2016年に数カ月にわたり、薬や医療を批判する特集を組み続けた「週刊現代」が今年5月に再び薬特集を組んだ。昨年は「医者に出されても飲み続けてはいけない薬」など、今年は「あなたは薬を『誤解』している」と銘打った。
その影響は医療現場に表れた。兵庫・尼崎で開業する長尾クリニックの長尾和宏院長の元には同誌を握り締めた患者が「先生、この薬は危険なん、知らんやろ!」と興奮しながらやって来て、飲んでいる薬が載っているからやめたいと訴えてきた。
実は長尾院長は去年も今年も同誌の薬特集に登場している。医療を否定する過激な見出しが並ぶ特集だけに、「何でこんな取材に応じるんだ」と非難する医者仲間もいる。「センセーショナルを売りにするのは雑誌の宿命だから誇張した表現で医療を否定したんだろう」と苦笑する長尾院長は、「でもね、薬漬けはおかしいという大筋に賛同している」と続ける。
「自分はまっとうなコメントをしただけ。30種類もの薬を飲み続けている患者に出くわしたら、何とかしないとと思うよ。薬にはリスクとベネフィットがあり、リスクの部分が軽視されてきた。リスクを啓発するには、これくらい乱暴な方法も仕方がない」(長尾院長)
とはいえ、薬の悪口を書き連ねる記事全体には文句もある。
「人間と同じで薬もいいところ、悪いところの両方がある。コレステロールを治療するスタチンという薬はまれに横紋筋融解症という重大な副作用があるとやり玉に挙がっているが、頻度は非常に少ないし、スタチンなしでは命に関わるハイリスク患者もいる。全否定しているのは非常に問題」(同)
副作用はその重篤度とともに、発生する頻度も伝えなければ、リスクを正しく理解できない。
長尾院長がもう一つ心配するのは「医者を悪者に仕立て過ぎて、患者との信頼関係にひびが入ること」。自身のクリニックでも、記事の影響か通院をやめてしまった患者がいる。必要なスタチンをやめたがる患者に飲み続けるよう説得するのには苦労した。一方で、記事が適切に薬を減らすきっかけになった患者は十数人に及ぶ。
患者には、記事を機に適切な治療から遠ざかった者と、より適切な治療につなげた者がいるということだ。
「良い」「悪い」を断定する記事は分かりやすいが、「真実は極論と極論の間の『中庸』にある」と長尾院長は強調する。最適な中庸を見いだすには、健康や医療に関する情報を調べて理解し、その情報を使う能力「ヘルスリテラシー」を患者が身に付ける必要がある。
クスリのやめどき、食品の健康効果と安全性を明らかにする
『週刊ダイヤモンド』6月17日号の特集は「エセ健康科学を見抜く クスリ・健康食品のウソ・ホント」です。
エセ科学による宣伝広告や迷信、偏った報道やネットのエセ情報が氾濫し、健康に対するまっとうな判断力を鈍らせてしまう。そこで薬、健康食品、自然食材の裏側に迫り、薬のやめどき、健康食品と自然食材の本当の健康効果や安全性を明らかにしました。
老年医学の第一人者である東京大学大学院の秋下雅弘教授は、「年を取ったら若いころと同じつもりで薬をもらう姿勢は改めた方がいい」と促します。秋下教授が高血圧の薬、コレステロールの薬、糖尿病の薬、睡眠薬、胃薬、抗うつ薬などのそれぞれの具体的な「やめ方」と「やめどき」を伝授します。
そして薬よりも安全なうえに効果があると過剰に期待しがちな健康食品。キャッチコピーに偽りなく効くのか。巧妙な宣伝手口、微妙な言い回しとデータでまやかす効果のカラクリを明らかにしました。
自然食材のリアルもたっぷりお届けします。NHKの情報番組「あさイチ」は自然食材界の「スター誕生!」的存在で、最近ではかつてごみのようにも扱われてきた海藻のアカモクが取り上げられ、大人気になっています。そうしたブームの裏側に迫るとともに、食品リスク研究の第一人者が自然食材の「安全神話」のウソを明示します。
真実とは意外なもの――。本特集が薬や食品のエセ情報を見抜いて賢く付き合うための一助になれば幸いです。