がんの画期的新薬で
国内大手が“蚊帳の外”

 現在の新薬開発の中心は抗がん剤など十分な治療法が確立していない分野であり、シティグループ証券マネジングディレクターの山口秀丸氏は「近年、大手製薬会社の開発の関心はますますがん領域に集中している」と言う。

 抗がん剤以外で、大きな売り上げが期待されているものは、作用メカニズムが最も新しい「ファースト・イン・クラス」、あるいは同じ作用メカニズムのクスリの中で最も効き目が強い「ベスト・イン・クラス」のものが多い。

 市場に出た後の競争力の面もあるが、それ以前に「安全なのは当たり前。かなりの有効性、新規性がなければ、審査当局から承認されなくなっている」(業界関係者)という事情があるからだ。

 山口氏が大型化もある有望なものとしてリストアップした新薬候補もたいてい、いずれかが当てはまる。

 日本のお家芸だった電機産業が著しく凋落する中、政府や産業界では、製薬産業を成長産業と位置づけて期待する声が高まっている。

 しかし、欧米の製薬産業に比べると、まだまだ力不足だ。日本最大の武田薬品が世界のベスト10にも入らない。医薬品の輸出額と輸入額の差である輸入超過額は拡大する一方だ。

 がんやリウマチなどを治療するバイオ医薬品が世界のヒット商品となっているが、国内製薬大手の多くは、バイオ医薬品の研究開発で出遅れてしまった。がんの研究についても、「一部のがんの先端領域では、完全に〝蚊帳の外〟となっている」と山口氏。80年代に日本の大手製薬会社の多くが、もうからないため、がん研究を中止していたことが後々まで影響しているのだ。

 2000年以降の日本国内での新薬承認件数を見ても、米ファイザーや英グラクソ・スミスクラインなどの外資大手が上位を占める。32件と最も多いファイザーに比べ、国内最大手の武田薬品はわずか8件だ。

 自国の創薬ベンチャー起源による主要製薬会社の開発品目数も米国334品に対し、日本はわずかに10品となんとも寂しい。

 自治医科大学の間野博行教授が肺がん患者の治療に役立つ画期的な遺伝子を発見したときも、国内製薬会社ではなくファイザーが開発して「ザーコリ」という製品名で発売した。これについて、「日本のアカデミズムの成果を海外企業に持っていかれた」と嘆く業界関係者も少なくない。

 がんの領域では今、「免疫チェックポイント阻害薬」という有望視されている新薬候補がある。小野薬品工業が種を持っており米企業と組んだ。その会社を買収した米製薬大手のブリストル・マイヤーズ スクイブが現在の小野薬品のパートナーとなっている。結局このタイプのクスリで日本メーカーは山口氏の言う“蚊帳の外”だ。

 生みの親にも育ての親にもなれない新薬メーカーは、生き残っていけない。今ある製品にすがりついて営業やマーケティングばかりにカネを投じても、明日の種は育たない。

最新薬の解説&リストから
製薬業界のカラクリまで

 製薬業界および周辺の不祥事が重なり、クスリへの不安を抱く患者もいるなか、『週刊ダイヤモンド』3月29日号は「頼れるクスリ」を大特集しました。

 頼れるクスリとは何でしょうか。

 例えば、山のようにある高血圧症治療薬のなかで頼りになるのは、安全性が高く、血圧を下げる力が強いクスリです。単に薬価が高かったり、製薬会社の売り込みが盛んなクスリが患者にとって最適とは限りません。医者が使いやすいと評価するものが頼れるクスリといえるのではないでしょうか。

 また、本誌編集部では今回、開発後期段階にある新規有効成分の新薬候補、および発売まもない製品にスポットを当てました。

 治験と呼ばれる新薬の開発と承認を目的とした臨床試験は、今回問題となったディオバンやブロプレスのような医師主導の臨床研究とは異なります。この臨床研究は、基本的にすでに販売されているクスリが対象であり、製薬会社のマーケティングが目的であることも。治験はもっと厳格なものです。その審査を経て市場に参入する新薬に注目しました。

 糖尿病では2014年に6製品が発売されそうです。痛風、脳卒中予防、アルコール依存症では数十年ぶりに新薬が登場しました。

 がんの領域では、免疫療法ともいえる新しいタイプの分子標的薬がまもなく登場しそう。乳がんでは抗がん剤を結合させた分子標的薬が発売されます。前立腺がんのホルモン薬では即効型が台頭しています。肝がんでは原因の8割を占めるC型肝炎が完全治癒の時代に入っています。

 このほか緑内障、加齢黄斑変性、花粉症・ダニ、関節リウマチ、骨粗しょう症、うつ病、高血圧症、高脂血症、認知症、ワクチン、痛みなど病気別、あるいはがん種別に開発品を含むクスリの最新情報をお届けし、製品と開発品のリストも掲載しました。

  さらに製薬および関連業界についても徹底解剖しました。

 「誇大広告疑惑が浮上した武田薬品工業に何が起きているのか」「臨床研究の結果を有利に見せる『スピン』手法の手口」「大型薬の特許が切れ、参入続々のジェネリック市場」「儲け過ぎた調剤薬局を襲う14年度診療報酬改定の逆風」「初任給30万円もある薬剤師 就職率92%の超売り手市場」などなど。

 このほか「市販薬の徹底攻略法」「高齢者クスリ漬けの危険」「三食昼寝付きで1000万円を稼いだプロ治験者の実態」など見どころ満載。製薬会社、バイオベンチャーの各社業績一覧では、本誌編集部が独自に集計した新薬候補数を掲載。ベンチャー一覧には実力と将来性を図る目安となる提携実績も整理しました。有望銘柄探しにお役立てください。

 クスリの表と裏をお見せする本特集が、頼れるクスリへ辿りつく一助になれば幸いです。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 臼井真粧美)