絶対王者三田会ネットワークの源泉に迫る
慶應義塾大学の同窓組織「三田会」は、学閥の絶対的王者として君臨する。経済界に広く、深く根を張る、三田会ネットワークの源泉に迫る。
日本の大学は3種類。国公立と私立、そして慶應だ」──。名門国立大学の同窓会幹部がそううらやむように、慶應閥の力は別格だ。
慶應義塾大学における最高意思決定機関、「評議員会」。その4年に1度の改選が2018年に行われ、評議員101人が同年11月に着任した。この評議員の改選システムが、三田会を最強たらしめていると言っても過言ではない。
改選において、塾員(慶應卒業生)のみならず財界からも注目を集めるのが、全塾員の直接選挙で選ばれる「卒業生評議員」の当落だ。大企業の会長や社長、その経験者が大量に立候補するためで、各企業の塾員が所属する「勤務先別三田会」を中心に、国政選挙顔負けの選挙活動が展開される。昨年の選挙戦を、大手不動産会社に勤める塾員は次のように振り返る。
「社内の塾員には自社の候補者への投票を促すメールが回ってきたが、その一方で、慶應出身の直属上司からは、自社の候補者ではなく取引関係にある他社の別の候補者に投票せよ、というお達しがあった。ノルマは自分の票を含めて最低2票。友達や知人の塾員にお願いして投票用紙をもらった」
政治家の選挙よろしく、注目候補者も存在する。前回改選では、福島原発事故時の東京電力社長、清水正孝氏が落選したことが塾員の話題になった。通常は、仮に卒業生評議員選挙で落選したとしても救済策があり、前期の評議員会が選ぶ「推薦評議員」と卒業生評議員とで選出する「塾員評議員」として〝復活当選〟するのが通例だ。だが、清水氏はそれもかなわなかったわけだ。
「18年改選の目玉も同じ構図で、スルガ銀行の前会長、岡野光喜氏と、大林組の大林剛郎会長の当落でした」と別の塾員。言わずもがなスルガ銀は、不正融資問題で大揺れ。片や、大林組はリニア談合事件で有罪判決が下った。だが、両名の選挙結果は〝天国と地獄〟になった。卒業生評議員候補者56人のうち、新たな評議員名簿に名前がなかったのが唯一、岡野氏だ。
三田会の学閥再生産システムにおいてまず特筆すべきは、慶應出身社長の人数だ。上場企業の社長は260人(18年6月時点)と2位の東京大学、早稲田大学の各172人を大きく引き離す。しかも、単なる上場企業ではない。年商が大きくかつ老舗の企業になるほど慶應出身社長は強い。つまり、量と質の双方に優れる。必然的に、日本を代表する大企業の経営者が多く輩出されることになる。今で言えば、トヨタ自動車の豊田章男社長やサントリーHDの佐治信忠会長など、そうそうたる面々だ。
彼らの多くが評議員に就くことで、経済界における慶應ブランドが高まる。一方、清水氏や岡野氏のようにブランドを損なうとの烙印を押された候補者は、三田会ネットワークからはじかれるわけだ。
そして、この慶應ブランドを背にする学生は、無論のこと就職に有利だ。例年、多くの新卒者が金融を始めあらゆる業界の大企業に散り、その企業の三田会に入会して各企業の学閥を強化する。