次に取り組んだのはPBの肉じゃがを関西風に見直すことだった。関西で肉といえば牛肉が当たり前。だが、全国共通の商品では豚肉を使用していた。
関西は肉の消費量も多く、とりわけ牛肉を好む食文化がある。石橋氏はそう説明しながら、関西風に変えた試作品を、自信を持って東京の試食会で披露した。しかし、一口食べた鈴木会長に「関西のお客さんは肉が好きなんだろう。これじゃあ、ジャガイモの方が多いじゃないか」と一刀両断に駄目出しをされた。
さらなる改良と鈴木会長の試食を経て、8月に関西限定で売り出された肉じゃがは、瞬く間にヒット商品に。さらに9月には、PBの厚焼き玉子を、だしをたっぷり使っただし巻き玉子に変更。関西地区の玉子焼きの売り上げは、全国1位へと跳ね上がった。
地元の人々の舌になじんだ味へと工夫した限定商品の効果もあって、全国17地区の中でも低迷していた関西地区の既存店日販の伸び率は急上昇。9~12月の4カ月連続1位に輝いた。
商品、組織、コンセプト
時代に対応してすべて見直せ
関西がこれだけ成功を収めたのであれば、取り組みを全国へ展開したいと考えるのは自然の流れ。すぐに、社内から組織を再編したいという声が上がった。
これが、1月に「地域性重視」を掲げ、セブンが組織再編した理由である。一見、全国の組織を9ブロックに見直しただけにも思えるが、実はその背後にある思想そのものが大きく変化している。
従来は、店舗数や現場でのマネジメントといった、いわばセブン側の都合で地域を分けていた。だが、今回のベースにあるのは、地域の客が好む味の違い。「地域の味に、現場の組織を合わせてくださいという、初めての試み」と石橋氏は強調する。
さらに、これまで東京にしかいなかった商品開発の責任者も、北日本エリアを統括する仙台、東日本を統括する東京、西日本を統括する大阪と3カ所に配置。地域ごとの食文化に合わせた商品開発のスピードを加速させ、弁当や総菜などのデーリー商品については、地域対応商品の比率を将来、7割まで高める予定だという。
1月以降、各ブロックでは、関西のように商品の品質を基礎から見直すとともに、地域の味に合わせた商品開発が次々と進められている。
全国どこでも同じ商品を並べ、大量仕入れで調達コストを引き下げ、価格競争力を付ける。小売業の常識から外れたようにも見える今回の改革だが、鈴木会長は「かつては東京の商品が目新しかったので地方でも売れていたが、そんな時代は終わった。常にお客の立場になって考え、時代の変化に対応すればいい」とさらりと語る。
ついには会社のコンセプトまで見直す。24時間営業は珍しいものではなくなった。そこで、10年にコンセプトを「近くて便利」に刷新。CMや店舗の横断幕などに使う言葉を全て変更した。
商品や組織のみならず、会社のコンセプトすら時代に合わせて変化させ続けてきたセブン。変わらないのは「変化に対応しろ」という鈴木会長の哲学だけだ。
鈴木会長がぶち上げた
「脱チェーンストア理論」
『週刊ダイヤモンド』6月6日号は、「流通最後のカリスマ 鈴木敏文の破壊と創造」です。
消費増税や、総合スーパーの不振などに伴って、流通業界は厳しい環境に置かれています。しかし、セブン&アイだけは別格。2015年2月期、営業利益は4期連続で過去最高益をたたき出しています。
しかし、そのトップである鈴木敏文会長の機嫌はよろしくない。というのも、セブン-イレブンがその8割を稼ぎ出すなど好調な一方で、ヨーカ堂は3期ぶりに最終赤字に転落。〝一本足打法〟が鮮明になったからです。
そこで鈴木会長は、「脱チェーンストア理論」宣言をぶち上げました。流通チェーンにとって根幹ともいうべき理論を捨てろとヨーカ堂に迫ったのです。
鈴木会長の真骨頂は、「客の立場に立って考え、時代の変化に対応する」こと。そのためには、「過去の成功体験を捨てて壊し、新たな価値あるものを開発して次々に提供しろ」と訴えます。〝破壊〟と〝創造〟の繰り返しこそが重要だと。
かつて、隆盛を極めた大手流通チェーンが相次いで姿を消したにもかかわらず、勝ち残ってこられた秘密がここにあります。
そこで、特集では鈴木会長のロングインタビューを掲載、勝者である続けるための鉄則や、鋼の結束力を見せる組織について徹底的に分析しました。
また、鈴木会長は今後、何を目指しているのか、流通の将来についても語ってもらっています。
流通最後のカリスマは今、何を考えているのか。流通業界のみならず、他の産業に従事している方にとっても経営やビジネスに関するヒントがたくさん詰まっています。是非、ご覧ください。
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週刊ダイヤモンド2015年6月6日号
「流通最後のカリスマ 鈴木敏文の破壊と創造」
◆Prologue カリスマ鈴木敏文の反省
◆Part1 鈴木敏文インタビュー
◆Part2 勝者の鉄則
◆Part3 鋼の組織力
◆Part4 弛まぬ革新
◆Epilogue カリスマが遺す言葉
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