中国政府による4兆元投資の開始から6年。空前の投資ブームのひずみが中国全土のそこかしこで表れている。本誌取材チームは全20都市へ潜入し、大規模投資の後遺症が残る現場を取材した。

 中国南西部、貴州省の省都・貴陽から西に車を走らせること約5時間。舗装もろくにされず砂埃が舞う道の先、避暑地として知られる涼都・六盤水の中心街が見えてきた。

 別名「石炭の都」とも呼ばれるここ六盤水を訪れた目的は一つ。今の中国経済を悩ませる「4兆元対策」の投資先の一つであり、その後遺症が如実に表れていると聞いたからだ。

 リーマンショック直後の2008年11月、中国政府は総事業規模4兆元(約64兆円)の景気対策を発表した。そこに盛り込まれたのは、鉄道、道路、空港、送電網などのインフラ整備を中心とした国家プロジェクトだ。

 当時としては、これ以外に考え得る対応策はなかっただろう。だがこれは、実際には4兆元を優に超える、制御不能な〝投資ブーム〟を中国全土に巻き起こした。いわば、中国版「列島改造論」である。

 六盤水からさらに30分も走っただろうか。たどり着いた炭鉱では、景気減速や環境汚染問題による代替エネルギーシフトなどの影響で石炭価格は既に急落しているにもかかわらず、いまだ大規模な設備増強が各所でなされていた。

 この採炭会社は民間と国有の合弁とあって、最近も大手国有銀行から数億元の新規融資を受けたばかり。責任者によれば、「国の補助もあるし、個人投資家からの投資も結構あるから問題ない」という。

 だが、民間では既に淘汰の足音が聞こえ始めている。今年1月には、山西省の民営石炭会社が事実上のデフォルト(債務不履行)に陥り、ここに投資していた理財商品も元利償還ができないと騒ぎになった。

アップルを凌ぐシャオミー
台頭する新世代企業、淘汰される製造業

 中国では、モバイルインターネット化の波を受け、新たなビジネスが続々と生まれている。新しい中国の成長モデルの旗手たちだ。

 初回販売分10万台がわずか1分26秒で〝蒸発〟──。今や中国でアップルのiPhoneを上回るほどの人気を博しているのが、北京小米科技(シャオミー)のスマートフォンである。

 あっという間に完売したモデルは、昨年10月に発売した最新端末「シャオミーMi3」。今年3月にはシンガポールでも発売したが、これも瞬く間に売り切れた。

 オンライン販売のみのため、毎週、在庫が補充されるたびに瞬間的に〝蒸発〟してしまう。転売目的の業者が専用ツールを使って在庫を確保しようとするため、ますます入手困難になっている。

 シャオミーは、2010年に設立されたばかりの企業だが、13年の端末の販売台数は1870万台を超える。売上高も316億元(約5000億円)に達しており、今年は5000万~6000万台を狙うと豪語している。

 人気は、洗練されたデザインを持つ高性能端末でありながら、iPhoneの半値で購入できてしまうコストパフォーマンスの高さにある。それができるのは、工場も店舗も自前で持たないからだ。

 生産はiPhoneの受託製造会社(EMS)を利用。広告費もほとんど掛けず、中国版ツイッターの「微博(ウェイボー)」を通じたプロモーションが主である。発注を小まめにかけており、在庫リスクも少なくしている。

経済、産業、社会、政治、外交
中国ビジネスに必携の「バイブル」

『週刊ダイヤモンド』5月24日号は「新・中国バイブル」です。なぜ、日中関係が冷え込んでいるこの時期に中国の特集なのかーー。

 2012年の尖閣問題以降、中国の強硬な姿勢に「中国アレルギー」に陥っている人も多いのではないでしょうか。

 しかし、現実を冷静に見詰めれば、もはや「市場」としての中国の存在感は無視できるものではありません。事実、日本の対中投資が鈍化している間に、日本以外の海外からの投資は急速に伸びているのです。

 今、日本企業がすべきなのは、政治に振り回されることではなく、しっかりと情報を収集しリスクを見極め、商機を掴むことです。

 そこで今回は、本誌記者が中国20都市に散り、徹底した現地取材を敢行しました。

 そこには、2008年の世界金融危機を受けて実行された4兆元(当時のレートで約57兆円)の景気対策のツメ跡が広がっていました。

 空前の投資ブームは、中国各地に「鬼城」と呼ばれるゴーストタウンを作り出したばかりでなく、投資資金を調達するための手段としてシャドーバンキングも生み出しました。本特集ではこれら4兆元投資の後遺症の現場を生々しいルポでお届けします。

 目にしたのは、負の側面ばかりではありません。モバイルインターネット化の波に乗って新しいビジネスモデルを構築し台頭する新世代の企業、「ネクストドラゴン」の躍進にも驚かされました。

 加えて、日中関係の冷え込みなど物ともせず、着々と中国で地盤を固める日系企業の奮闘に勇気づけられました。それらの企業に共通しているのは、信頼できる現地のパートナーを見つけていることです。

「ビジネスは国と国ではない。人と人の付き合いだ」と熱く語る日系企業の経営者の言葉が印象に残りました。

 このほか、習近平総書記とはどんな人物で中国をどこに導こうとしているのか、日中関係改善の糸口はあるのかなど、政治・外交についても網羅しました。

 最新・リアルな中国情報満載の「新・中国バイブル」で、あらためて中国という国の真の姿を知っていただければ幸いです。