営業を学問として捉え、体系化してみよう。もし大学に営業学部があったら、誰が、どんなことを教えればいいか。今週号の特集「速効! 『営業』学」では、そんな観点から、東西一流の講師陣にそれぞれの専門分野から誌上講義をしてもらった。

 春は人事異動と新入社員を迎え入れる季節です。日本の企業社会では、文系出身の新卒の7割以上が、まずは営業職に配属されるといわれています。

 ところが、学生たちにとって営業は必ずしも人気の職種ではありません。「営業=ノルマがきつい。だから、つらく厳しそう」「人に頭を下げて、モノを買ってもらうのは卑屈な感じがする」「なんだか、人をだます仕事のような気がして……」

 とはいえ、顧客と商品それぞれと直接対峙することで培った経験は、その後どんな職種に進もうが、必ず有益な素養となります。何より、商品やサービスが成熟化し、差別化が難しくなればなるほど、売り上げは営業の優劣にかかってきます。企業にとって「営業力」は競争力の源泉といえます。

 にもかかわらず、日本に「営業学」を教える大学はありません。営業マンとして必要な知識を学び、スキルをトレーニングする場がないのです。

 大学とは企業戦士を送り出す職業訓練所ではない──。それはもっともですが、それにしても、あまりにもバランスを欠いています。大学には、若者たちが社会で活躍するために身につけるべきありとあらゆる専門分野がそろっているというのに、営業だけがないなんて……。

 そもそも、営業という仕事の本質を知る機会がないから、学生たちは頭の中のイメージだけで勝手に営業という仕事を嫌っているのかもしれません。

 そこで本誌は、営業を学問として捉え、体系化することを提言したいと考えました。そして、もし大学に営業学部があったら、誰が、どんなことを教えればいいか。そんな観点から、東西一流の講師陣にそれぞれの専門分野から誌上講義をしてもらったのが、今週号の特集「速効! 『営業』学」です。

大前研一氏の「営業学概論」
コトラー教授の「マーケティング論」

  まず、「営業学概論」として、大前研一・ビジネス・ブレークスルー大学学長に講義をお願いしました。経営コンサルタントとして世界的な権威の大前氏ですが、1972年に日立製作所の原子力技術者を辞め、マッキンゼー・アンド・カンパニーに転職したの28歳のときでした。

 当時、日本では経営コンサルタントのフィーは、月50万円が相場だったそうです。そんなところに、マッキンゼーが提示していたのは月2500万円という金額でしたが、若き大前氏は他社より50倍もする値段のものを売って歩き、顧客の信頼を得てマッキンゼー東京事務所を成功に導いたわけです。

「日本企業は世界中で物を売りまくりましたが、今や、日本企業の存在感は弱まるばかりです。このような国内外での困難な状況を打破するためには「売る力」、いや「買ってもらう魅力」が不可欠です。それでいて現状では満たされていない“ミッシングピース”、それこそが営業だ」と大前氏は喝破します。