神戸大学大学院工学研究科の塚本昌彦教授は、01年から12年間、ウェアラブル機器を身に着けて生活をしている。
現在は、速度や温度、高度などの表示のほか、ナビゲーションやカメラ機能などがついたカナダのリーコン社製スキーヤー向けヘッドマウントディスプレイ(HMD)をメガネに取り付けている。そして左腕には、ソニーの「スマートウォッチ2」などの腕時計型を三つ、右腕には「UP by JAWBONE」などの睡眠状態や運動量などを測るブレスレット型の活動量計を三つ着けている。「ウェアラブルの伝道師」という異名はだてではない。
「私がHMDを着け始めた12年前、携帯電話の次には必ずウェアラブル機器の時代が来ると確信していた。最も楽観的なケースでは数カ月もすれば研究室の連中も皆、着けるようになるだろうと思っていたのだが、誤算だったのは、携帯電話が進化してスマホという分野が先に立ち上がったことだ」と塚本教授は話す。
もどかしさと共に過ごした12年間だったが、「とうとうウェアラブルの時代が来た」と喜びをあらわにする。このところ、国内外でさまざまなウェアラブル機器が発表・発売されている。塚本教授が主宰するNPO法人「ウェアラブルコンピュータ研究開発機構」にも、多くのメーカー関係者や研究者が参加し、盛り上がっている。
もちろん、米国でもウェアラブル熱は高まっている。
サンフランシスコに誕生した「Stained Glass Labs」は世界初のウェアラブル機器向けのテクノロジー専用のインキュベーターだ。ウェアラブルに特化したスタートアップ企業向けに、投資家へのプレゼンの仕方から、資金集め、製品開発までアドバイスする。創設者のカイル・エリコット氏は、「今、クリエーターたちがものすごく興奮して、新しいものを作ろうとしているのが伝わってくる。モバイル機器の場合のように『アプリ』という概念にとらわれず、今までになかった発想が必要とされている」と話す。
例えば、ズーム機能のついたコンタクトレンズを開発しているスタートアップ企業があるという。それを着ければ、スポーツの試合などをライブで見る場合、一番安いチケットで、一番遠くの席からでも、試合が2倍や3倍のズームで見られる。「スタートレックとか、ターミネーターとか、みんながフィクションの世界でしか体験したことのないような世界が現実になるという夢を実現できる」とエリコット氏は興奮気味に言う。
では、こうした中で、日本メーカーはどう戦っていけるのか。
スマホ市場においては、アップル、サムスンなどの陰に隠れて、日本メーカーは主役を張ることはできなかった。といっても決して技術力で劣っていたわけではない。むしろ部品供給元として“黒子”に徹することになった。
「ウェアラブルは、精密で小型で、防水でという日本メーカーにとって十八番の分野。大事なのは、リスクはあっても人と違うことをやってやろうという姿勢だ。僕のようにね」と塚本教授は言う。
来るウェアラブルの時代において、日本メーカーは、その技術力を・宝の持ち腐れ・にすることなく、主役の座に就くことができるだろうか。