『週刊ダイヤモンド』2月24日号の第1特集は、「儲かる農業2018〜JAを襲う減反ショック」です。いよいよ2018年度産のコメから減反優遇制度が廃止されます。これまで、コメ農家が牛耳ってきた既得権益が消え、補助金体質が抜けないJAは存続の危機に瀕しています。自立した農家・農業事業者だけが生き残れる大競争時代の幕が開きました。

 問答無用で年間750万円の減収になる──。2018年産米の生産から、100㌶規模で経営するコメ農家に降り掛かる現実だ。

 これまで、国が配分する生産目標の範囲内でコメを作っていさえすればもらえた減反補助金が今年、消滅する。

 しかも、この減反参加メリットが消えることで、来年産はコメの需給が緩み、「1俵1000円ほどの米価が下落する」と予想する農家が多い。つまり、農家にとっては、補助金の減額とコメの売り上げ減のダブルパンチとなる。

 だが、これはあくまでも昨年までの農業スタイルを全く変えなかった場合に限る。実際には、経営マインドのある農家は、新たな時代を見据えて用意周到に準備を進めてきたはずだ。

「やはり米国はさすがだ。コメの施設が24時間3交代制でフル稼働しているとは──」

 今年1月末、茨城県のコメ農家30人が米カリフォルニア州の精米工場を視察していた。その精米工場は、農家らが輸出したコメを現地で精米する重要拠点だ。

 精米所の視察に先立ち、農家らは現地のスーパーで、コメの試食販売を行った。コメ5㌔㌘3000円ほどもする高級な価格設定だが、現地の顧客は試食すると「おいしい」と言って、値札をチラ見することもなくレジへ持っていく。

 このコメ輸出の事業主体、百笑市場の取締役で、試食販売に参加したソメノグリーンファームの染野実社長は、「米国人のダイレクトな反応を見て、輸出拡大の手応えを感じた」と興奮気味に話す。

 染野氏らは、16年から日本のコメ卸もJAも通さず、独自にルートを開拓し、コメの対米輸出を始めた。17年は235㌧まで輸出量を拡大。18年は一気に、600㌧を目指し、輸出する農家を募っているところだ。

 当初は8人だった輸出に参加する農家数は、輸出量に比例する形で増えて、今年は100人の大台に迫る見込みだ。染野氏らの輸出プロジェクトが、ここまで順風満帆に拡大してきたのは、市場環境を鑑みると、不思議なようにも見える。

 なぜならこの3年間、米価は上昇を続けており、農家はコメを国内で販売すれば相当な収入が得られたからだ。近視眼的な利益確保だけを考えれば、コメをわざわざ輸出する意義は薄れていた。

 にもかかわらず、輸出量と参加農家数が増え続けたのは、実は減反廃止の〝効果〟があるからだ。

 染野氏は「米価下落に備えて、保険としてコメを輸出している。国内外を問わず、売り先を確保しておかないと、どこまで価格が下落するのか分からない」と話す。コメ輸出に積極的に取り組んでいる農家は、目先の利益を度外視し、米価下落時のセーフティーネットを築く目的で輸出先を確保しているというわけだ。数年後に、いざ米価が暴落してから海外への販路を開拓しようとしても、後の祭りだからだ。

 政府は、もう一つのセーフティーネットとして、飼料用米への手厚い補助金を用意しているが、そんな小手先の収入源を確保するという段階はすでに過ぎている。コメの国内消費量は年間約8万㌧減少しており、この縮小マーケットだけを見てビジネスをすることはあり得ない。

 農家は、減反廃止という事実を冷静に受け止めて、コメ輸出に取り組むか、業務用米を作るか、はたまた野菜農家に転換するか──。まさに、重大な経営判断が問われる局面なのである。この決断いかんで、コメ農家の優勝劣敗が明らかになることは確実である。

 いかんせん、これまでコメ農家は甘やかされてきた。高い米価というゲタを履いているため、農家の〝裸〟の経営力が見えにくくなっている。そんな現状でも、コメをJAなどにただ出荷するだけの農家と、コメを自社で精米し、消費者やスーパーなどに直接売る力のある農家とでは、利益率に雲泥の差が出ている。まして米価が下がると、どれだけ販路を確保しているか、農産物を多様化しているかといった経営力があらわになる。競争に敗れた農家はM&Aの対象になるか、廃業するかのいずれかである。

農家の二極化に並行して
JAの二極化も進む

 そして、減反廃止のショックを最も強く受けるのはJAだろう。特に、コメの確たる売り先を持っていないJAは、農産物の販売事業で大苦戦を強いられそうだ。

 JAが最も恐れるシナリオとは、コメが供給過剰になったところで、農家がコメを大量にJAに持ち込み、在庫が溢れ返ることだ。JAは組合員からコメの販売を委託されれば断るわけにはいかず、結果として、非常に厳しい販売を余儀なくされる。

 その一方で、経営マインドの高いJAは、減反ストップの対策など、すでに対応済みである。たとえば、JA秋田ふるさと(秋田県)では、米卸などの取引先からの引き合いが強く現在の生産量では不足しているため、減反廃止を機に、1年間で100㌶ものコメの作付面積を増やすことにした。

 JAグループは総じて減反廃止に反対してきたのだが、同JAの小田嶋契組合長は本誌インタビューで「減反廃止は非常にいいことだ」と明言している。

 45年前に減反が導入される際、農業団体が反対運動を展開していたことに触れて、「かつての農政運動の悲願が今、成就したということだ」と感慨深げに言う。

 コメの生産抑制に大反対していた農家が、減反というぬるま湯の規制に慣れてしまうと、今度はその存続を求めるという奇妙な現象が起きていたのだ。

 JAは今回の政策転換のタイミングで、政治や補助金に依存する体質を刷新するべきだろう。JA秋田ふるさとでは今後、「政治に頼らなくとも農家の経営が成り立つように、JAとして農家の悩みに応える相談機能を強化していく」(小田嶋組合長)と話す。

 片や、担い手農家に見放されているJAも少なくない。農業振興に取り組まない「名ばかり農協」はさらに農家の求心力を失い、農業協同組合として存続する必然性が問われることになる。政治に庇護されてきたJAもまた、大競争時代から逃れることはできないのだ。

 本誌では、今年で3回目となる「JA存亡ランキング」を作成した。JAの存続に不可欠条件は、農家に選ばれる農協であること。そして、本業である農業振興に力をいれていることの2点だ。この考え方を反映させて、ランキングを大刷新した。

 ここでは、農家の支持率と財務データで評価した「総合ランキング」のベスト20を発表する。

 上位陣は独自の販路を開拓していたり、コメ輸出に熱心だったりと、経営マインドの高いJAばかりがランクインした。

508農協をカバーした
「JA生き残りランキング」

『週刊ダイヤモンド』2月24日号の第1特集は、「儲かる農業2018〜JAを襲う減反ショック」です。

 いよいよ2018年度産のコメから減反優遇制度が廃止されます。これまで、コメ農家が牛耳ってきた既得権益が消え、補助金体質が抜けないJAは存続の危機に瀕しているといえるでしょう。

 全国に約650ある地域農協の中には、農業関連事業の赤字を金融事業の黒字で補塡し、何とか経営が成り立っているという組合が少なくありません。

 しかし、組合員の高齢化や農林中央金庫による運用環境の悪化を鑑みれば、金融事業が先細りになるのは確実。金融事業に稼ぎを依存するJAの経営は立ち行かなくなります。

 そもそもJAは、農業振興という公益性の高い使命を果たしているからこそ、特別に、金融事業などの「農業以外の事業(総合事業)」が認められている存在のはず。今こそ、本業である農業に特化すべき時にきています。

 今回の特集のキラーコンテンツは、何と言っても「JA存亡ランキング」です。今年は、二つのランキング、「総合ランキング」と「経営健全度ランキング」を用意しました。

 総合ランキングは、1883人の担い手農家による「満足度」と財務データに基づく「経営健全度」をドッキングさせて総合偏差値を算出し、ランク付けを行ったもの。

 経営健全度ランキングは、財務の健全性を表す指標の中に「農業事業利益」と「農業事業利益比率」を盛り込むことで、金融事業に依存せず“本業”で稼ぐJAを高く評価したもので地域農協508組合を網羅しています。

 JAの二極化が進んでいる様子がくっきりわかる自信作です。JA関係者のみならず、新規就農を検討している方や農業参入している企業関係者も必読の特集です。