国内大学の最高峰、東京大学の凋落が始まった──。

東大のシンボルである安田講堂は現在、全面改修中 Photo: 読売新聞/アフロ

 異変は看板学部である法学部で起きた。東大では3年生に進級する際に、学生の希望とそれまでの成績に応じて、専門課程に振り分ける。この「進振り」制度が始まって以来初めて、2013年度に法学部が定員割れを起こしたのだ。

 さらに13年度の大学入試でも、法学部進学希望者向けの文科1類の志願者の倍率が低く、足切りなしというまれな事態が起こった。

 異変は一時的なものに終わらなかった。今年9月に明らかになった15年度の進振りの結果で、法学部が2年ぶり2度目の定員割れとなったのだ。

 司法制度改革で弁護士余りが起きたことが一因ではあるが、事は法学部だけの問題ではなかった。

「今年の入試で、東大の合格目標ラインは下がることになる」。大手予備校である駿台予備学校の石原賢一・進学情報センター長はそう明かす。

 駿台が8月に東大入試実戦模試を実施したところ、志願者数は文科1類で前年比5%減だったのに加え、経済学部進学希望者向けの文科2類、教育学部などへの進学希望者向けの文科3類も6%減少した。東大の文系全般で志願者数が減少しているのだ。東大が公表している志願者数実績の推移を見ても、確かに減少傾向が表れている。

 理系の人気が高まり文系が低迷する「文低理高」に加えて、昨今の受験生は地元志向、安定志向が強い。上京し、浪人してでも超難関校に挑む層が減った。

 東大受験者のボリュームゾーンである地方の秀才たちは、“地元の東大”と呼ばれる地方旧帝大(京都大学、東北大学、九州大学、北海道大学、大阪大学、名古屋大学)ないしは地元の有力大学に進学し、地元有力企業でエリートの道を選ぶことを有力な選択肢とするようになった。

 東大離れを起こしているのは地方の秀才だけではない。有名進学校において、08年時点ではほとんど皆無に近かった海外名門大学合格者が、ここにきて増え始めている。国内でトップクラスの頭脳を持つ超エリート高校生が、東大を蹴って、米国のアイビーリーグなど海外名門大を目指すようになったのである。

 国内大学では今、文系が総じて低迷する中で、学生人気の高い「国際系」学部だけは志願者数を増やし開設ラッシュが繰り広げられている。新興の国際系大学が台頭し、老舗大学も学部新設で対抗。彼らは、在学中の留学は当たり前、外国人留学生比率が2、3割、外国人教員比率4、5割という世界でしのぎを削っている。

 対して東大は外国人留学生比率2%(学部生)、外国人教員比率5%。海外名門大どころか国内の他大に国際化で後塵を拝している。

ビジネスマンの評価で
影が薄い東大
ベスト1の冠なし

 東大はキャリア官僚育成機関としての役割を担う一方で、多くの民間企業に経営幹部となる人材を送り込み政官財での東大ネットワークを形成し、日本の政治、経済を動かしてきた。日本の経済、産業に大きな影響力を持つ商社や銀行には東大出身のトップが多く、東大閥が目立つ。

 しかし、個々のビジネスマンに評価を委ねると、その地位は決して盤石ではない。

 本誌編集部では、ビジネスマン1854人に大学に対する評価についてアンケートを実施した。東大は、使える人材が増えた大学で11位。使えない人材が増えた大学で不名誉な1位となった。

 東大に対する期待値の高さが厳しい評価を導きやすい点はあるが、ランキングを見ると、京都大学、一橋大学、早稲田大学、慶應義塾大学らトップ大学の結果と比べても分が悪い。使える人材の増減の他に、総じて使える人材が多い大学、使えない人材が多い大学をそれぞれ評価したところ、使える人材の東大の得点はこれら4大学に続く5位にとどまった。

 さらに詳細な評価ランキングを見ると、使えるグローバル人材輩出大学では10位、使える理系人材輩出大学では4位、使える経営幹部人材輩出大学では3位。1位の冠がどこにもなく、影が薄い。