高い知名度の名門企業・船井電機
300億円もの資金流出で突然破産
低価格帯のテレビに強く、海外でも高い知名度を誇った老舗電機メーカー、船井電機が10月24日、突然倒産した。取締役の一人が取締役会の決議を経なくても出せる準自己破産を申請し、東京地方裁判所が即日で破産決定したのである。
翌25日の給料日前に、約500人の従業員全員が一斉解雇の憂き目を見た。従業員への給与計1.8億円を支払うと、運転資金が1000万円を下回る窮状に船井電機は陥っていた。
破産手続開始申立書によると、9月末時点で債務超過額は117億円。資産のうち、持ち株会社の船井電機・ホールディングスへの貸付金253億円は、回収の見込みが立たず無価値。その上、33億円の簿外債務も隠されていた。
名門電機倒産の陰に、2021年5月に同社を買収した出版社、秀和システムがあった。そのトップである上田智一氏は、破産する目前の9月27日に船井電機の社長を辞めた人物。買収後わずか3年半で同社は破綻してしまった。
買収される前には347億円もあった船井電機の現預金は、あっという間に枯渇した。申立書は秀和による買収後、関連会社への貸付金や、23年4月に買収した脱毛サロン「ミュゼプラチナム」への資金支援(ミュゼはその後1年足らずで他社に売却)などで約300億円もの資金流出があったとしている。銀行関係者は「秀和が入らなければ船井電機はつぶれていなかった。もっと時間的・資金的余裕があったはずだ」と指摘する。
気になるのはこの倒産劇がもたらす今後への影響だ。次ページで確認しよう。
人件費・物価高騰・過大負債
金利上昇も加わりゾンビ企業爆増
船井電機の子会社は31社。債権者数は524に上り、このうち大半が取引先企業とみられる。債務超過で取り立て困難な債権額は469億円もある。大手信用調査会社の幹部は「これから連鎖倒産が起きる可能性は十分ある」と警鐘を鳴らす。
知名度が高い船井電機の破産をきっかけに国内で倒産への危機感が高まっている。名門企業も決して蚊帳の外ではない。例えば日産自動車は経営が窮地に立たされている。同社の24年4~9月期の営業利益は前年同期比90.2%減の329億円。25年3月期の通期業績予想も2度目の下方修正を強いられた。
実際足元で倒産は急増している。今年度上半期の全国の企業倒産件数(負債総額1000万円以上)は5095件で、10年ぶりに5000件を超えた。東京商工リサーチによると、10月の倒産件数も前年同月比で14.6%増の909件と高水準が続く。24年度の倒産件数は、13年度以来11年ぶりに1万件を突破する勢いとなっている。
人件費高騰に加え、物価高による原材料費などコスト増が続き、販売価格に転嫁できずに経営破綻に追い込まれる企業が相次いでいる。帝国データバンクによると、24年度は人手不足倒産と物価高倒産の件数がそれぞれ過去最高ペース。企業の価格転嫁率が44.9%にとどまっている(費用が100円上昇しても44.9円しか販売価格に反映できず、残りを企業側が負担する状態。数値は7月時点の全国平均)要因は大きく、企業の1割強は全く価格転嫁できていない。
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