもしれない。