それをトップ30のランキングにしたのが、右の表だ(「トップ50までの完全版」はこちらで11月11日以降、公開)。

 出身企業として日本の電機メーカーが多く名を連ねるが、旧三洋電機も合わせると、パナソニック出身者が6人と最も多い。次に多いのがキヤノン、NEC、コニカミノルタで3人ずつだ。

 一方、技術者の専門分野も多岐にわたるが、デジタルカメラが6人と最多。まだ日本がサムスンに勝っているといわれる数少ない分野の一つ、光学分野がトップというのは非常に興味深い結果だ。

 デジカメ技術者たちのサムスンでの特許出願期間を見ると、最近も出願している人がほとんどのため、今もサムスンに在籍している可能性が高い。日本をキャッチアップするために、近年重点的に人材獲得に力を入れてきた結果が表れたのかもしれない。

 さらに直近で言うと、「サムスンはジェスチャーなどのユーザーインターフェース分野に注力している」(知的財産アナリストの武藤謙次郎氏)という。

買収される社員
300万円で内部資料が流出

 日本人技術者がサムスンへと流出してしまうことは、二重の意味で日本企業に打撃を与えてきた。一つは当然、技術者自身と日本企業の知識やノウハウがサムスンの手に渡ることだが、さらに深刻な事態が発生している。

「サムスンへ転職する日本人の中には、〝お土産〟をどっさり持って韓国へ渡っている人もいます」

 あるサムスン日本人技術者は、そう暴露する。決して日本人同士で打ち明けたりはしないが、サムスンで生き残るための切り札として、辞める際に勤めていた日本企業の内部資料を持ち出しているというのだ。

 もちろん、これは見つかれば即アウトの違反行為だ。しかし、最近日本の家電メーカーからサムスンに転職してきた複数の技術者たちによれば、いまだに「内部資料をハードディスクに丸ごとコピーして、いとも簡単に持ち出せてしまう」状況なのだという。

 そんなセキュリティの甘さだから、サムスンへの転職者以外からも機密情報が漏れ出している。

 ある人物は、部外者にもかかわらず日本を代表する家電メーカーの内部資料を入手することに成功したという。その方法とは、「1ドキュメントいくらという交渉で、社員を買収して持ち出させる」という禁断の手だ。

「蛇の道は蛇。見極めが難しいが、絶対に会社へ通報しないと思われる、モラルが低そうな社員を見つけて声をかける」のだと声を潜める。そのときは300万円ほどの報酬で、まとまった内部資料を手に入れたという。最終的に、その資料はサムスンの手に渡ったのだ。

 転職者、社員の倫理観が問われる問題ではあるが、経営者たちのマネジメント不足が情報流出を招いている側面も否定できない。
「日本企業は技術者への評価が低過ぎる」。これはサムスンに渡った技術者はもちろん、日本企業からも聞こえてくる不満の声だ。サムスンはその間隙を縫ってヘッドハントを仕掛けてくる。

 また、「サムスンの情報管理が厳しいというが、日本企業が緩過ぎる」(サムスン技術者)という指摘も多く見受けられる。

 貢献度に応じた適切な技術者の評価と、情報管理の問題。これらの情報流出リスクをコントロールしなくては、サムスンに手の内をさらけ出したまま戦うことになってしまう。そして、残念ながら多くの日本企業が今まさにその状況だ。現状ではサムスンとまともに勝負することすら、おぼつかない。