『週刊ダイヤモンド』3月4日号の第1特集は「地方銀行 メガバンク 信金・信組 老衰危機」です。日本銀行の次期総裁に、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏が起用される見通しで、金利上昇期待も高まっています。しかし金融機関にとって追い風ばかりではありません。 「老衰危機」にある金融機関は、時代の荒波を乗り越えることができるのかーー。地方銀行、メガバンク、信金・信組の今に迫ります。(ダイヤモンド編集部副編集長 重石岳史)

金融庁のモニタリングで始まった
"老衰"地銀を襲う苦難の数々

「悪いことを悪いと言うのがわれわれの仕事じゃないですか」――。

 金融機関のモニタリングを行う総合政策局モニタリング部門の屋敷利紀審議官は、ダイヤモンド編集部のインタビューにそう述べた。

地銀は具体的に、収益悪化要因として何を懸念しているのか(写真はイメージです) Photo:PIXTA

 屋敷審議官が言う「悪いこと」の一つが、仕組み債の販売だ。仕組み債は、債券でありながらデリバティブの要素を含んだ複雑でハイリスクな金融商品だ。金融機関が受け取る手数料は高いものの、顧客へのリスクが大き過ぎる商品としてかねてより問題視されていた。

 金融庁は昨年8月に公表した金融行政方針で、仕組み債の販売で「顧客本位の業務運営」ができていない恐れがあると指摘し、特に地方銀行グループ傘下の証券会社の販売体制についてモニタリングを行うと明らかにした。その宣言通り、同年10月には常陽銀行(茨城県)、足利銀行(栃木県)、第四北越銀行(新潟県)、七十七銀行(宮城県)、同11~12月には群馬銀行、広島銀行、静岡銀行、今年1月には横浜銀行(神奈川県)などに立て続けにヒアリングが入ったもようだ。

 モニタリングでは仕組み債に限らず、リテールビジネスの在り方から問う壮大なテーマが設定された。ヒアリング項目は大きく四つ。(1)リテール戦略の全体像と、経営としての考え方、(2)顧客本位の業務運営の追求方法、(3)営業現場の実情、(4)管理、内部監査部門における顧客本位の業務運営の検証体制――である。

 具体的には、「地域で果たすべき役割とリテールビジネスとの関係性についてどう考えているか」から、「各金融商品の販売を会議体でどう決定したか」「1行員当たりの営業件数や販売額はどのくらいか」といったことまで詳細に詰められ、「体制整備が甘い地銀は、こっぴどく絞られた」(地銀幹部)という。

 だが、地銀の苦難はそれだけでは終わらなかった。

金利「据え置き競争」の我慢比べ
2%上昇で地銀31行が資本の健全性保てず

 金融庁は今、仕組み債だけでなく、逆ざやが深刻化しかねない外国債券のモニタリングも強化している。ただし、業績をむしばみ得ると地銀が懸念している要因は他にもあるのだ。

 では地銀は具体的に、収益悪化要因として何を懸念しているのか。ダイヤモンド編集部が実施したアンケートで7割以上の地銀が挙げたのが「地域経済の悪化」だ。

 自由回答では、物価上昇や原材料高、エネルギー価格の高騰などによる取引先の経営悪化を懸念する声が多く寄せられた。各国の保護主義化やロシアのウクライナ侵攻、円安が中小企業の経営にもたらす打撃は大きい。もともと地方では人口減少などによる地盤沈下が課題だが、そのスピードがさらに速まる恐れがある。

 また、金利上昇の可能性が高まっていることも地銀を悩ませる要因となっているようだ。ある地銀幹部によれば、「金利競争の激化」も金利上昇と無関係ではないという。

 地銀がこの10年に繰り広げた壮絶な金利競争の流れは簡単には変わらず、「これからは『金利据え置き競争』という我慢比べが始まる」(同)という。実際、金利上昇局面では、他行から低金利での借り換えを促すなどして貸出金の増加を狙う地銀が相当数、出てくるはずだと見る向きは多い。前述したように、今は中小企業の経営が厳しい時局でもあり、攻勢を仕掛ける地銀が出てもおかしくない。

 一般的に銀行は、金利が上がれば貸し出し収益が増加し、もうかるとされている。しかし、現実はそんなに甘くないということだ。

 さらに甘くない現実として地銀に立ちはだかるのが、2位に挙げられた「金利上昇による日本国債の含み損拡大」だ。国債の価格は金利と逆相関関係にあるため、金利が上がれば国債の価格は下落し、保有債券の評価損を抱える。

 地銀が「国内基準」を採用している限り、含み損はいくら増えても自己資本から差し引かれることはない。しかし銀行全体のリスク量が高まれば、本業の貸し出しに保守的にならざるを得なくなる。日本資産運用基盤グループ投資運用ソリューション部の石田淳部長は「含み損の拡大に伴いリスクテーク力が低下し、投融資の機会が失われる」と懸念する。外債と違い、逆ざやになることがまずないからといって、「満期まで抱えれば問題ない」とは本来、言い切れない。

 ダイヤモンド編集部が、金利が上昇した場合の国債と地方債の評価損を試算したところ、「金利2%上昇、健全性を保つために必要な自己資本比率7%」のシナリオベースでマイナスに陥る地銀は31行に上った。

「金利が上がっても、向こう5年はむしろつらい」。そうぼやく地銀業界は、収益向上策として王道の「取引先支援」を掲げるものの、従来型ではままならない可能性が高い。

 老衰危機に瀕する地銀に今、数々のリスクが襲い掛かろうとしている。

金利上昇期待にゼロゼロ融資返済本格化…
地方銀行、メガバンク、信金・信組の老衰危機

『週刊ダイヤモンド』3月4日号の第1特集は「地方銀行 メガバンク 信金・信組 老衰危機」です。

 日本銀行の次期総裁に、経済学者で元日銀審議委員の植田和男氏が起用される見通しで、金利上昇期待も高まっています。しかし金融機関にとって追い風ばかりではありません。

 コロナ禍に国が打ち出した実質無利子・無担保融資(ゼロゼロ融資)の返済が今夏以降、本格化します。ゼロゼロ融資は、融資後3年間の利子を企業に代わって都道府県が金融機関に補給し、しかも元本の80%か100%を公的機関である信用保証協会が肩代わりしてくれる、いわばリスクフリーの金融機関にとっておいしい貸し出しでした。

 Part1『限界地銀の試練』では、その利益の“水増し分”は返済で剥がれ落ちた場合、地銀にどれほどの影響をもたらすかを試算。実質的な業務純益の「顧客向けサービス業務利益」で赤字に陥る地銀は、普通シナリオで34行に上りました。その他、勘定系システムの統合や「1県1グループ化」を軸にした再編予想もPart1で取り上げています。

 Part2『黒船襲来』は、瓦解の危機にあるSBIホールディングスの「第4のメガバンク構想」の実態を暴き、さらに日本M&Aセンターやコンサルティング会社など地銀周辺でビジネスを狙うプレイヤーたちを描きました。

 Part3『メガの正念場』は、メガバンクもビジネスモデルの変革を迫られ、それに伴いリテール戦略や「出世の王道」が見直されつつある現状についてリポートします。

 Part4『信金・信組「格付け」ランキング』では、収益性や地域密着度など独自指標を用い、全国の254信用金庫と139信用組合のランキングを作成。1位に輝いた信金と信組の理事長にインタビューし、地域経済を支える「とりで」としての覚悟を語ってもらいました。

 「老衰危機」にある金融機関は、時代の荒波を乗り越えることができるのかーー。地方銀行、メガバンク、信金・信組の今に迫ります。