『週刊ダイヤモンド』6月27日号の巻頭特集は「101年目のタカラヅカ ベールに包まれた『継続する力』」。タカラヅカが持つ変革力と人材育成力の実態に迫りました。

 絶大な人気を誇った宝塚歌劇団の星組トップスター、柚希礼音(ゆずき・れおん)が退団した5月10日、有楽町にある東京宝塚劇場の一帯は真っ白に染まった。

 舞台を終えた柚希を見送ろうと、ファンが「卒業」を意味する白い服に身を包み、辺り一面を埋め尽くしたのである。ラストステージは台湾を含め45カ所の映画館でライブ中継され、ライブ観劇者を含めると動員数は2万6000人に上った。

 宝塚歌劇は2014年に100周年を迎えた。

 100周年を支えた柚希が劇団を去った日、100周年の年に就任した花組トップスター、明日海りお(あすみ・りお)は5日後に東京宝塚劇場の初日を迎える公演の稽古に汗を流していた。

 宝塚歌劇は「花」「月」「雪」「星」「宙」の5組で構成され、タカラジェンヌと呼ばれる演者約400人はそのいずれかに所属する。各組約80人。その頂点に立つのがトップスターだ。

 各組は厳格な年功序列のピラミッドになっている。しかし、最年長者がトップスターになるというわけではない。

 5組の中で最も若いトップスターである明日海は30歳前後だろう。組には自分より年上のジェンヌもいる。

 宝塚歌劇には年功序列というヒエラルキーのほかに、実力主義に基づくトップスターシステムが存在しているのである。

 トップスターを含む全てのジェンヌは「生徒」と呼ばれ、彼女たちが「先生」と呼ぶ演出家らスタッフとも上下関係にある。演出家ら先生に指導を仰ぎ、先輩からの指導を真摯に受け止めて、ジェンヌはスターを目指してひたむきに稽古に励んでいく。

 先に「明日海は30歳前後だろう」と表現したが、実のところ、ジェンヌの年齢は公表されていない。本名しかりだ。

 その理由を阪急電鉄常務で宝塚歌劇団理事を務める小林公一は、「宝塚歌劇の舞台は虚構だから」と語る。

 宝塚歌劇の舞台は、未婚の女性だけで演じる。女性が男役を務め、現実の男性以上の男性美で観客を魅了する。しかし彼らは現実には存在しない。虚構の夢を壊さないよう、あえてジェンヌの素性は隠されている。

 年功序列と実力主義が併存するシステムについても、コアなヅカファン(宝塚歌劇のファン)は知るところでも、一般に向けて広く語られることはなかった。

 「宝塚歌劇団」という会社はない。阪急電鉄の一部門であり、阪急電鉄の創遊事業本部が直轄する。宝塚歌劇団、創遊事業本部歌劇事業部、それに阪急電鉄の子会社が加わって宝塚歌劇事業を行っている。

 その宝塚歌劇は決まり事が多い。

 トップスターは常に主役を務める。公演の最後には一番大きな羽根飾りを背負って、一番最後に大階段から下りてくる。こうした宝塚歌劇らしさを守るための決まり事や伝統があるのだ。

 一方、作品作りにおいては、さまざまな題材に挑戦してきている。

 阪急電鉄と宝塚歌劇団の創設者である小林一三は、老若男女が楽しめる国民劇としての舞台を常に作り続ける新作主義を貫いてきた。新作主義もまたタカラヅカの伝統であり、実験精神なくしては成し得ないものである。

 小林が愛した宝塚歌劇は、「箱入り娘」のように阪急電鉄が守り続けてきたが、「ドラ娘」とやゆされることもあった。時代はそんな甘さをいつまでも許してはくれなかった。

 だからといって、「孝行娘」となるために今まで培ったものを捨てる必要はなかった。自前の演出家や演者を持つ垂直統合の内製システム、専用劇場で上演できる環境。これを財産として、正のスパイラルへ持っていけばいいのだ。

 この20年間は、新作を生み続ける「作品力」、年功序列と実力主義の中で磨かれていく「生徒力」、それらの価値を最大化するための営業力を中心とした「総合力」強化の戦いだった。

 100周年を迎えた14年、東西の拠点である宝塚大劇場と東京宝塚劇場は稼働率100%超をたたき出してみせた。