『週刊ダイヤモンド』1月25日号の第1特集は、「パナソニック 名門電機の凋落」です。創業101年のパナソニックに再び経営危機が迫っています。事業軸を担当する五つのカンパニー全ての業績が振るわず、2020年3月期見通しでは営業利益が前年同期比で1000億円もダウンする異常事態なのです。ライバルの日立製作所やソニーが過去最高の営業利益を更新する中、パナソニックだけが長期低落傾向から抜け出せずにいるのはなぜなのでしょうか。就任8年目の津賀一宏・パナソニック社長に突撃インタビューを敢行しました(特集記事を抜粋してお届けします)。

「家電部門・本社を中国に移転」
を視野に入れている

プラズマテレビ事業からの撤退を決めるなど改革者として名を挙げた津賀一宏・パナソニック社長。狂ったシナリオをどう修正しようとしているのか。Photo:Bloomberg/gettyimages

──2019年11月に開催された投資家向けの年度計画説明会では、新中期戦略の具体策が示されました。改革の目玉として、家電事業等を展開するアプライアンス(AP)社と、電材事業等を展開するライフソリューションズ(LS)社を融合させて「新しいビジネスモデル」をつくることを掲げています。このモデルが成功するかどうかは、19年4月に設立した中国・北東アジア(CNA)社という地域カンパニーでの取り組みが鍵になりそうですね。

 日本ではAP社にしてもLS社にしても、手掛ける商材のマーケットにおけるポジションが高いので、急に一緒にビジネスを展開するのは難しい。流通ルートが違いますから。だから、やれるところからやるということで中国から着手しようとしています。

──将来的に、家電部門(AP社)のヘッドクオーター(本社)を日本から中国へ移転する計画はないのですか。

 もちろん、そういうことも視野に入れています。すでに、事業部によってはヘッドクオーターを中国に移したりしていますから。

 まあ、大きなカンパニーの本体を中国に移管するのは一気に進められるものではないですし、まずは中国でしっかりとした成功モデルを構築して、かつ中国で開発体制にかかるコストも含めた固定費を回していける前提がないと、現実的ではありませんが。

 ただし、長期的に考えれば、それ(ヘッドクオーターの中国への移管)は一つの考え方なんですね。コスト一つ取っても、中国起点で削減していくというのが一番分かりやすいですし、(中国メーカーの標準部品の活用などにより)まさに研究している最中でもありますし。

 これから中国にはもっと注力して、将来的には、日本向けの家電製品にも使えるような部材をもっと調達していきたいと考えていますから。

──CNA社に関しては、設立時に家電事業のヘッドクオーターを中国に持っていこうとして、白物家電の〝本拠地〟である滋賀・草津の従業員から猛烈な反対に遭ったと聞いています。

 仮説として、どれだけヘッドクオーターを中国へ持っていけるのか検討してもらったといういきさつがあります。ま、反対というよりも、「やったら破綻しますよ」と言われたんですよね。

 中国を中心にやり過ぎると、日本の消費者に納得してもらえる商品をちゃんと出せなくなると。単に工場を中国に建設して、中国で生産した商品をそのまま日本に持って帰ってくるというのとは違うので。

 今のところ日本向けの商品と中国向けの商品では、開発の考え方を少し変えています。ただし、中国向けでいいものができれば、それをアジア向けやインド向けに展開するという考え方もありますし、その先には日本向けとしても展開できるだろうと。こうした思惑もあります。

──中国での新モデルは、販売のみならず、開発も日本に依存した家電事業の構造を変える目的があるのですね。そもそも、近年、家電事業の収益が停滞している原因をどう考えていますか。

 家電が厳しいのは、つまりテレビが厳しいということです。事業部は厳しいと分かっているんです。分かっているのに、まだテレビを売ろうとしているから駄目なんです。

 だから、そこ(テレビ事業)だけは許さないです。許さない……。前から、そんなことでは駄目だと言っていたわけやし。

──なぜ事業部では、駄目なことがまかり通ってしまったのですか。

 それは誰かが甘いことを言うたからでしょうな。収益性もあったように見えていたのですが、結局、売上高ばかり追って、販売会社の利益を薄めて十分に稼げていなかった。だから、テレビの戦略が間違っていたんでしょう。

──津賀さんの言い方が人ごとのように聞こえるのですが、それは無責任なのではないでしょうか。

 いやいや、そんなことないんです。事業計画の割り当てはカンパニー長の責任範囲ですから。全てのカンパニーの全ての事業部の責任を負うことなんてできません。

つが・かずひろ/1956年11月14日生まれ(63歳)、大阪府出身。大阪大学基礎工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。開発畑でキャリアを重ね、2004年に役員就任。オートモーティブシステムズ社、AVCネットワークス社社長を経て、12年に創業者一族を除き最年少で社長に就任した。冷徹な合理主義者で知られるが、「厳しくなり切れず情が厚い」(パナソニック幹部)との人物評もある。 つが・かずひろ/1956年11月14日生まれ(63歳)、大阪府出身。大阪大学基礎工学部卒業後、松下電器産業(現パナソニック)入社。開発畑でキャリアを重ね、2004年に役員就任。オートモーティブシステムズ社、AVCネットワークス社社長を経て、12年に創業者一族を除き最年少で社長に就任した。冷徹な合理主義者で知られるが、「厳しくなり切れず情が厚い」(パナソニック幹部)との人物評もある。Photo:Bloomberg/gettyimages

「老衰」迫るパナソニック
に見る日本企業の縮図

『週刊ダイヤモンド』1月25日号の第1特集は、「パナソニック 名門電機の凋落」です。

「今のパナソニックには、何一つ強いものがない。このままでは10年持たない。早ければ3年で潰れる」。あるパナソニック中堅幹部は声を潜めて危機感をあらわにする。別のパナソニックOBも手厳しい。「もはやパナソニックは日本のお手本企業ではなくなってしまった──。

 松下幸之助という経営の神様を創業者に持つ名門企業、パナソニックといえば業績に浮き沈みはあったとしても、それでも国内製造業のベンチマークだったはずです。しかし、いまや、事業軸を担当する五つのカンパニー全てで業績が振るわず、2020年3月期見通しでは営業利益が前年同期比で1000億円もダウンする異常事態に陥っています。

 パナソニックの時価総額(約2兆5600億円)は、20年前と比べて実に半分以下に落ち込んでしまいました。

 ライバルの日立製作所やソニーが過去最高の営業利益を更新する中、パナソニックだけが長期低落傾向から抜け出せずにいるのはなぜなのでしょうか。

 津賀社長を突撃したインタビューでは、保守本流の家電事業の再建策の他、シナリオが狂った自動車事業の方向性、後継者レースの行方、津賀社長自身の進退についても尋ねています。ダイヤモンド編集部だけに打ち明けた「津賀社長の真意」については、本誌をご覧ください。

 広がり過ぎた業容の「取捨選択」の遅れ、全体最適を阻む事業部の縦割り志向、イノベーションの芽を摘む企業風土、人事の硬直性──。パナソニックをむしばむのは大企業病とも言える「老化現象」です。パナソニックの重大課題を通じて、日本の多くのレガシー企業が抱える「老衰危機」の実態を浮き彫りにしました。