中国か、米国か
板挟みのトヨタの立ち位置
トヨタ自動車が、フルスロットルで反転攻勢を仕掛けている。狙うのは、世界最大の中国市場だ。
トヨタは2021年に中国での生産能力を170万台へ引き上げる計画だ。あるサプライヤーによれば、「20年代の早期に200万台へ、グループ内でコミットされているわけではないが300万台という構想まである」と打ち明ける。
そして、業界では、トヨタの次の幹部人事にも注目が集まっている。「来年1月付の役員人事で中国を強化する布陣を組むのでは」(トヨタ関係者)とみられているからだ。ある中国駐在員によれば、「これまでトヨタは、ホンダや日産自動車に比べて、中国人材にエース級を投入してこなかった」。トヨタ社内を鼓舞するためにも、反転攻勢の体制固めへ動くことは十分に考えられる。
それぐらい、トヨタの中国でのプロジェクトはめじろ押しだ。すでに、20年までに10車種の電動車を中国市場へ投入する計画を発表している。水面下では、燃料電池車(FCV)の政府機関との共同開発、吉利汽車とのハイブリッド車(HV)の共同開発、電気自動車(EV)に搭載する車載電池の調達など、トヨタの全方位戦略を中国でも展開する算段なのだ。
今年5月に中国の李克強首相が北海道にあるトヨタの生産拠点を訪れたあたりから、中国シフト加速へと潮目が変わった印象だ。1980年代に中国へ出遅れたトヨタと中国にはわだかまりがある。今、その歴史的な雪解けが訪れているといってもいい。
言うまでもなく、かつてないほどに中国政府が日本へ接近しているのは、関係悪化の一途をたどる米中関係があればこそだ。中国からすれば、比較的米国とコミュニケーションが取れる日本と仲良くしておいて損はない。
中国か、米国か──。板挟みのトヨタの立ち位置は極めて難しい。
中国になびけば、米国がトヨタを狙い撃ちして過剰な対米投資を迫るに違いない。米国になびけば、30年越しの和解が台無しである。
トヨタのある幹部は、「保護主義への傾斜やインセンティブ競争の激化など、米国の環境が厳しくなったから中国にシフトしているわけではない」と言い切るが、実情は米中の2大市場でバランスを取っていると考えるのが自然だ。
11月6日の中間決算では、小林耕士・トヨタ副社長が「22年までの北米への投資はすでに発表しているが、4億㌦のハイブリッド車投資も考えている」と発言。対米投資の引き上げを強調してみせた。トランプ政権に情報がどう伝わるかを計算し尽くしての発言だったのだろう。
つまるところ、トヨタをはじめ、大手日系メーカーは米中への二重投資を迫られる。
日米貿易摩擦と似通った
米中ハイテク覇権争い
トヨタの決算発表と同日に投開票があった米中間選挙では、上下院の多数派が異なる「ねじれ」になった。トランプ政権の運営が難しくなることから、一層、米国ファーストや保護主義の様相を呈するだろう。
その1日前、中国・上海では、米中間選挙に日程をぶつける形で、国際輸入博覧会が開かれた。習近平国家主席は大々的に自由貿易主義をアピールした(写真参照)。
米国が突き進む保護主義。自由貿易を声高に叫ぶ中国だが、投資・輸出規制を駆使して中国が利するように動くという意味では、中国が突き進むのも「形を変えた保護主義」である。
将来の飯の種となる技術覇権、国家の安全保障を支える軍事覇権を争う戦いなのだから、米中関係はもはや修復不可能だろう。
今回の米中戦争は、日米貿易摩擦と通じるところも多い。最大の貿易黒字国となったことから日本が狙われ、当初は単なる通商摩擦のようでありながら、米国は次第に対象品目をハイテク化し、日本のマクロ政策や産業政策にまで口を出すようになり、日本経済の弱体化を図った(図1、2参照)。
図1
図2
米国が中国に仕掛けている戦争は、そのパワーアップバージョンともいえるものだ。
そして、ビジネスを米中に依存する日系メーカーには、大きな試練が訪れている。
図3は、「売上高の米国依存度」「売上高の中国依存度」の高い日系メーカーをランキングしたものだ。米中関係がくすぶり始めた3月末に対する最新の株価騰落率を見ると大方の企業が値を下げている。同期間の日経平均株価は約3%上昇したにもかかわらずだ。それだけ、株式市場は米中経済戦争が日系メーカーに与えるリスクをシビアに見ている。
図3
米中分断──。日系メーカーが前提だとして信じてきた国際ルールや価値観が崩れた今、海外ビジネスを再定義するときにきている。
投資家注目!自動車、電機120社
日系メーカー危険度ランキング
『週刊ダイヤモンド』11月24日号の第1特集は、「米中戦争 日系メーカー危険度ランキング」です。
反グローバリスムの台頭で、自由貿易下で日系メーカーが構築した事業構造に歪みが出ています。
自由貿易から保護貿易へ、最適地生産から地産地消へ──。米中の二大市場に依存する日系メーカーは、保護主義を前提とした生産、開発、販売体制を早急に構築しなければなりません。
そこで、本誌では日系メーカーが米中経済戦争を機に迫られる投資リスクを独自に試算しました。
具体的には、米国・北米の売上高構成比が高い割に現地での事業投資が進んでいない企業を順位づけした「対米投資プレッシャーランキング」と、同様に「対中投資プレッシャーランキング」を作成しました。その結果は『週刊ダイヤモンド11月24日号』特集に譲るが、ビジネスを米中に依存している割に投資が進んでいない日系メーカーには、今後、米中への現地化や技術移転など投資リスクが高まっています。
米中分断時代の投資戦略が、日系メーカーの競争力を分けることになりそうです。