「彼らの〝餌食〟は不祥事を起こして社会的信用を失った企業だ。今なら不正会計が明るみに出た東芝。その前なら三菱自動車にタカタだ」
日本を代表する大企業をターゲットとする〝彼ら〟とは、その規模と歴史で国内五指に入る大手法律事務所(以下、五大)──西村あさひ、森・濱田松本、アンダーソン・毛利・友常、長島・大野・常松、TMI総合──を指す。
長島・大野・常松法律事務所に在籍経験のある40代弁護士は、そんな彼らを「ハゲタカ」と呼ぶ。五大の業態がここ数年で変容し、存続が危ぶまれるような企業に狙いを定め始めたというのだ。
かつて五大は渉外事務所とも呼ばれ、主に大企業向けに法律業務を提供してきた。離婚や交通事故等の個人案件は一切受任しない。
そんな彼らの〝好物〟といえば、M&A(企業の合併・買収)だった。欧米ではやりの手法を持ち込んでM&Aのスキームを作り、条件の交渉や契約の締結など一切の事務作業を引き受ける。そのフィー(手数料)が事務所を支える“大黒柱”だった。
2000年以降、五大は相次ぐ大型業界再編に合わせて中小法律事務所を吸収。最大手の西村あさひは弁護士人数が10年間で2倍以上に膨れ上がった。
だが、M&Aの〝うまみ〟はなくなりつつあるという。
西村あさひに長年在籍し、現在は準大手法律事務所に所属する弁護士は「M&Aの手法が一般化し、中堅法律事務所が安く請け負うようになった。以前ほどフィーが取れなくなっている」と明かす。
加えて司法制度改革で大量増員された弁護士の一部が、証券会社や会計事務所などに流れ、その弁護士たちが、五大が引き受けてきた作業の一部を担うようになった。機能の区別が失われてM&Aがコモディティー化し、フィーの値下げ圧力がさらに強まったのだ。
五大の所属弁護士は、1年目の「アソシエイト」でさえ年収約1000万円の高給取りだ。そんな高コストの弁護士を大量に抱えるには、よりもうかる案件を探さなくてはならない。そこで五大が目を付けたのが不祥事企業だった。
企業の不祥事に絡んだ法律業務は枚挙にいとまがない。
第三者委員会の設置に始まり、事実関係の調査、メディア対応、行政や機関投資家への説明、それに関連する訴訟など多岐にわたる。
これら一連の法律業務を「危機管理」と呼ぶが、危機管理はM&Aと違い「依頼主から値引きを要求されることはほとんどない」(前出の40代弁護士)という。
M&Aの場合、次の案件も継続的に受任したいがために、法律事務所は多少の値引きに応じざるを得ない。だが、危機にひんした企業に〝次〟はないかもしれない。だから事務所側も遠慮なくフィーを請求する。会社を救ってくれるなら、と企業側もカネに糸目を付けないことが多い。
さらに付け加えると、危機管理は数年にわたって継続するケースがほとんどだ。
実際、タカタは08年11月の米国でのリコールをきっかけに危機が始まった。この先も危機が続くことは確実で、言ってしまえばタカタは、大手法律事務所が10年以上食い続けられる〝おいしい〟獲物なのだ。
危機管理案件のこうした性質が、五大が不祥事企業に群がる最大の理由だ。
森・濱田松本の棚橋元弁護士は「私たちは困っている企業をいかにして助けるかを考えている。ハゲタカとは心外だ」と不快感をあらわにするが、今の五大はかつてそう呼ばれた外資系ファンドの姿に重なる。膨張した図体を維持せんがために瀕死の大企業を食らう、腐肉食性のハゲタカのように。
そして、そんな五大の表層を一皮めくれば、ブラック企業と見紛うほどの過酷な労働環境下で酷使される、若手弁護士たちの姿があったーー。
環境の激変に直面する法曹
『週刊ダイヤモンド』2月25日号の第1特集は「弁護士・裁判官・検察官〜司法エリートの没落」です。
今回、取材班は法曹人口増加で混沌とする弁護士業界にとどまらず、裁判官と検察官の秘密にも迫りました。
法曹界で最上位層の秀才が集うのは、昔も今も裁判官です。
その頂点に立つ最高裁判所は内閣と国会を監視する立場にありますが、最高裁判事人事で安倍政権の介入を受けた可能性が高いことが、今回の取材で分かりました。
まさに今、最高裁が権力にひれふそうとしているのです。
一方、「巨悪は眠らせない」ことで知られる検察官。
しかし2010年に発覚した大阪地検特捜部の証拠改ざん事件の傷が癒えず、まるで眠ってしまったかのような状況が続いています。
東芝の不正会計問題では立件に難色を示すなど慎重姿勢が目立ち、捜査関係者からは特捜不要論まで出る始末。不敗神話が失墜し、もがき続ける検察の姿がそこにはあります。今回、検察官から弁護士に転じた「ヤメ検」の生態にも迫りました。
法曹三者の没落ぶりを裏付けるのが、下げ止まらない法科大学院の志願者数です。その多くで定員割れを起こし、崩壊が目前に迫っています。
大激動時代を迎えた法曹界で今、一体何が起きているのか。その全てを徹底解明しました。