『週刊ダイヤモンド』12月3日号の第1特集は「ゼネコン〜絶好調の先にある深淵〜」です。スーパー・準大手ゼネコン共に、最高益ラッシュが止まりませんが、一方で、建設従事者の高齢化や人手不足、重層下請け構造といった積年の課題の改革は遅れたままです。2020年以降、いや応なしに工事量が減少していく中、このままいけば、ゼネコン業界はどうなるのでしょうか。

三菱地所による戸田建設陽動作戦――。

 今、あるプロジェクトを巡って、ゼネコン業界にこのうわさが広がりつつある。そのプロジェクトとは、JR東京駅日本橋口側のすぐ向い、常盤橋地区の大規模再開発のことだ。

 かつて東洋一の大規模ビルといわれた日本ビルヂングを解体し、高さ390メートルの超高層タワーを含む4棟のビルに、約7000平方メートルの大規模な広場が併設され、東京の新たなランドマークになることは疑いようもない。

 施主は、「丸の内の大家さん」こと、三菱地所。丸の内や大手町エリアという一等地に数多くの不動産を所有する地所は、築年数が古くなったビルを数年ごとに次々と超高層ビルに建替えてきた。

 その中でも最大級といえるのが、この常盤橋地区の再開発だ。 

 とりわけ、B棟と呼ばれるビルは、大阪市阿倍野区にある高さ300メートルの日本一の超高層ビル「あべのハルカス」ばかりか、同333メートルの東京タワーをも上回る超高層タワーで、プロジェクトの完成を迎える2027年度にお目見えする予定だ。

 そしてB棟に比べれば幾分低いが、それでも230メートルもの高さを誇る超高層ビルA棟は、21年度に完成する予定で、着工するのは18年度と、受注に向けた入札は目前に迫っている。

 無論、こうしたランドマーク的な案件は、ゼネコン各社にとって垂ぜんの的。赤字であっても受注したいというのが、抑え難い“ゼネコンのさが”である。

 B棟の受注について、「大成建設首脳は『清水建設が有力だ』と言い、清水建設首脳は『大成建設が有力だ』と言って、互いにけん制し合っている」(不動産業界関係者)状況で、懲りない面々による前哨戦は熱を帯び始めている。

 これこそ、地所の思うつぼ。そこで、「先に着工されるA棟をあえて格安で戸田に受注させて大手ゼネコンを驚かせ、B棟の受注価格を下げるつもりだろう。戸田には工事終盤で利益を出させればいい」(大手ゼネコン幹部)というのが、冒頭の作戦の要旨だ。

 まさに戸田は、“当て馬”というわけだが、戸田は売上高こそ4000億円強と大手ゼネコンの3分の1以下にとどまるが、高層建築では多くの実績がある名門だ。

 今年4月に完成した大手町フィナンシャルシティグランキューブを施工するなど、地所とは親密な関係として知られる。戸田の今井雅則社長も本誌の取材に対し、「常にファイティングポーズだ」と受注への意欲を隠さない。

最高益に湧き上がるも いまだ変わらぬ業界構造

『週刊ダイヤモンド』12月3号の第1特集は「ゼネコン〜絶好調の先にある深淵〜」です。14年度決算で180億円の赤字(単体)を計上し、スーパーゼネコンの中で独り取り残されていたゼネコン業界の盟主、鹿島。その鹿島は今上期決算で過去最高益を計上し、さらに、通期の営業利益も過去最高の1200億円になるとの見通しを発表しました。ですが、株価の反応はいかにも鈍いのが現状です。

 この傾向は、鹿島以外のスーパーゼネコンでも同様です。というのも、2020年の東京五輪以降、一部の大型工事やリニア新幹線などの工事はありますが、業界全体でみれば縮小傾向にあることは否めないからです。

 それだけではありません。“重層下請け構造”と呼ばれるように、5次、6次下請けが現場を支え、下層にいけばいくほど、ピンハネされて手取り額が少なくなる構図は何も変わっていません。加えて、一人親方や下請け業者の社会保険への未加入問題は来年春から厳しくなりますが、社会保険の保険料の支払いを巡って元請けと下請けの押し付け合いが起こっています。

 こうした問題が解決しないと、若年層が建設業界に入るわけがありません。となれば、他の産業に比べて高齢化が進んでいる業界だけに今後10年もすれば、これまで以上の人手不足の大波が業界を襲うことになります。

 これら積年の課題にいまだメドが立っていないことに加え、いずれ工事量が減ってくれば、またぞろダンピング受注が再燃し、ゼネコン各社は赤字に沈むことになる可能性が高いでしょう。いかに最高益に沸いていても、そうした構図が透けて見える点が株価に反映されているといえます。本特集では、ゼネコン業界のこうした構図を中心に解き明かしていきます。