主任検査官ごとの
グループ分けは
県内シェアが基準

 もっとも、空前の好決算をたたき出している地銀に対し、金融庁が力ずくで再編を進められるはずはない。しかし、金融庁がこれまでにも陰に陽に散々、再編の必要性を説いてきたことを考えると、少なくとも地銀の目には、同庁の目指すゴールに「再編」の2文字があるのがはっきり見て取れる。

 地方では今後、人口が急減していくというのに全国にはいまだ105行もの地銀がひしめいているからだ。さらに巨人、ゆうちょ銀行が新規事業に参入しようものなら、各行への打撃は計り知れない。

 今回、規模も地域もバラバラの地銀がグループ分けされたことで、それぞれの担当主任検査官としても、地銀と議論がしやすくなる。多かれ少なかれ同じような悩みを抱えている地銀同士でグループ分けしているはずだからだ。

 それだけに、今後は「グループ内外の地銀と比べられながら、『5〜10年先もこのままで大丈夫ですか? 再編しなくても生き残れるんですか?』と暗に、しかし、しつこく詰められるようになるのは明らか」。地銀役員の頭の中ではこうした警報が鳴りやまない。

 そのタフな検査に備えるためには、まずは金融庁の手の内を知るべく、同庁が何を基準に地銀をグループ分けしたか把握する必要がある──。

 そう考えたのは一人二人ではなかったようで、4月下旬から、「おたくは主任検査官、誰になった?」との問い合わせが親密行の間で飛び交うことになった。

 ところが、である。この問い合わせが、地銀界を思わぬ混乱に陥れた。「似たような規模の地銀に聞いたら、主任検査官がうちと違った」(地銀役員)からである。

 金融庁幹部によれば、グループ分けの基準は「単純に規模。分け方に意図的な意味付けはない」。しかし、それが本当だとすれば、その銀行は当然、同じグループに入ってくるはずだというのだ。

「いったい、金融庁はどうやってグループ分けしてるんだ」「もしかすると、森ペーパーと関連があるのか?」。地銀界の困惑と動揺は依然、拭い去れぬままだ。

 そこで本誌は関係者への取材を基に、主任検査官別の数十行のリストを作成、金融庁のグループ分けの基準を炙り出した。

 まず、当初グループは5つと伝えられたが、検査チームの一つは「検査結果の分析に当たる」(金融庁幹部)といい、実際には地銀は4つに分けられていることが本誌の銀行担当の取材で明らかとなった。どうやら森ペーパーとの関連はなく、確かに規模をベースにグループ分けされていることは間違いない。

 1つ目は、地銀最大手の横浜銀行など、預金残高6兆円以上で、「地銀界の6兆円クラブ」に入るメガ地銀だ。単独でも生き残れるが、その気になれば数行を率いて大型再編も主導できるレベルだ。

 残りの3つは、「県内トップの殿様地銀グループ」など、規模は規模でも預金と貸出金の県内シェア別に分けられていることが明らかとなったが、詳しくは本誌を読んでいただきたい。

 まさに今、検査局が各グループの地銀にヒアリングしているのはガバナンス体制や、反社会的勢力との取引、投資信託販売など手数料ビジネスの現状である。

 金融庁は本気だ。前述したように地銀の恐れる生き残り策の議論が、いつ始まるとも限らない。地銀再編の最終章が幕を開けている。

地銀の瀬戸際、メガバンクの憂鬱

 『週刊ダイヤモンド』5月31日号の特集は「地銀の瀬戸際、メガバンクの憂鬱」です。絶好調決算の裏側にある銀行業界の苦悩を追いました。

 まさにわが世の春。銀行業界では今月、史上最高益を記録した地方銀行、メガバンクが続出しました。

 しかし、当の本人たちはあまり喜んではいません。それが刹那的な春だと知っているからです。

 今回の好決算はそもそも、株高と融資先の業績回復によってかさ上げされたにすぎません。

 それどころか、これから全国各地で人口が急減して、2040年には半数の自治体が消滅の危機にひんするとの試算まで出てきました。全国に105行もの地銀がひしめいて、かねてオーバーバンキング(銀行過剰)が問題視されてきた地銀界は、さらなる過当競争に突入するのは間違いありません。今後、数年間で経営が行き詰まる地銀が出てくるのは必至でしょう。

 そうなれば、疲弊の度合いを強める地方経済は一気に崩壊のふちへと追いやられてしまいます。そうはさせまいと、しびれを切らした金融庁が、今まさに、あの手この手で地銀に再編を迫っているというわけです。

 好決算ながら、実は瀬戸際に追い詰められているのが、地銀の本当の姿なのです。

 メガバンクも3行全てが過去最高益でしたが、三井住友フィナンシャルグループの宮田孝一社長が「この利益水準は持続的なものではない」と語るように、こちらも慎重姿勢を崩しません。

 メガバンクが憂鬱なのは、再編を迫られている地銀とは理由が少々異なります。預金を集めて融資に回すという銀行の本業の根幹が揺らいでいるのです。

 最大手の三菱東京UFJ銀行は、持ち株会社の三菱UFJフィナンシャル・グループが1兆円近い最終利益をたたき出しながら、実は、国内において、本業である融資や国債運用の利回りを経費が上回る、いわゆる「逆ざや」というやつに、初めて転落してしまいました。

 表向きは絶好調の銀行業界。その水面下で今、何が起こっているのか。瀬戸際の地銀と、憂鬱なメガバンクの内幕を徹底取材しました。