「見た目は閑静な住宅街でも、実際は空き家ばかりですよ……」
東京都多摩市の聖蹟桜ヶ丘──。かつて「多摩の田園調布」と呼ばれた郊外型の高級住宅地である。都内の地理に明るくなくとも、スタジオジブリのアニメ映画「耳をすませば」(1995年)の舞台となった高台の街、と聞けばピンとくる人も多いだろう。
京王電鉄(当時・京王帝都電鉄)が自らのお膝元、「聖蹟桜ヶ丘駅」の南側を開発し、「桜ヶ丘住宅」として、62年から1区画平均100坪で分譲をスタート、計約1300戸を販売した。
「新宿駅」へは特急で約30分。高度経済成長期の人口急増に合わせて、郊外に次々とつくられた大規模宅地の代表的存在である。
ただし、もともとは人が住もうとしない不便な場所を開いただけに、分譲地の入り口から中心に当たるロータリーに至るには、高低差50メートル超の「いろは坂」を1キロメートル近く上り続けなければならない。
「耳をすませば」で、ヒロインが高台に立つ家からの風景に「空に浮いているみたい」と感激するシーンがあるが、高齢化が進む〝リアル〟の住民にとっては、もはや苦行以外の何物でもない。
ロータリー周辺にはバスを待つ高齢者ばかり。冒頭のように街の荒廃を嘆いた男性もその一人で、この土地に移り住んでから、すでに35年がたつという。
「子どもたちは皆、家を出て都心に引っ越し、高齢者となった親世代だけが残されました。今では、街中で幼い子どもの姿を見ることはほとんどありません」
実際、住宅街を歩いてみても、夏休み中にもかかわらず、子どもの姿は見当たらない。一方、長年放置されているであろう草木の生い茂る空き家はすぐに見つかった。
2016年、桜ケ丘の公示地価は1平方メートル16万円(3丁目)。これに対し、過去の最高価格は88年の同77万円だ。地区計画で定められている最低敷地面積164平方メートルの区画でさえ、バブル末期の1.27億円から、2640万円へと、1億円下落したことになる。
だが、それでも買い手は容易には見つからない。
「駅まで距離があり、通勤に苦労する郊外型の新興住宅地は、現代の子育て世代には何の魅力もない」と言うのは、都内の不動産鑑定業者だ。「今、聖蹟桜ヶ丘のような空き家だらけの住宅地が、首都圏でどんどん拡大している」(同)という。
実家の相続から片付け、そして墓じまいまで実家の〝徹底〟活用術
『週刊ダイヤモンド』8月13・20日合併号の第1特集は「『実家』の大問題」です。高齢の親が亡くなり、田舎や郊外にある実家を相続することが増えていますが、すでに子どもも持ち家であることが多いため、実家が空き家と化す事例が急増しています。その空き家は2013年時点で820万戸を数え、18年には1000万戸を突破し、33年には2100万戸、すなわち3軒に1軒が空き家になると予測されています。
人が住まなくなった家屋の劣化は激しいものです。放置すれば数年で急速に傷み、さらにひどくなれば「空き家対策特別措置法」によって税金が跳ね上がるだけなく、強制的に取り壊されかねません。何より、空き家が増えれば、不動産マーケットが崩れてしまいます。つまり、早めに対策しなければ、売れない、貸せない〝負動産〟となった実家を抱えることになってしまうのです。
では、どうすればよいのでしょうか。注意すべき点は多岐にわたります。まずは実家を相続する際の注意点、実家にある大量の荷物の片づけ方、お墓の手仕舞い方などを知っておくこと。そして、空き家となった実家の売却・賃貸・管理の仕方です。それら各種のノウハウが本特集には詰まっています。ぜひ、お盆のこの時期に、ご家族で一緒にお読みいただければ幸いです。