だが、国への支援要請で歩調を合わせた東電と経産省も、内実は〝同床異夢〟だ。国費投入と引き換えに東電に改革を迫る構えの経産省に対し、東電側は「国の資金援助さえあれば改革はいらない」との姿勢が色濃いからだ。

 11月下旬を迎え、東電幹部は連日早朝から経営会議を開いて新たな再建計画「総合特別事業計画(総特)」を策定している。希望退職者約1000人の募集といったリストラとともに、持ち株会社化、海外展開などの成長戦略、そして柏崎刈羽原発の再稼働などが柱となる見通しだが、その中身をめぐって両者は激しくぶつかり合う。

避難指示区域にほぼ全域が入る福島県浪江町。街並みはほぼ事故前のままだが、人影を見ることはできない
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 東電につぶれてもらっては困るのは、金融機関も同様だ。本稿執筆の10日時点では、総特の素案提示を受け、融資の詳細な条件を詰めているが、事故後、東電に2兆円の緊急融資を実施してからというものの、東電経営への関与の度合いを深めている。融資を焦げつけさせるわけにはいかず、新たな融資には慎重だ。

 しかし、経産省は、そうした姿勢の金融機関を牽制する。

「国が国費を負担し、東電は新しい事業計画の下で賠償費捻出のために必死で成長するのだから、銀行も東電の将来のために融資すべきだ」(経産省幹部)

 こうした経産省のバックアップを受け、東電は総特に2兆円の新規融資を書き込む方向だ。

 福島第1原発の事故は規模もさることながら、かかる費用も巨大過ぎるため、東電をつぶすことはできない。まさに「Too Big to Fail」。その点では政府、与党、金融機関、そして電力業界の認識は一致しているが、その思惑はばらばらだ。

 政府は、汚染水の収束や福島の復興遅れが「東電任せ」だったことに原因を求め、「前面に出る」という姿勢をそれこそ前面に打ち出し、目下、与党提言を受けた具体策を次々と固めている。

 だが、主体が東電であろうが、国であろうが、忘れてはならないのは最終的にはすべて国民負担となることだ。東電であれば後述する賠償スキームを通じて電気料金に転嫁されるし、国であれば税金となって重くのしかかる。しかも、かかる費用を鑑みれば、決して小さな金額ではない。

東京電力“救済”の陰で
最後にほくそ笑むのは?

『週刊ダイヤモンド』12月21日号の特集は、「東京電力~救済で笑うのは誰か」。

 福島第一原子力発電所の事故からまもなく3年を迎えるに当たり、これまで復興から取り残されてきた福島の復興加速策が急ピッチで詰められています。

 そのなかで、事故を起こした東電が、なぜか〝救済〟されようとしています。背後には、国や金融機関、そして電力業界など、さまざまなプレーヤーたちの思惑があるようです。

 そこで特集では、なかなか進まない除染や賠償、廃炉の現状と今後を詳しく解説すると共に、東電救済の裏で繰り広げられている魑魅魍魎たちの壮絶バトルを余すところなくお伝えします。

 併せて、福島復興に伴って引き上げられることが必至の電気料金が将来、にいくらくらいになりそうなのか、シミュレーションしてみました。

 東電が〝救済〟され、国もメンツを維持し、金融機関も守られ、国民だけが泣く。今のまま議論が進めば、そんな事態が遠からずやってきそうです。

 なお、キーパーソンである大島理森・自民党東日本大震災復興加速化本部本部長と、泉田裕彦・新潟県知事の誌面では載せ切れなかったインタビュー特別編を12月16日(月)からデイリー・ダイヤモンドだけで特別公開致します。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 田島靖久)