その結束を維持し、強めるシステムこそが、前出の卒業生評議員の選挙戦だ。「改選の時期になればいや応なしに自分が塾員であることを再認識する」とは別の塾員だ。

 加えて、この慶應ネットワークにどっぷり漬かることで、企業経営者にせよ会社勤めにせよ、ビジネスが有利になり、結果、塾員に金銭的な成功をもたらす。事実、慶應の集金力は群を抜き、大学の寄付金収入でも学生数で勝る早稲田の2倍以上を集めている。

 本編集部は、塾員の財力をうかがい知ることができる内部資料を入手した。塾員の名簿を管理する塾員センターが16年に作成した全国の自治体別の塾員の人口比率ランキングだ。こうしたランキングを作成すること自体が驚きだが、結果は興味深い。

 まず大学が住所を把握する塾員の総数は29万6953人。全卒業生の8割超に上り、卒業生の住所把握に悩む他大学同窓会には垂ぜんの数字である。なお日本の総人口に占める塾員比率は0・23%だ。

 資料は人口比率0・2%以上の自治体をランキング形式で掲載しているが、全国で塾員比率が最も高い自治体は、やはり慶應のお膝元の東京都港区である。総人口の2・83%、6811人が居住する。その他、上位には富裕層が多く住む東京特別区がズラリと並ぶ。

 都外に目を転じると、上から神奈川県鎌倉市、逗子市、葉山町と、やはり富裕層の多いエリアと一致する。また、1都3県以外では、関西を代表する富裕層が集う兵庫県芦屋市がトップ。続いて高級別荘地、長野県軽井沢町だ。

「納得のいくランキング。港区アドレスの友人は5人ぐらいすぐ浮かぶが、全員テレビ局勤務だ」と言うのは、さらに別の塾員。無論、居住地だけで結論付けることはできないが、塾員の懐具合を示す調査結果であることは間違いない。

 

三田会にさえひそかに忍び寄る同窓会離れ

 「権力と権威と金。三田会にいればそうした見返りが期待できる。ここが単なるお友達探しになりがちな他大学の同窓会と違う」と、冒頭の国立大同窓会幹部は言う。

 だが、そんな学閥の王、三田会も他大学同窓会と共通の悩みを抱えている。それは若年層の同窓会離れだ。ある地方の「地域三田会」(同一エリアの塾員で構成される三田会)の幹部は嘆く。「東京一極集中の流れもあり、現役世代の流出が激しく、高齢者クラブのようになっている組織も多い」。

 一方、一部の三田会では、世代交代の動きも出ている。その代表例が、人工知能を用いた味覚分析サービスを行う慶應発のベンチャー、AISSY社長の鈴木隆一氏が事務局長を務める「メンター三田会」だ。同会は起業を志す塾生や塾員の支援が目的だ。

 鈴木氏は36歳。3年前に高級スーパーマーケット、成城石井の創業者である石井良明氏らから「若い世代へバトンタッチしなければ」と事務局長に任命された。「現在の会員数は約60人ですが、中心世代は30〜40代になっています」と鈴木氏。また、塾員の人口比率ランキングトップ、港区にある地域三田会「港区三田会」などでも若年世代の幹部抜てきが起きた。

 三田会の天下は続くのか。そのための試行錯誤が始まっている。

早稲田、東大、一橋、開成・・・大学高校つながりがビジネスを制する

『週刊ダイヤモンド』7月13日号の第1特集は「新OBネットワーク 早慶 東大 一橋 名門校」です。

 学閥の王者、慶應「三田会」のネットワークは、悩みを抱えながらも強靭です。その後ろ姿を単に追いかけるのではなく、それぞれ大学の特質を生かした新しいOBネットワークの形成、コミュニティづくりの動きが広がってきました。

 東京大学や早稲田大学では、これまでの王道の就職先に代わって、起業家の道という新たな進路が急浮上しています。起業家OBたちも全面支援の構えです。

 有名進学校でぶっちぎりの結束力を誇る開成高校でも、起業家ネットワークがどんどん拡充してきました。開成を筆頭に、慶應義塾高校、灘高校、麻布高校、筑波大学付属駒場高校といった超有名校のOBがスタートアップ、ベンチャーを席巻しています。

 大学では、濃密なゼミつながりで強固な結束力を見せる一橋大学如水会、さらに上智、明治、立教、青山学院。中央、それに日大などのOBたちも、それぞれ独自のまとまりを競っています。

 全国に目を移すと、北海道では道庁〝北大閥〟が復活し、東北では仙台一高、二高の対決構図が急変。中部ではトヨタに無類の強さを誇った名大閥に異変が起きました。

 また、関西では関関同立の中で同志社と関学の同窓会人脈が立ち勝り、九州では福岡の修猷館が鉄の結束を見せつけました。

 全国大学・高校360校を盛り込んだ「エリア別〝学閥〟序列マップ」を見れば、最新情勢を確認できます。

 つながりがビジネスを制す。同じ高校、大学で学んだという信頼感、安心感はかけがえのないビジネスの支えです。最新の大学・高校ネットワークを解剖した本特集を、ぜひご一読ください。

(週刊ダイヤモンド編集部 小栗正嗣)