『週刊ダイヤモンド』10月24日号の第1特集は、「その節税、ありか、なしか?」です。法人は減税、個人は増税——。現政権の方針を一言で表すと、 こうなります。すなわち、われわれの可処分所得は減少傾向にあるわけですが、対抗する術として有効なのが、節税です。そこで、本特集では、サラリーマンか ら富裕層にまで役立つ節税術を幅広く取り上げました。加えて、行き過ぎた節税術は税務当局につぶされることが多々ありますので、取り上げた節税術ごとに天 気マーク(晴・曇・雨)を付けて、今後の見通しを示しています。

 今年初め、一人の保険業界関係者がある南の島に降り立った。日本の南方に位置し、赤道近辺の太平洋に点在する島々、ミクロネシア連邦だ。

 残念ながら、観光でもバカンスでもない。保険会社が入るための保険を提供する、再保険会社をミクロネシアで設立したためだ。

 実は今、「富裕層の間で、節税を目的としたミクロネシアでの法人設立に火が付きつつある」(富裕層ビジネス関係者)という。

 その理由は、ミクロネシアが明らかに日本に狙いを定めた二つの優遇策を用意しているからだ。

 その一つ目は、法人税率の“絶妙な低さ”だ。日本の法人実効税率が30%を超えるのに対して、ミクロネシアは21%。もちろん、もっと税率が低い国はいくらでもあるが、20%以下になると日本のタックスヘイブン(租税回避地)対策税制に引っかかり、日本で課税されてしまう。ミクロネシアの法人税率は “低すぎない”設定なのだ。

 二つ目は、法人税を日本円で納めることができる点だ。「世界でもミクロネシアだけではないか」(同)という高待遇だ。

 富裕層の節税策として、税率が低く、税務当局が補足しにくい海外へ資産フライトするのはよくある手だ。かつてはその“避難先”に、タックスヘイブンの英領ケイマン諸島や英領バージン諸島の名前がよく挙がっていた。

 しかし、前述の対策税制を用意するなど、富裕層に対する包囲網は狭まってきている。また、「ケイマン諸島も最近になって日本との情報交換が始まり、誰が現地法人の実質の株主かが分かるようになってきた」(国税庁OB)。

 そこで、富裕層が目を付ける国もミクロネシアや「セーシェル共和国、パプアニューギニアといった周辺国に広がってきた」(同)というわけだ。

「富裕層包囲網」はこれだけにとどまらない。100万円超の海外送金を申告する「海外送金等調書」、5000万円超の海外資産を申告する「国外財産調書」に加えて、今年7月には「出国税」と呼ばれる制度も始まっている。

 これは、1億円以上の有価証券を持つ富裕層が海外移住する際に、売却前でも含み益に対して所得課税する制度だ。これもタックスヘイブンを使った課税逃れへの対策で、「富裕層の国外脱出の道を閉ざした」ともいわれている。

 このように、近年は矢継ぎ早に富裕層の海外資産に対する監視制度が新設・強化されている。さらに、2016年1月には、年間所得2000万円超で保有資産3億円以上、または1億円以上の有価証券を持つ富裕層に対して、個人版バランスシートの提出を求める「財産債務調書」までスタートする始末だ。