『週刊ダイヤモンド』2月6日号の第1特集は、「〜攻めに転じる大チャンス!〜儲かる農業」です。 TPPが合意に至り、いよいよニッポンの農業がグローバル競争の波に晒されることになりました。 ジリ貧の農業を“儲かる農業”へ変えるにはどうすればいいのか。

 1月18日、自民党の農林水産業骨太方針策定プロジェクトチームの会合に参加した農協(農業協同組合。JA)関係者の表情が青ざめる一幕があった。
 ヒアリングに呼ばれた農家が提出した資料に、(肥料や農薬などの)生産資材の価格について、農協と他の専門店とを比較した表が記載されていたからだ。かねて「農協の生産資材は、民間の商店よりも割高」といわれてきたが、実際の価格が自民党会合という公の場で明らかにされたインパクトは大きかった。資料によれば、農薬は最大21%、段ボールは12%、農協の方が高かった。
 資料には、さらに衝撃的な数字が並んでいた。ニンジン農家が農協で生産資材を買い、農協を通じて出荷した場合の「手取り(所得)」を試算したもので、10アール当たりの所得は、7万0670円だった。本誌が時給に換算したところなんと490円という結果に。最低賃金の全国平均798円を4割も下回る悲惨な数字である。
 この試算は、農協が農産物・生産資材の流通を牛耳っており、これを改めない限り、農家の経営が立ち行かなくなることを示している。
 農家には補助金が給付され、優遇されているイメージがあるかもしれない。だが、それは正しいとはいえない。割高な生産資材を押し付けられ、実は手元にはスズメの涙ほどのカネしか残らないのが現状なのだ。流通構造を支配する農協、そして、農協に群がる肥料・農薬・農機メーカーに搾取されているのだ。
 いつの時代にも、農協、自民党、農水省は、「補助金と票田」という絆で結び付いてきた。昨秋、自民党農林部会長に抜擢された小泉進次郎氏は「護送船団方式を何とかしなければ」として、農政改革に挑む覚悟を新たにしている。

小泉進次郎が挑む
「農政改革」3つの公約

 その小泉氏が大手メディアとして初めて本誌の単独インタビューに応じた。取材は昨年末と今年1月末の2回。ジリ貧の農業から“儲かる農業”へ、どう環境整備をしていくのか。農政改革の要諦について聞いた。
 小泉氏が掲げた公約は次の3つである。

公約①

まずは政治からチェンジ。補助金農政とは決別する

公約②

“儲かる農業”実現のために農協改革の手綱を緩めない

公約③

生産者起点から消費者起点へ。世界で稼ぐ体制を構築する

 インタビューの詳細は特集号(『週刊ダイヤモンド』2月6月号)に譲るが、「農業の世界を解剖しなければならない。農業の“見える化”をする」(小泉氏)と言い切り、農協が牛耳る流通構造に切り込む考えを明らかにしている。
 また、JAグループの農林中央金庫についても「農業や農家の発展のためにつかえない金融機関ならば、農林中金はいらない」と明言した。いよいよ、農政改革の“本丸”である農協改革にメスを入れようとしている。

127農協を同時指標でランク付け
首位いなば(富山)
2位あきた白神(秋田)

 2015年は、農協界が大揺れに揺れた年だった。第一の震源はJAグループの頂点に君臨してきた全国農業協同組合中央会(JA全中)を解体する農協法改正。もう一つの震源は、昨年8月、約700ある地域農協を束ねるそのJA全中の会長に、改革派の奥野長衛氏が就任したことだ。
 奥野会長は、かねて全中による統制的な組織運営に疑問を呈しており、ボトムアップ型の意思決定を目指している。現在、地域農協の組合長らにヒアリングを重ねているところだが、いまだ新機軸は打ち出せていない。
 全中会長選挙で票を奪い合った改革派と守旧派との間にしこりが残っていることもその一因ではある。だが、それだけではない。
 本来ならば、地域農協は、上部団体である全国農業協同組合連合会(JA全農)を下から突き動かすことで肥料や農薬を安くしたり、農産物に付加価値を付けて販売したりする改革を主導する立場にある。そうした改革こそ、経営感覚がある担い手農家からの支持につながるのだが、農協によって危機感の度合いがまったく異なる。
 いまや、農家が農協を選ぶ時代である。農家支援に注力している農協は生き残ることができるし、それを怠っている農協は、農業協同組合としての存在意義を失い、金融事業の分離など、組織の解体が待ち受けている。
 その意味では、農協にとって農家は“お客さん”。農家からの支持率は、農協が生きるか死ぬかを分ける、生命線なのだ。
 本誌は、国内初の試みとして、規模拡大意欲のある担い手農家を対象に緊急アンケートを実施。1925人の農家に農協を格付けしてもらった。「農産物販売力」「肥料など供給力」「農業への融資力」など5部門15項目で評価を行い指数化し、「JA支持率ランキング」を一挙公開した。格付けの対象は127の単位農協である。
 首位に輝いたのは富山県のJAいなば。以下、2位JAあきら白神(秋田県)、3位JA上伊那(長野県)、4位JA岩手ふるさと(岩手県)、5位JAはまゆう(宮崎県)。上位陣はこのような顔ぶれになっている。
 有力農家からの支持が得られない農協は、いずれ沈み行くことになるだろう。

モデル農家が伝授する
門外不出の「稼ぐ秘密」

『週刊ダイヤモンド』2月6日号の第1特集は、「〜攻めに転じる大チャンス!〜儲かる農業」です。

 ジリ貧の農業を儲かる農業へ――。遅ればせながら政治が動き始めました。農業の“健全化”“成長産業化”が進むことは、経営マインドのある農家にとっては、千載一遇のチャンスが訪れている、とも言えます。

 ターニングポイントを迎えたニッポンの農業はどうあるべきなのか。本誌では、昨秋からこの農業特集の企画実現に向けて準備を進めてきました。

 農地中間管理機構(農地集積バンク)に農地の受け手として申請した農家ら1万3450人の名簿を情報公開請求によって取得し、彼らにアンケートを実施しました。経営拡大意欲のある有力農家の皆さんに、「農業で成功する秘訣」「農協の在り方」について、率直な意見を聞いてみたかったからです。

 ただし、情報公開請求で得られる情報は、氏名と住所だけ。これだけITが進化した時代に、「郵送」という極めてアナログな手段でアンケートを行ないました。本当に回答が返ってくるんだろうか――。

 特集メンバーは、内心ヒヤヒヤしながら待っていたものです。

 懸念は杞憂に終わりました。ご回答いたたいだ有力農家数は1925人に上りました。TPP(環太平洋経済連携)で始まる貿易自由化、農政改革行方、農家の世代交代――、農業の激変期に、有力農家の皆さんがどのような経営努力をされているのか、貴重な情報を寄せていただきました。

 本誌では、有力農家の中でも特に高収益なビジネスモデルを構築している農家を「モデル農家」として選出。彼らに、農場経営で稼ぐ秘密を伝授してもらいました。

 また、「絶対に失敗しない農業の始め方」として就農希望者向けのコンテンツも充実させています。就農2年目で年収1000万円を稼ぐ成功例、本誌記者による就農フェア・農場体験ルポなど、農業初心者に役立つ情報も満載です。

 プロ農家、就農希望者、農協関係者――すべての農業関係者の皆様の永久保存版となる特集をお届けいたします。