AI革命では
人が要らなくなるため
格差の拡大が続く

 戦後、一貫して低下していた「逆U字カーブ」が80年代以降、再び上昇(格差拡大)に転じた。それを指摘したのが、フランスの経済学者、トマ・ピケティ教授だった。

 ではAI革命は拡大し続ける格差を是正できるのか。答えはノーだ。むしろ格差を助長しているとさえいえる。

 河野氏は「今回の革命では労働が不要になるから、困難な時代が長引く可能性がある。現在の米国で機械に仕事を奪われた低スキル労働者を吸収するのは、ウーバーイーツのような仕事ばかりであって、経済格差の拡大が止まるきっかけがなかなか見えない」との懸念を示す。

 一方で、AI革命による付加価値は「高スキルの技術者、資本やアイデアの出し手が持っていき、平均的な会社員の取り分が増えない」(河野氏)。

 つまり、AI革命は人が不要になる革命であるが故に賃金が上昇せず、その結果、格差が拡大し続けるリスクが高いというわけだ。

 人手不足による賃金上昇で格差拡大が止まった産業革命。格差が拡大し続けるという点では、AI革命はその産業革命より恐ろしいといえる。

 だからといって、AIがけしからんと言っても始まらない。AIが進化の歩みを止めることはなく、むしろAI時代を生き抜く知恵を身に付けることが重要だ。AIは遠い世界の話ではなく、あなたの身近にある絶対に知っておくべき教養になったのだ。

AIでGDPが50兆円増加
労働集約型は大幅増収の期待

 AI革命は個人のみならず、企業にも格差をもたらす。

 三菱総合研究所はAIで生産性を向上させた場合、2030年の日本の実質GDP(国内総生産)は595兆円となり、活用できないシナリオと比べて50兆円も上積みされると試算した。いち早くAIを導入し、活用できた企業がその果実を得られるのだ。

 世界的にも、AIの導入を急速に進めて生産性を向上させた企業が評価を高めている。

 特に、日本は就業者1人当たりの労働生産性がOECD加盟国中21位。主要7カ国では最低と生産性の改善余地が大きく、革命の恩恵を受けやすい。

 勘違いしてはいけないのが、AIを導入しさえすれば効果が出るわけではないということ。AIは膨大なデータを解析して、先入観や偏見、感情に左右されることなく、人間が予想だにしない法則を導き出す。その大半は地味なトライ&エラーの繰り返しであり、その積み重ねが他社との差を生む。

 AIの導入に二の足を踏んでいた企業がいつの間にか競争力を失い、淘汰の憂き目に遭うかもしれないのだ。

 『週刊ダイヤモンド』2月10日号の第1特集は、「企業も個人も生死を分けるAI格差」です。AI革命によるリストラがにわかに進み始めました。3メガバンクが3万人超の削減を打ち出しましたが、このリストラは序章にすぎません。損保大手は営業事務の9割自動化を決めました。さらにソフトバンクは技術部門1.4万人を2年で半減させる方針を打ち出しました。日本企業のAIサバイバルがいよいよ本格的に始まったのです。

 特集では、どうして日本の名門企業はAI革命で負け組になりやすいかも徹底的に掘り下げました。問い合わせ100件のうち8割が失敗する中、AI導入が遅れる本当の理由などについて探りました。個人も際限なき格差拡大の危機にさらされており、大卒ホワイトカラーが働き方の大転換を迫られる背景などを追いました。企業も個人も、あらがいようのないAI革命に対応できるか否かで生死を分ける「AI格差」時代の到来です。