病院看護師14万人が消える
医師・看護師に問われる覚悟
いち早く7対1病床の一部を地域包括ケア病棟に切り替えるという再構築を決断した横浜中央が直面した最大のハードルは、人材の手当てだった。
医師の説得、看護師の面接を重ね、ようやく地域包括ケア病棟に配置するスタッフを確保し、6月の開設にこぎ着けたという。横浜中央に「一つのモデルとなってほしい」と求める尾身理事長の言葉には、1病院にとどまらずグループの他の病院も再構築に動くという意思がのぞく。
JCHOに限らず、全国の病院で始まるであろう再構築は経営上層部だけで完結する話ではない。現場で働く医師や看護師もリストラや異動、あるいは現場運営の大きな変化など覚悟を求められることになる。
「10月までに院内の運営体制を大きく変える。これは職員の異動を伴うものだ」。現場のリストラ策を念頭に大手病院の幹部はそう明かす。現場は病院上層部の動きをどれだけ察知しているのだろうか。
医師限定の会員制コミュニティサイトを運営するメドピアの協力により、医師を対象に2014年度診療報酬改定の影響について4月にアンケートを実施したところ、「勤務先の収入は増えるか、減るか」という問いに最も多かった回答は43%の「分からない」。「収入に変化はない」が28%。「収入が減る」は26%にとどまった。
「勤務先の看護師数は増えるか、減るか」という問いには、「現状で足りないが、数は変わらない」(32%)という回答が最も多かった。
アンケート結果を見ると、変化を予感している医師は多くない。しかし、7対1病床を維持するにしても、院内の職員配置は変化する。7対1病床から滑り落ちる病院では看護師が余る。国が目指す通りに改革が進むとしたら、それは医師と看護師の“民族大移動〟も始まるということだ。
本誌では医療コンサルティング会社グローバルヘルスコンサルティング・ジャパン(GHC)の協力により、医師と看護師の人材ニーズの変化を本邦初でシミュレーションした。
これまで急性期や療養など病院機能のヒエラルキーにおいて7対1病床の急性期病院はトップに君臨してきた。しかし、GHCのコンサルタントである湯原淳平氏は「急性期=エースの時代は終わり、急性期、診療所、訪問看護などそれぞれの機能の中にエースを置く構造に変化する」と分析する。そして、その構造変化の中で医師や看護師の人材ニーズは「急性期で減少し、それ以外で増加する」とみている。
特に影響が大きいのは病院で勤務する看護師だ。国が描く改革シナリオを基に25年に必要な病院勤務看護師数を試算すると、10年に比べて約14万人減少する。逆に現在3万人が従事する訪問看護師は、17万人の規模が必要になる。
医師は、拡大が図られる地域包括ケア病棟や在宅医療で人材ニーズが増える。これらの現場では、専門領域だけでない総合的な診療が必要だ。また、診療所には「24時間対応も担える第一線の若い力」(宇都宮啓・厚生労働省医療課長)も求められる。
医師、看護師は今いる職場で構造変化を受け止めるのか。あるいは転職、独立へ動くのか。いずれにせよ彼らの大移動がなければ、国が掲げる改革は絵空事に終わる。
診療報酬改定で病院リストラ
人材ニーズの変化を初試算
医師や看護師の”民族大移動”が始まる――。この変化をとらえて『週刊ダイヤモンド』5月17日号は「医師・看護師 大激変!」を特集しました。
医療の公定価格である診療報酬が4月に見直されました。今回の改定で、国は重症患者向け病院(急性期病院)の大リストラを打ち出しました。対して、退院して自宅で療養する患者向けの在宅医療は拡大を推進。団塊世代が75歳以上になる2025年をゴールに据えた医療提供体制の大改革が進んでいます。
これによって医師・看護師の人材ニーズがどう変化するのか。本邦初でシミュレーションしました。試算によると看護師の場合、病院勤務者が14万人減り、在宅医療を支える訪問看護師が新たに14万人必要になります。とりわけ重症患者向け病院で働く看護師はリストラや異動に直面していくことになります。異動、転職、あるいは独立。覚悟を求められます。
医師にまつわるカネと権力にも異変が起きています。製薬会社から受け取る講演料など医学部教授らの副収入が細り始め、小説『白い巨塔』で有名な病院の医局ヒエラルキーにも異変がおきています。
個々の実態を見ていくと、医師余りの東京では稼げないからと、高級住宅街で暮らす妻子を残して地方への単身赴任する医師がいる一方、地方に家族を残して東京へ出稼ぎにくる看護師がいます。人生いろいろ、働き方もいろいろです。カネ、キャリア、そして結婚。医師・看護師のリアルにとことん迫りました。