3月14日のホワイトデー。男は目の前の情報端末に映し出される、今まさに暴落中の日経平均株価のチャートを呆然と見ていた。
驚きはなかった。むしろ、それは見慣れた日常の光景になりつつあったという。その日の終値が、前日比488円安という今年3番目の大幅下落を記録していたにもかかわらずだ。
それもそのはず。昨年来、乱高下を繰り返してきた日経平均は今年に入ってその流れをさらに加速させ、一日の株価変動率が2%を超えた日数は2月末までで11日に達する。1日にとどまるNYダウ平均との差は歴然としており、男の感覚がまひするのも当然だろう。
乱高下する日数の多さもさることながら、その変動率(ボラティリティ)の高さも、また尋常ではない。14日は世界同時株安の様相を呈していたが、日経平均は前日比3・3%のマイナスと、世界最悪の急落を記録した。
この日の株安の元凶とされたのは、ウクライナ情勢の緊迫化と中国の経済不安。当事者であるロシアや中国の株式市場が暴落するのなら理解できるが、日経平均は中露両国より2倍以上も激しい下げに見舞われているのだ。
日本株が暴走している──。日本の株式市場でいったい何が起こっているのか。
「海外の同業者の仕業ですよ」。日本株のヘッジファンドを運用しているというこの男は、暴走の〝主犯格〟をそう表現した。
どんな相場局面でも絶対リターンを狙うヘッジファンド。確かに、日本株市場は外国人投資家の保有比率が3割と高く、売買シェアでは6割を占める。
中でも日本株は、グローバルマクロ型のヘッジファンドの影響を強く受けており、彼らの〝草刈り場〟になっているというのだ。
グローバルマクロ型ヘッジファンドは世界中で投資するため、「海外イベントが重要になる。つまり、日本の鉱工業生産など、詳しくない経済指標よりも、中国の製造業PMI(購買担当者景気指数)や米国の雇用統計といった指標で日本株を売買する」。
彼らの行動原理をそう説明するのは、かつて自らもヘッジファンドの辣腕マネジャーとして鳴らしたフィナンシャルコンサルティング代表の江島敏行氏だ。
その証左に、ここ最近で日本株が急落または急騰した要因は、日本発のニュースではなく、大半が海外発だ。ホワイトデー以外でも、春闘回答日だった3月12日はベースアップが相次いだにもかかわらず、株価は上昇するどころか、逆に中国の社債デフォルト懸念から大幅安となった。外国人支配の下で海外要因に振り回されているのが、今の日本株市場の実態である。それはあたかも、自分の家の庭で外国人がわが物顔でサッカーをやっているかのようだ。