「欧州発の金融不安がきっかけ」「米国での景気後退リスク」「やっぱり中国の景気減速」「中央銀行への不信感から」「根源的には米国の利上げ」――。
2月に入ってからの劇的な円高はどうして起こったのか。この問いに対する答えは、上記の通り、専門家でもさまざまだ。ところが、こうしたリスクイベントの結果として発生する「円高メカニズム」については、面白いことに完全に一致する。
具体的には、投資家心理が悪化し、株や新興国通貨などのリスク資産から安全資産に資金を移動する「リスクオフ」が加速して、相対的に安全資産とされる円が買われるという流れだ。
では、「リスクオフで相対的に安全資産とされる円が買われた」という、相場記事でよく見掛けるこのメカニズムは、本当に正しいのだろうか。
例えば、「安全資産とされる円」。日本は周辺で、北朝鮮が核実験を強行したり、長距離弾道ミサイルを発射したりと、きな臭い地政学リスクが高まっている上、財政的にも巨額の借金を抱え、国債暴落説が今なおくすぶっている。
これで安全資産なの?と言いたくなる。
これに対して、専門家がよく言う「日本は世界最大の対外純債権国(民間も含めた対外資産が対外債務を上回っている国)だから安全」という理屈。もちろん中長期の視点ならば理解できるのだが、投資家がそれを意識して円買いを仕掛けているとも思えない。
知られざる「“条件反射”的な思惑買い」の威力
悶々とした疑念が消えない折、本音を語ってくれたのが、SMBC信託銀行のシニアFXマーケットアナリストの尾河眞樹氏。「財政も厳しく、実際に安全資産と思って円を買っている人はいない」。
それなのに、どうしてリスクオフで円買いが進むのだろうか。その謎を探っていくと、超低金利時代が長く続いた日本の特殊事情が深く関係していた。