コロナで露呈した“公私格差”
親に高まる公立学校への不安
「中学受験ブームがこれから、今の小学1~2年生が受験生になるぐらいまで続きそうだ」――。そう“予言”するのは、中学受験塾、四谷大塚の岩崎隆義情報本部本部長だ。
中学受験塾の関係者の間では、2021年の中学受験者数は、新型コロナウイルスの感染拡大による経済状況の悪化によって、前年より下回るとみられていた。ところが、ふたを開けてみれば、首都圏では卒業生数が減っているにもかかわらず、受験者数は増加した。
日能研のまとめによれば、首都圏の受験率は20.8%と前年よりも0.6ポイント上昇。これは09年(21.2%)に次ぐ高さである。中学受験最大の激戦区、東京都の受験率に至っては、11年入試以来、10年ぶりに30%を突破するという過熱ぶりだ。
その背景として指摘されるのが、コロナ禍によって露呈した、ICT(情報通信技術)教育に代表される公立学校と私立学校の教育格差だ。SAPIX(サピックス)の広野雅明教育情報センター本部長は、「22年入試がどうなるかは今後の経済状況にもよるが、公立学校でICT教育のハードの整備が進んでも、ソフトの面で不安を抱く親はなお多い」と指摘する。
また、岩崎本部長は「コロナ禍による公立学校の停滞を目の当たりにしたことで、『お金をかけてでも、わが子の教育環境を担保しなければ』と考える親が増えている。今回のコロナ禍は、中学受験の動向にかつての『ゆとり教育』導入のときと同じくらいのインパクトをもたらしかねない」と話す。
しかも、この動きは、来年以降により大きく現れるという見方が大勢だ。その理由は、コロナ禍の発生時期と中学受験に必要な準備期間とのタイムラグにある。
21年入試の受験者増には、コロナ禍によって急きょ中学受験に走った駆け込み受験も少なからず影響したとみられている。ただし、本来であれば、中学受験の準備は小4ぐらいまでに塾通いなど対策を始めておく必要がある。そのため、小学校高学年以上に中~低学年の子どもがいる家庭の方が、公立学校への不安によって私立中学受験に、よりかじを切っているだろうことが予想できるのだ。
実際、東西の中学受験塾の関係者は、「(22年以降の受験を望む)親からの申し込みや問い合わせの数が前年を大きく上回っている」と口をそろえる。広野本部長は、そのすさまじさの一端を明かす。
「より低学年からの申し込みが増えている。昨年11月から、この4月に小学校へ入学した新1年生クラスの募集を開始しているが、すでに3分の2の校舎が定員に達し、募集を締め切った」
そもそも、近年、中学受験を目指す家庭は増加傾向にあった。その主な理由は、20年度の「大学入試改革」と16年度から始まった「私立大学入学定員厳格化」にある。受験レースの“ゴール”である大学受験の先行き不透明感に、コロナ禍以前から小学生の子どもを持つ親たちの不安が増大していた。コロナ禍は、その流れをさらに加速させたという構図なのだ。
そして、コロナ禍が中学受験にもたらした影響は、全体の受験熱にとどまらず、個々の学校の受験者数にも影響を与えている。
21年入試の受験者に広がった
「安全志向」と「越境回避」
森上教育研究所の森上展安代表は、「首都圏における21年入試のキーワードの一つが『安全志向』。難関校を狙わず、中堅校を選んで確実に合格するという動きが顕著に見られた。その結果、難関校の多くが受験者数を減らした一方、例えば、親世代のブランド校で知名度の高い非ミッション系女子伝統校の山脇学園や昭和女子大学附属昭和、実践女子学園、跡見学園などが躍進した。また、付属校でも早慶が沈静化する中、日本大学豊山などの中堅付属校が人気を集めた」と指摘する。
この受験者の「安全志向」に加えて、コロナ禍の影響とみられるのが越境受験の減少であろう。首都圏における最たる例は「千葉最難関の渋谷教育学園幕張(渋幕)。主に都内からの受験者が減った結果、受験者数は、男子が19%減、女子が15%減となった」(森上代表)。
こうしたコロナ禍による入試動向の変化に加え、今年の芝浦工業大学附属のような共学化ばやりや、延べ3000人以上の受験者を集めた広尾学園小石川に代表される新設校の躍進、そして、「湾岸エリアの人口増に伴って、東京・大井町の青稜や品川翔英のように人気が急上昇している学校」(同)の存在が、学校選びに変化をもたらしている。
「コロナ禍で半年先のことも分からない中、6年後のことなんて誰にも分からない。先行き不透明な時代だからこそ、偏差値だけで学校を選ばないことが重要になるが、それが一番難しい」と、大手中学受験塾の幹部も頭を悩ませる事態なのだ――。
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