大手PR会社を襲った
まさかの“お家騒動”
昨年の12月、PR業会大手、プラップジャパンの創業者で、日本のPR業界の礎を築いた矢島尚会長が69歳の若さで急逝した。
危機管理や不祥事対策に造詣が深かった名物創業者の突然の死が、皮肉にも同社に混乱を招いている。
今年7月下旬、同社と資本提携する英大手広告代理店のWPPグループが、杉田敏社長ら役員2人の解任を求める株主提案をしたことで、同社のガバナンス(企業統治の仕組み)にひずみが生じていることが露見したのだ。
WPPによれば、事の発端は、矢島会長や杉田社長らが保有するプラップ株式売却に関連して、昨年5月、プラップが三菱UFJモルガン・スタンレー証券と交わしたファイナンシャルアドバイザリー(FA)契約。利益相反取引に当たる疑いが濃厚で、さらに、取締役会の決議も経ていなかったという。
このFA契約の違法性をめぐり、取締役会を二分する議論が続いていた今年6月、今度は矢島会長の妻や長女など遺族が、次女ら2人を取締役に推薦した。それが、WPPによる杉田氏らの解任騒動に発展した。
WPPは、杉田社長らによる「筆頭株主である遺族の力を借りた取締役会の多数派形成。自らに向けられた疑義を多数決で封じ込めるもの」と詰問した。しかし、9月中旬に開かれた株主総会で、矢島会長の次女らの取締役就任と杉田社長らの続投が決まった。
「遺族の動きは、杉田社長の意を受けていることは明らか」とWPP。一方、プラップは「PR会社として、今回の騒動は大変心苦しい」とし、「遺族の取締役就任は、創業者が築いたDNAを引き継ぐという思いからだ」と説明する。
だが、同社関係者はこう本音を漏らす。
「名物創業者の存命中は、よくも悪くも統制が利いていた。だが、あまりに急に亡くなったことで、外部からいろいろな思惑が出ているのだろう」──。
くしくも矢島会長は著書の中で、「不祥事を起こす会社の共通点」として、「トップが長年にわたり、その座についている」「代々続いている創業家企業」などの特徴を挙げた上で、「自分たちは決して悪いことをしていないと思っていても、外から見れば非常識なことに映る」企業文化がつくられると記している。